52 / 110
生きるための仕事
しおりを挟む
「さあ、リエルさま。本日はどのお洋服になさいますか?」
「お化粧ならわたくしにお任せくださいませ」
「そのあいだに肩のマッサージをさせていただきますね」
朝から使用人たちがリエルの部屋へ押しかけてきて世話を始めた。
てきぱきと動く使用人たちをエマは離れたところで見つめている。
「私の仕事が……」
本来リエルの身のまわりの世話は自分の役割なのに、とエマはぶつぶつぼやいた。
リエルは彼女たちのあまりの気合いの入れように、少々困惑していた。
「少し出かけるだけだから、そんなに気合いを入れる必要はないわ」
「いいえ! 殿下の婚約者ですもの。きちんと着飾っておかなければなりません!」
ここの使用人たちはよそ者のリエルを特別扱いしてくれるが、あまりに距離が近い。
今まで実家の使用人にさえ距離を置かれていたリエルにとって、この待遇は戸惑うことばかりだった。
それに、今日はあまり綺麗にしておく必要はない。
ひらりとしたロングスカートを身につけたリエルは軽いため息をついた。
(困ったわ。今日は町に仕事と家を探しに行くつもりだったのに。貴族の格好をしていたら相手にしてもらえないじゃない)
「殿下にこんな素敵な恋人がいらっしゃったなんて、知りませんでしたわ」
「本当に。なかなかお相手を見つけられないので、みんな心配しておりましたのよ」
使用人たちは嬉々として話す。
(偽物だなんて言えないわ)
リエルは笑顔のまま複雑な気分になった。
(それにしても、ここの人たちはずいぶんと親切なのね。アランのいる王宮とは大違いだわ)
全員笑顔で対応してくれるし、グレンの評判もいいようだ。
身支度ができて出かけようとしていると、グレンが現れた。
「準備できた?」
「まあ、殿下。見てください。美しいお嬢さまでございます」
グレンはばっちり着飾ったリエルを見て感心する。
「うん、すごくいいね。綺麗だ」
リエルは頬を赤らめて複雑な表情で話す。
「あの、私これから町へ行くのよ」
「だから迎えに来たんだよ」
「仕事を探そうと思っているの」
「もう見つけてある」
「え?」
「君に適任の仕事だ」
リエルとエマはグレンに連れられて街へ出かけることになった。
アストレア帝国の都はディアナ王国よりはるかに広大で街も発展しており、人々も多く賑やかだ。
リエルとグレンとエマの3人を乗せた馬車は地味で目立たないような造りになっている。
グレンは初めて出会ったときのように頭からすっぽりフードを被っていた。
馬車で向かった先は郊外の大きな石造りの建物だった。
1階は多くの人が行き来している。
「ここは?」
「商人ギルドの本部だ。まずはここで君の名前を登録しておく。そうしなければ商売に手を出せないから。登録しておくと有益な情報も手に入るしね」
リエルは管理者が差し出した名簿にサインをした。
すると、管理者は眉をひそめながらリエルをじろじろ見た。
「貴族? しかも女かよ」
「何か問題でも?」
「いや別に」
管理者はリエルをじろりと睨み、そのあとにやってきた男に対しては愛想笑いをしながらへこへこ頭を下げた。
それを見ていたエマは憤慨した。
「感じ悪ーい!」
「そんなものよ」
リエルは真顔でぼやいた。
3人はふたたび町の郊外まで馬車で移動した。
「お化粧ならわたくしにお任せくださいませ」
「そのあいだに肩のマッサージをさせていただきますね」
朝から使用人たちがリエルの部屋へ押しかけてきて世話を始めた。
てきぱきと動く使用人たちをエマは離れたところで見つめている。
「私の仕事が……」
本来リエルの身のまわりの世話は自分の役割なのに、とエマはぶつぶつぼやいた。
リエルは彼女たちのあまりの気合いの入れように、少々困惑していた。
「少し出かけるだけだから、そんなに気合いを入れる必要はないわ」
「いいえ! 殿下の婚約者ですもの。きちんと着飾っておかなければなりません!」
ここの使用人たちはよそ者のリエルを特別扱いしてくれるが、あまりに距離が近い。
今まで実家の使用人にさえ距離を置かれていたリエルにとって、この待遇は戸惑うことばかりだった。
それに、今日はあまり綺麗にしておく必要はない。
ひらりとしたロングスカートを身につけたリエルは軽いため息をついた。
(困ったわ。今日は町に仕事と家を探しに行くつもりだったのに。貴族の格好をしていたら相手にしてもらえないじゃない)
「殿下にこんな素敵な恋人がいらっしゃったなんて、知りませんでしたわ」
「本当に。なかなかお相手を見つけられないので、みんな心配しておりましたのよ」
使用人たちは嬉々として話す。
(偽物だなんて言えないわ)
リエルは笑顔のまま複雑な気分になった。
(それにしても、ここの人たちはずいぶんと親切なのね。アランのいる王宮とは大違いだわ)
全員笑顔で対応してくれるし、グレンの評判もいいようだ。
身支度ができて出かけようとしていると、グレンが現れた。
「準備できた?」
「まあ、殿下。見てください。美しいお嬢さまでございます」
グレンはばっちり着飾ったリエルを見て感心する。
「うん、すごくいいね。綺麗だ」
リエルは頬を赤らめて複雑な表情で話す。
「あの、私これから町へ行くのよ」
「だから迎えに来たんだよ」
「仕事を探そうと思っているの」
「もう見つけてある」
「え?」
「君に適任の仕事だ」
リエルとエマはグレンに連れられて街へ出かけることになった。
アストレア帝国の都はディアナ王国よりはるかに広大で街も発展しており、人々も多く賑やかだ。
リエルとグレンとエマの3人を乗せた馬車は地味で目立たないような造りになっている。
グレンは初めて出会ったときのように頭からすっぽりフードを被っていた。
馬車で向かった先は郊外の大きな石造りの建物だった。
1階は多くの人が行き来している。
「ここは?」
「商人ギルドの本部だ。まずはここで君の名前を登録しておく。そうしなければ商売に手を出せないから。登録しておくと有益な情報も手に入るしね」
リエルは管理者が差し出した名簿にサインをした。
すると、管理者は眉をひそめながらリエルをじろじろ見た。
「貴族? しかも女かよ」
「何か問題でも?」
「いや別に」
管理者はリエルをじろりと睨み、そのあとにやってきた男に対しては愛想笑いをしながらへこへこ頭を下げた。
それを見ていたエマは憤慨した。
「感じ悪ーい!」
「そんなものよ」
リエルは真顔でぼやいた。
3人はふたたび町の郊外まで馬車で移動した。
2,321
お気に入りに追加
5,361
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】
皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」
幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。
「な、によ……それ」
声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。
「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」
******
以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。
タイトルの回収までは時間がかかります。
私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。
【完結】わたしの大事な従姉妹を泣かしたのですから、覚悟してくださいませ
彩華(あやはな)
恋愛
突然の婚約解消されたセイラ。それも本人の弁解なしで手紙だけという最悪なものだった。
傷心のセイラは伯母のいる帝国に留学することになる。そこで新しい出逢いをするものの・・・再び・・・。
従兄妹である私は彼らに・・・。
私の従姉妹を泣かしたからには覚悟は必要でしょう!?
*セイラ視点から始まります。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる