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ふたたび攻防戦
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商品の説明を聞いていたノエラが、突如声を荒らげた。
「手に入るのが来年ですって? それじゃ、この冬のパーティに間に合わないわ!」
リエルはじっとノエラを見つめて、淡々と返事をする。
「みなさん、同じことを言われます。けれど、大変稀少な品物ですからどうしても時間がかかってしまうのです」
「あたしを優先して。あたしは王太子妃なのよ」
「誠に申しわけございませんが、王室の人間も貴族も民もすべて、商売においては平等でございますから」
「お金ならいくらでも積むわ。他の客たちより先に作りなさい!」
前のめりになって命令するノエラを見て、リエルはクスッと笑った。
ペンにインクをつけて、紙にさらさらと数字を記す。
リエルはその紙をふたりに向けて、すっとテーブルに置いた。
「では最短納期でこちらの額になりますが、いかがでしょうか?」
それを見たアランは絶叫した。
「ふ、ふざけるな! ノエラのドレス10着分じゃないか!」
リエルは平静を保ちながら続ける。
「希少価値の品ゆえに価格が高騰しております。加えて職人は不眠不休で生産しておりますから給金も当然上乗せしなければなりません。そこに、さらにノエラ妃殿下のための作業時間を確保するにはそれ相応の代金が必要となりますので、これが妥当かと」
アランは憤怒しすぎて言葉を失った。
そのとなりでノエラが感情的に言い放つ。
「リエル、あなた性格が悪いわよ。流行りの品だからって荒稼ぎをしようとしているのでしょ?」
ノエラは腕組みをして呆れた顔で話す。
リエルは一瞬真顔になり、胸中で呟いた。
(裏切り者ふたりの前にいるんだもの。どんな聖人も性格が悪くなるわよ)
そして、リエルはふたたび笑顔になる。
ノエラは卑しい者を見る目つきでふっと微笑を浮かべた。
「商人になったら下品な考え方になるのね。あなたから令嬢の誇りがまったく感じられないわ」
リエルは笑顔のまま沈黙する。
「そうやって相手をいじめて楽しいの? あなたは人としての心をなくしてしまったのね。昔のリエルはもっとあたしに優しくしてくれたのに」
ノエラの話が途切れたことを確認すると、リエルはさらりと返答した。
「その話、今必要ですか?」
「え?」
ノエラは目を見開いて絶句した。
「私が求めている返答は、この商品を購入されるかどうかということです。他の話はいりませんわ」
「なっ……!」
「で、どうされますか?」
ノエラは返す言葉が見つからないらしく、呆然としている。
アランも険しい表情をしているが、リエルは笑顔を崩さない。
(何なのよ! どうして悔しそうにしないの? そんなことないって泣きついてきなさいよ!)
ノエラは余裕の笑みを浮かべるリエルを見て苛立ちがつのった。
(今ここでストールを断ってやれば泣きついてくるかしら?)
ノエラはわずかに口角を上げた。
「この値段じゃ手が出ないわよねえ。あたしが身につければすぐにこの国の社交界で広まるというのに」
ノエラはちらっとリエルの様子をうかがう。
リエルの表情から笑みが消える。
(値切るつもりなのね。でもそれは顧客との信頼関係が築かれている場合に限るわ)
リエルは胸中でそっと呟き、きっぱりとノエラに言い放った。
「では今回のご購入はなしということですね」
「えっ!?」
「申しわけございませんが、この値段より安価でお売りすることはできません。他にもストールをお求めの方が多くいらっしゃいますので、これにて失礼いたします」
さっさと片付けて帰ろうとするリエルを、ノエラが制止した。
「待ちなさいよ!」
「手に入るのが来年ですって? それじゃ、この冬のパーティに間に合わないわ!」
リエルはじっとノエラを見つめて、淡々と返事をする。
「みなさん、同じことを言われます。けれど、大変稀少な品物ですからどうしても時間がかかってしまうのです」
「あたしを優先して。あたしは王太子妃なのよ」
「誠に申しわけございませんが、王室の人間も貴族も民もすべて、商売においては平等でございますから」
「お金ならいくらでも積むわ。他の客たちより先に作りなさい!」
前のめりになって命令するノエラを見て、リエルはクスッと笑った。
ペンにインクをつけて、紙にさらさらと数字を記す。
リエルはその紙をふたりに向けて、すっとテーブルに置いた。
「では最短納期でこちらの額になりますが、いかがでしょうか?」
それを見たアランは絶叫した。
「ふ、ふざけるな! ノエラのドレス10着分じゃないか!」
リエルは平静を保ちながら続ける。
「希少価値の品ゆえに価格が高騰しております。加えて職人は不眠不休で生産しておりますから給金も当然上乗せしなければなりません。そこに、さらにノエラ妃殿下のための作業時間を確保するにはそれ相応の代金が必要となりますので、これが妥当かと」
アランは憤怒しすぎて言葉を失った。
そのとなりでノエラが感情的に言い放つ。
「リエル、あなた性格が悪いわよ。流行りの品だからって荒稼ぎをしようとしているのでしょ?」
ノエラは腕組みをして呆れた顔で話す。
リエルは一瞬真顔になり、胸中で呟いた。
(裏切り者ふたりの前にいるんだもの。どんな聖人も性格が悪くなるわよ)
そして、リエルはふたたび笑顔になる。
ノエラは卑しい者を見る目つきでふっと微笑を浮かべた。
「商人になったら下品な考え方になるのね。あなたから令嬢の誇りがまったく感じられないわ」
リエルは笑顔のまま沈黙する。
「そうやって相手をいじめて楽しいの? あなたは人としての心をなくしてしまったのね。昔のリエルはもっとあたしに優しくしてくれたのに」
ノエラの話が途切れたことを確認すると、リエルはさらりと返答した。
「その話、今必要ですか?」
「え?」
ノエラは目を見開いて絶句した。
「私が求めている返答は、この商品を購入されるかどうかということです。他の話はいりませんわ」
「なっ……!」
「で、どうされますか?」
ノエラは返す言葉が見つからないらしく、呆然としている。
アランも険しい表情をしているが、リエルは笑顔を崩さない。
(何なのよ! どうして悔しそうにしないの? そんなことないって泣きついてきなさいよ!)
ノエラは余裕の笑みを浮かべるリエルを見て苛立ちがつのった。
(今ここでストールを断ってやれば泣きついてくるかしら?)
ノエラはわずかに口角を上げた。
「この値段じゃ手が出ないわよねえ。あたしが身につければすぐにこの国の社交界で広まるというのに」
ノエラはちらっとリエルの様子をうかがう。
リエルの表情から笑みが消える。
(値切るつもりなのね。でもそれは顧客との信頼関係が築かれている場合に限るわ)
リエルは胸中でそっと呟き、きっぱりとノエラに言い放った。
「では今回のご購入はなしということですね」
「えっ!?」
「申しわけございませんが、この値段より安価でお売りすることはできません。他にもストールをお求めの方が多くいらっしゃいますので、これにて失礼いたします」
さっさと片付けて帰ろうとするリエルを、ノエラが制止した。
「待ちなさいよ!」
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