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皇太子への想い③
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「私とふたりで会っているところを見られたら、妙な噂が広がるわよ」
リエルはわざとグレンを半眼で見つめて言った。
するとグレンは思わぬことを言い放った。
「そのときは堂々と恋人宣言してやろう。次の皇室主催のパーティではリエルと一緒にいるつもりだしね」
リエルはどくんっと鼓動が鳴った。
これは先ほどのドキドキした気持ちとは違う、ひやりとした感情だ。
忌まわしい記憶がよみがえる。
アランとともに王太子妃として出席した、あの地獄のパーティである。
見知らぬ男たちとともに不倫現場を作り上げられ、アランに目撃されたあの皇室主催のパーティ。そこに、グレンはいなかった。
(思い出すと吐き気がするわ)
複雑な表情で黙るリエルを見て、グレンは眉をひそめた。
「もしかして、いやか?」
「違うの。約束は守るわ。けれど、あなたはそのパーティに出席しなかったんじゃ」
「え?」
グレンは目を丸くする。
リエルはハッとして口をつぐんだ。
(うっかり回帰前のことを口走るところだったわ)
リエルは慌てて誤魔化す。
「あなたはこういうパーティに出ないと思っていたの。そういう噂を聞いていたし」
「出るつもりはなかったけど、仕方がないんだ」
その言葉にリエルは不思議に思い、首を傾げる。
グレンはリエルをじっと見つめて笑顔でさらりと言った。
「早く君と一緒にパーティへ参加したいから」
「え……」
しばらく、ふたりのあいだに沈黙があった。
リエルはふたたび胸が熱くなり、ドキドキしている。
グレンは穏やかに微笑んでいたが、やがて肩をすくめて言った。
「だって面倒だろ。いまだに父が縁談話を持ってくるんだ」
「あ、そう……」
リエルは拍子抜けしたようにグレンを半眼で見つめた。
(私ったらドキドキしてバカみたいだわ)
にっこりと笑顔を向けるグレンに対し、リエルは複雑な表情をする。
「余計なことかもしれないけど、縁談は真面目に考えたほうがいいわよ。この国の将来のために」
「うーん。でも、なかなかいないんだよね。こんなでもいいって言ってくれる寛大な人が」
わざわざ自分を指差してそんなことを言うグレンに、リエルは呆れ返った。
「あなたが言うとイヤミでしかないわよ」
「婚約が決まってから幻滅することになったら可哀想だろ」
「そんなことを言っていたら永久に見つからないわよ」
「そのときは従弟に皇帝になってもらおう」
「あなたね……」
リエルは呆れ顔でため息をつく。
(本当にアランとは別の意味でやる気がない人ね)
アランは王になりたいがまともに仕事をしない。
だが、グレンは仕事をしっかりする割にそれほど皇帝の座に執着していないようだ。
「そうだ。今度、皇都に美味いレストランがあるからそこで食事をご馳走しよう」
いきなり話題を変えられた。
しかし、それはそれで嬉しい。
「それは楽しみだわ。仕事を頑張れそう」
「うん。頑張って」
グレンはくるりと向きを変えて離れる瞬間、リエルの頭をぽんっと撫でた。
それから彼は軽く手を振って立ち去っていった。
リエルは呆気にとられてぼんやり突っ立っている。
撫でられた頭に手をやると、急に恥ずかしくなってきて頬を赤らめた。
「……子どもじゃないんだから」
少しむっとしたけれど、すぐに笑みがこぼれた。
もう、胸がざわつくことはなかった。
リエルはわざとグレンを半眼で見つめて言った。
するとグレンは思わぬことを言い放った。
「そのときは堂々と恋人宣言してやろう。次の皇室主催のパーティではリエルと一緒にいるつもりだしね」
リエルはどくんっと鼓動が鳴った。
これは先ほどのドキドキした気持ちとは違う、ひやりとした感情だ。
忌まわしい記憶がよみがえる。
アランとともに王太子妃として出席した、あの地獄のパーティである。
見知らぬ男たちとともに不倫現場を作り上げられ、アランに目撃されたあの皇室主催のパーティ。そこに、グレンはいなかった。
(思い出すと吐き気がするわ)
複雑な表情で黙るリエルを見て、グレンは眉をひそめた。
「もしかして、いやか?」
「違うの。約束は守るわ。けれど、あなたはそのパーティに出席しなかったんじゃ」
「え?」
グレンは目を丸くする。
リエルはハッとして口をつぐんだ。
(うっかり回帰前のことを口走るところだったわ)
リエルは慌てて誤魔化す。
「あなたはこういうパーティに出ないと思っていたの。そういう噂を聞いていたし」
「出るつもりはなかったけど、仕方がないんだ」
その言葉にリエルは不思議に思い、首を傾げる。
グレンはリエルをじっと見つめて笑顔でさらりと言った。
「早く君と一緒にパーティへ参加したいから」
「え……」
しばらく、ふたりのあいだに沈黙があった。
リエルはふたたび胸が熱くなり、ドキドキしている。
グレンは穏やかに微笑んでいたが、やがて肩をすくめて言った。
「だって面倒だろ。いまだに父が縁談話を持ってくるんだ」
「あ、そう……」
リエルは拍子抜けしたようにグレンを半眼で見つめた。
(私ったらドキドキしてバカみたいだわ)
にっこりと笑顔を向けるグレンに対し、リエルは複雑な表情をする。
「余計なことかもしれないけど、縁談は真面目に考えたほうがいいわよ。この国の将来のために」
「うーん。でも、なかなかいないんだよね。こんなでもいいって言ってくれる寛大な人が」
わざわざ自分を指差してそんなことを言うグレンに、リエルは呆れ返った。
「あなたが言うとイヤミでしかないわよ」
「婚約が決まってから幻滅することになったら可哀想だろ」
「そんなことを言っていたら永久に見つからないわよ」
「そのときは従弟に皇帝になってもらおう」
「あなたね……」
リエルは呆れ顔でため息をつく。
(本当にアランとは別の意味でやる気がない人ね)
アランは王になりたいがまともに仕事をしない。
だが、グレンは仕事をしっかりする割にそれほど皇帝の座に執着していないようだ。
「そうだ。今度、皇都に美味いレストランがあるからそこで食事をご馳走しよう」
いきなり話題を変えられた。
しかし、それはそれで嬉しい。
「それは楽しみだわ。仕事を頑張れそう」
「うん。頑張って」
グレンはくるりと向きを変えて離れる瞬間、リエルの頭をぽんっと撫でた。
それから彼は軽く手を振って立ち去っていった。
リエルは呆気にとられてぼんやり突っ立っている。
撫でられた頭に手をやると、急に恥ずかしくなってきて頬を赤らめた。
「……子どもじゃないんだから」
少しむっとしたけれど、すぐに笑みがこぼれた。
もう、胸がざわつくことはなかった。
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