66 / 110
どうぞお幸せに
しおりを挟む
宣伝を兼ねたパーティが終わり、日常が戻ったかに見えた。
しかし、あのパーティであまりに有名になってしまったザスター商会は、ライバルからの襲撃に遭ってしまった。
書類に目を通すリエルの横で、カイルは疲れた顔で椅子にだらりと座っていた。
「はぁ……ドグラ商会が乗り込んできたときにはどうなるかと思いました。リエルさまのおかげで助かりました」
先ほど突然ドグラ商会の人間が怒鳴り込んできて、今すぐカリスの商売をやめろと言い出した。
その理由はドグラ商会の羊毛に注文が入らなくなったためだ。
この時期から貴族令嬢たちの羊毛製品の注文が殺到するはずだが今年はいまいちで、その理由がみんなザスター商会へ流れているということだった。
「でも、いいんですか? ドグラ商会にもカリス製品を扱えばいいだなんて言って」
「ええ、いずれどこもカリスを扱うようになるわ。うちが独占することはできないしね」
淡々と答えるリエルにいまだカイルは不服そうにしている。
「ドグラ商会のことだからきっとなるべく費用を抑えて大量生産するでしょうね。あちらは大きな商会でお金もいっぱいあるからなあ」
「いいのよ。うちは質で勝負すればいいわ。カリス製品といえばザスター商会という箔をつければいいの」
リエルの堂々とした発言に、カイルは心底驚いた様子で目をぱちくりさせている。
「どうしたの?」
「いえ、あの……リエルさまって本当に貴族ですか? 商売人の血を引いているんじゃ?」
「昔から商売事が好きでそういった本をよく読んでいたの」
リエルは笑顔でさらりと言った。
カイルは「なるほど」となんとなく納得する。
(回帰前に起こったことだからわかるなんて言えないわ)
リエルは複雑な表情で笑う。
(けれど、私が死んだ日から先はわからないわ。私の未来はどうなるのか、そしてアランとノエラはどうなるのか)
がちゃりと扉が開いて、買い物に行っていたエマが戻ってきた。
エマは商会に届いた手紙を仕分けして、一通をリエルに渡す。
「リエルさま、セビ―さまからのお返事ですよ」
「ありがとう」
リエルは封筒を開封し、手紙に目を通す。
そして穏やかな笑みを浮かべた。
(サーベル領の被害はそれほど大きくならずに済んだのね。ユリウスがしっかり対策をしてくれたんだわ)
リエルは続きを読んで真顔になった。
(王宮内は少し混乱しているようね。思った通り、アランとユリウスで支持者が真っ二つに割れているわ。もしかしたら、ユリウスに傾いているかも)
そして、リエルはにやりと口角を上げる。
(アランとノエラの結婚式があるのね)
そうなることは予想していたが、順調そうで何よりだ。
エマが紅茶を淹れ、テーブルに皿を並べながら声をかける。
「今日はショコラを焼いてみましたー」
「うわあ、美味しそうだ」
カイルは最近おやつの時間が楽しみで仕事をしているらしい。
エマが明るい声でリエルを呼ぶ。
「リエルさま、お茶が入りましたよ」
「ええ、すぐに行くわ」
リエルは手紙を封筒に入れて棚の引き出しに仕舞った。
そして、ふっと笑いながら呟く。
「アラン、ノエラ、どうぞお幸せに」
リエルはくるりと背中を向け、エマとカイルのところへ向かった。
しかし、あのパーティであまりに有名になってしまったザスター商会は、ライバルからの襲撃に遭ってしまった。
書類に目を通すリエルの横で、カイルは疲れた顔で椅子にだらりと座っていた。
「はぁ……ドグラ商会が乗り込んできたときにはどうなるかと思いました。リエルさまのおかげで助かりました」
先ほど突然ドグラ商会の人間が怒鳴り込んできて、今すぐカリスの商売をやめろと言い出した。
その理由はドグラ商会の羊毛に注文が入らなくなったためだ。
この時期から貴族令嬢たちの羊毛製品の注文が殺到するはずだが今年はいまいちで、その理由がみんなザスター商会へ流れているということだった。
「でも、いいんですか? ドグラ商会にもカリス製品を扱えばいいだなんて言って」
「ええ、いずれどこもカリスを扱うようになるわ。うちが独占することはできないしね」
淡々と答えるリエルにいまだカイルは不服そうにしている。
「ドグラ商会のことだからきっとなるべく費用を抑えて大量生産するでしょうね。あちらは大きな商会でお金もいっぱいあるからなあ」
「いいのよ。うちは質で勝負すればいいわ。カリス製品といえばザスター商会という箔をつければいいの」
