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皇太子への想い①

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 リエルはその日、とある公爵家で開催されたパーティにカイルと一緒に出席していた。
 商品であるストールの試作品を首もとに巻いてアピールする目的を兼ねている。
 ふたりで挨拶をして回っていると、令嬢たちが次々と集まってきた。

「まあ、これが噂のカリスなのですね。この目で見ると本当に素敵だわ」
「おふたりがこのストールを取り扱っていらっしゃるの?」
「わたくしも評判を聞いてオーダーしているのだけど、この冬には間に合いそうにないわ」
「本当に驚くほど人気ですのね」

 カイルは照れながら嬉しそうに笑う。
 リエルは落ち着いた表情で「ありがとうございます」と礼を言った。

「ところでおふたりは恋人関係ですの?」

 ひとりの令嬢からそんなことを言われて、カイルが「えっ!?」と驚きの声を上げた。

「おふたりとも貴族なのに商売をなさっているんでしょう? 将来のためかと思いまして」
「カイルさまは爵位を継げませんものね。ひょっとしてカーレン令嬢の婿養子になるのかしら?」

 令嬢たちは面白そうにクスクス笑った。

(こういう話、好きよね。みんな)

 呆れ顔でため息をつくリエルのとなりでカイルが慌てて否定した。

「違いますよ。仕事仲間です」
「あら、でも一日中ずっと一緒にいるのでしょう? 何事か起こる可能性も……」
「何事も起こりませんけど」

 わざとらしく笑う令嬢に対し、カイルは困惑している。
 リエルは笑顔を保ちながら冷静に話す。

「私は最近外回りが多くて、カイルさまとはほとんど顔を合わせることがないのです」
「外回り?」
「ええ。今はストールをメインに皇都だけでなく郊外のお店にも一軒ずつ回って商談をおこなっておりますの。ですから余計なことに目を向ける時間などございませんわ」
「ま、まあ……ご多忙ですのね」

 余裕の笑みで堂々と言い放つリエルを前に、令嬢たちは返す言葉もないようだ。

(暇なあなたたちとは違うのよという皮肉が伝わったかしら?)

 令嬢たちはそそくさと逃げるようにリエルから離れていった。

「すみません。こういうとき、どう返したらいいかわからなくて……」
「あの人たちは噂の種がほしいだけなの。適当に流しておけばいいわ」
「そうですね。今度からそうします」

 カイルは額に汗をかきながら苦笑した。
 彼は社交の場があまり得意ではないのだろう。
 というよりも場数が少なかったのかもしれない。
 今後はリエルが積極的に彼を社交界へ連れ出し、ザスター商会の名を広めていこうと考えていた。

「ご覧になって。皇太子殿下よ」

 誰かのその声を聞き、リエルはどきりとした。
 会場内は一斉にざわつく。

「まあ! パーティにお姿をお見せになるなんてめずらしいですわ」

 リエルは周囲の視線の先に目を向けた。
 そこにいたのはグレンだ。
 シルバーを基調とした正装姿で今日はより一層金髪が映える。

 きらびやかなシャンデリアのせいなのか、パーティ会場という場の空気のせいなのか。リエルはまぶしさに目をこらした。

 そして、少し前の記憶を辿る。

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