今世ではあなたと結婚なんてお断りです！

崩壊の足音【ｱﾗﾝ&ﾉｴﾗ】

　王宮内ではノエラに関する噂に変化があった。
　その日も使用人たちは掃除中にひそひそと立ち話をしていた。

「ノエラさま、変わったと思わない？」
「わがままになったわよね。前は私たちにいろいろ親切にしてくださっていたのに」
「王太子妃になるから調子に乗っているのよ」

　以前はノエラに妃になってほしいと騒いでいた使用人たちは手のひらを返したように口を開けば文句ばかりだった。

「私、思うんだけどノエラさまってリエルさまと比べたら容姿も知識も品性もすべてにおいて劣っているのよね」
「それ、私も思ったわ。リエルさまは不愛想だったけど仕事はきっちりなさっていたし、常識もあったわ」
「殿下は騙されているんじゃないかしら？」

　そんな話を偶然聞いていたのはユリウスだった。
　いや、それより前からそのような噂話は耳にしていた。

　ユリウスが使用人たちのそばを通りかかると、それに気づいた彼女たちはおしゃべりをやめて隅っこに並び、道を開けた。

　ユリウスは怪訝な表情で彼女たちを見て言った。

「君たちはそうやってリエルさまを追い込んでいたよね？」

　使用人たちはただならぬ雰囲気のユリウスに驚き、顔面蒼白になった。
　いつも穏やかなユリウスの表情が強張っているのだ。

「そういうの、やめたほうがいいよ」
「申しわけございません！」

　ユリウスの忠告に、３人は揃って頭を下げた。
　ユリウスはため息をついて、それ以上何も言わずに立ち去った。
　使用人たちは彼の姿が完全に見えなくなってから、ぼそぼそと話を再開した。
　
「ユリウス殿下も変わられたわね」
「以前はもっと弱々しいお方の印象だったけど」
「ひょっとしてあの噂は本当なのかしら？」

　ひとりの使用人がこそこそ話し、他のふたりが耳を傾ける。

「ユリウス殿下の支持者が増えたってことでしょ」
「それって、もしかしてユリウス殿下が王位を……」
「言っちゃだめ。殺されるわよ」

　さすがにこれ以上の話は命にかかわるので、彼女たちはそそくさと仕事に戻った。