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もう誰にも邪魔させない【アラン&ノエラ】

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 ディアナ王国の王都ではこの日、アランとノエラの結婚式とパレードが執り行われた。
 ふたりはたくさんの花で飾られた屋根のない馬車に乗り、笑顔で人々に手を振っている。
 高らかな歓声とともに拍手が響きわたる。

(これであたしはこの国でもっとも高貴な女になったのよ。殿下はあたしひとりを愛してくださってるわ)

 純白のドレスに身を包んだノエラは満足そうに笑顔を振りまく。

(リエル、あなたは浮気者の皇太子と一緒になっても永遠に真実の愛を手に入れられないわね)

 ノエラは笑顔の裏で欲求が満たされた喜びを感じていた。

(この先、パーティであなたと出会うのが楽しみでならないわ。まあ、それまでに皇太子に捨てられなければいいけどね)

 ノエラはとなりにいるアランの腕をぎゅっと掴んでくっついた。

「どうしたんだ? ノエラ。疲れたのか?」
「いいえ。あたくしは世界一幸せな花嫁だと思って感動しているんです」
「そうか。俺も君を選んでよかった。幸せになろう」
「ええ、幸せになりますわ」

 ノエラはアランにぴったりくっついて、にやけが止まらなかった。


 この結婚式を見守る人々の中に貴族の一家がいた。
 カーレン侯爵家の人々だ。

「くっ、なんてことだ。本来ならリエルの結婚式なのに」

 父は悔しそうに舌打ちする。
 すると継母が真顔で言った。

「わたくしたちは皇太子に期待しましょ」
「そんな不確かなことに期待できるか! だいたいリエルは手紙ひとつも寄越さないのだぞ」

 そばで黙って聞いているのはリエル弟のセビーだ。
 彼は何も言わずにリエルから届いた手紙のことを思い浮かべる。
 差出人はリリー(花の名前)だった。

(まあ、お姉さまが隠したがっているなら言う必要もないかな)

 セビーはちらりと両親を見た。
 リリーという名から手紙が届いたことに父も母も関心はなかった。
 なぜなら親戚にいる従妹からだと思ったからだ。

(それにしてもお姉さまが商売をしているとは、なかなか面白そうだなあ)

 セビーは真顔でパレードを眺めながら、そんなことを考えていた。
 そんなとき、近くでよその貴族の会話を耳にした。

「サーベル領の話を聞いたか?」
「ああ。アラン殿下のとっさの判断で領地の民は飢えずに済んだらしい」
「まったく、素晴らしいお方だな。最近はユリウス殿下の支持者が多いと聞くが、我々はアラン殿下を支持しよう」
「ああ、そうだな」

 セビーは特に反応することなく彼らの話を黙って聞いた。
 だが、その胸中は冷めていた。

(本当に外面のいい人だよなあ)

 結婚式の途中で突如乱入があった。
 アランとノエラの馬車に石が投げつけられたのだ。
 貧しい身なりをした民が数人、声を荒らげている。

「俺たちはパンも食えないんだぞ!」

 町の人たちはひそひそと話した。

「あれはルカン地区の輩じゃないか?」
「こんなめでたい日になんと無礼な奴らだ」

 大声で怒鳴っていたルカン地区の民たちは騎士たちに捕らえられた。
 一方、馬車に乗っていたアランとノエラはほとんど歓声で気にならなかったが、ひときわ大きく聞こえてきた声に反応した。

 ノエラがクスクス笑う。 

「いやあねぇ。パンがなければお菓子を食べればいいのに」
「はははっ、まったくその通りだな」

 アランはノエラの肩を抱いて同意した。
 こうして、ふたりの結婚式はさまざまな民の声であふれていたが、無事に終えたのだった。

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