リエルの堂々とした発言に、カイルは心底驚いた様子で目をぱちくりさせている。
「どうしたの?」
「いえ、あの……リエルさまって本当に貴族ですか? 商売人の血を引いているんじゃ?」
「昔から商売事が好きでそういった本をよく読んでいたの」
リエルは笑顔でさらりと言った。
カイルは「なるほど」となんとなく納得する。
(回帰前に起こったことだからわかるなんて言えないわ)
リエルは複雑な表情で笑う。
(けれど、私が死んだ日から先はわからないわ。私の未来はどうなるのか、そしてアランとノエラはどうなるのか)
がちゃりと扉が開いて、買い物に行っていたエマが戻ってきた。
エマは商会に届いた手紙を仕分けして、一通をリエルに渡す。
「リエルさま、セビ―さまからのお返事ですよ」
「ありがとう」
リエルは封筒を開封し、手紙に目を通す。
そして穏やかな笑みを浮かべた。
(サーベル領の被害はそれほど大きくならずに済んだのね。ユリウスがしっかり対策をしてくれたんだわ)
リエルは続きを読んで真顔になった。
(王宮内は少し混乱しているようね。思った通り、アランとユリウスで支持者が真っ二つに割れているわ。もしかしたら、ユリウスに傾いているかも)
そして、リエルはにやりと口角を上げる。
(アランとノエラの結婚式があるのね)
そうなることは予想していたが、順調そうで何よりだ。
エマが紅茶を淹れ、テーブルに皿を並べながら声をかける。
「今日はショコラを焼いてみましたー」
「うわあ、美味しそうだ」
カイルは最近おやつの時間が楽しみで仕事をしているらしい。
エマが明るい声でリエルを呼ぶ。
「リエルさま、お茶が入りましたよ」
「ええ、すぐに行くわ」
リエルは手紙を封筒に入れて棚の引き出しに仕舞った。
そして、ふっと笑いながら呟く。
「アラン、ノエラ、どうぞお幸せに」
リエルはくるりと背中を向け、エマとカイルのところへ向かった。
2,115
お気に入りに追加
5,436
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
◆ベリーズカフェにも投稿しています
公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す
金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。
今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。
死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。
しかも、すでに王太子とは婚約済。
どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。
ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか?
作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。
(完結)何か勘違いをしてる婚約者の幼馴染から、婚約解消を言い渡されました
泉花ゆき
恋愛
侯爵令嬢のリオンはいずれ爵位を継ぐために、両親から屋敷を一棟譲り受けて勉強と仕事をしている。
その屋敷には、婿になるはずの婚約者、最低限の使用人……そしてなぜか、婚約者の幼馴染であるドルシーという女性も一緒に住んでいる。
病弱な幼馴染を一人にしておけない……というのが、その理由らしい。
婚約者のリュートは何だかんだ言い訳して仕事をせず、いつも幼馴染といちゃついてばかり。
その日もリオンは山積みの仕事を片付けていたが、いきなりドルシーが部屋に入ってきて……
婚約解消の果てに、出ていけ?
「ああ……リュート様は何も、あなたに言ってなかったんですね」
ここは私の屋敷ですよ。当主になるのも、この私。
そんなに嫌なら、解消じゃなくて……こっちから、婚約破棄させてもらいます。
※ゆるゆる設定です
小説・恋愛・HOTランキングで1位ありがとうございます Σ(・ω・ノ)ノ
確認が滞るため感想欄一旦〆ます (っ'-')╮=͟͟͞͞
一言感想も面白ツッコミもありがとうございました( *´艸`)
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる