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新しい人生のはじまり

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 アストレア帝国に到着したリエルはエマとともに大きな屋敷の前に降り立った。
 執事と使用人たちが一斉に並んで仰々しく出迎える。

「このたびこのお屋敷でリエルさまのお世話をさせていただくことになりました」

 執事の声に合わせて「よろしくお願いいたします」と全員が声を揃えた。
 あまりに大袈裟な出迎えにリエルは圧倒された。

 グレンがしばらくは自分が用意した屋敷に滞在して、そのあとゆっくり住むところを探せばいいと言ってくれた。
 しかし、これほど手厚い待遇とは思わなかった。

「どうぞ、旅のお疲れを癒してください」

 執事がそう言うと、使用人たちが一斉に笑顔を向けた。
 リエルとエマは驚きながら、招かれるままに屋敷へ入る。
 内装も豪華で実家より広かった。

「すごいですね。こんな熱烈な歓迎を受けるなんて」
「そうね」

 その後、リエルは湯浴みをして使用人たちにたっぷり足を揉んでもらい、綺麗なドレスを着せてもらって豪華な食事をいただいた。
 侍女としてやってきたエマも一緒にドレスを着て食事をした。

 そして、そのあと。
 リエルとエマは食後の紅茶とお菓子をいただきながら豪華な部屋でくつろいでいた。

「あのう、私までこんな特別待遇でよろしいのでしょうか?」

 エマがおずおずと訊ねるとリエルは笑みを浮かべながら答えた。

「この国では侍女はあまり主人の世話をしないのですって」
「では私の仕事は一体……?」
「私が来客を迎えるときや、外出する際に一緒について来てもらうのが仕事だと、執事が言っていたわ」
「それでいいのでしょうか?」

 エマはいまいち腑に落ちないというふうに首を傾げる。
 つまり、ここではリエルのお茶を淹れる係ではなく、リエルとお茶を飲みながらおしゃべりをする役なのである。

「住む家が見つかるまでだから」

 とリエルは言った。

 まず仕事を探さなければならない。
 リエルにできることは限られているが、幸い学院時代に給仕の仕事をしていたこともあり、そこから始めてみようと考えている。

「当分、あなたの給金を支払うことができないの。だから、今はゆっくりして。働き始めたらきちんと払うから」

 リエルがそう言うと、お茶を飲んでいたエマが驚いて手を止めた。

「リエルさま、働くんですか!?」
「ええ、そうよ。そうしないと生きていけないでしょ?」
「そんな……お嬢さまがお仕事をするなんて、聞いたことないです」

 不安げな様子のエマとは対照的に、リエルは満面の笑みを浮かべている。

「商売に興味はあったの。いい機会だから学んでみたいわ。この町のこともいろいろ知りたいし、もちろんこの国の歴史も調べておきたいわ。やることは山ほどあるわね」

 生き生きと話すリエルを見て、エマもふふっと笑った。

「何だかリエルさま楽しそうですね」
「ええ、楽しいわ」

 リエルは紅茶を飲みながらにこにこ笑う。

(だって死の未来を変えることができたのだもの。これからは自由なのよ)

 今後、回帰前のあの日になっても生きていられるか定かではないが。

(アランもノエラもいない。もう私の命を脅かす人たちはいないのだから)

 それでも、死の道からは逃げきれたはずだ。
 リエルはわくわくしていた。

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