上 下
38 / 110

決戦の日

しおりを挟む
 豪華なシャンデリアに赤い絨毯が敷かれた王宮の披露宴会場では、派手な装飾品がいくつも並び、招待を受けた貴族たちが次々と会場入りした。
 長テーブルには料理が並び、多くの者はシャンパンを片手に談笑している。

 そこに登場したのはノエラだ。
 ゆるふわの金髪をなびかせて、大きなリボンのついたピンクのドレスを着ている。
 ノエラは周囲の注目を浴びてご機嫌だった。

「まあ、あれはメイゼル伯爵令嬢ではなくて?」
「まばゆいほど愛らしい子だわ」
「どうやら王太子殿下の寵愛を受けていらっしゃるみたいよ」

 ノエラは貴族の婦人たちににっこり微笑んだ。

「ごきげんよう、みなさま。本日は楽しんでくださいね」

 まるでこのパーティの主役である。
 そして周囲も否定しない。むしろ、ノエラの愛らしさにうっとりする者もいる。

「メイゼル令嬢が王太子殿下の側妃になるという話は本当だったのね」
「だって殿下にお似合いなのはどう見てもメイゼル令嬢でしょう?」
「そうよね。カーレン令嬢はどこか愛想がなくて冷たい印象だもの」

 周囲の言葉を聞きながらノエラは満足げに笑った。

(そうそう、これよ。このときを待っていたのよ)

 婦人も令嬢もみんな、ノエラとリエルを比較した。
 そしてついに、例の噂について話題にのぼった。

「そういえばご存じ? カーレン令嬢はアストレア帝国の皇太子と関係があるそうよ」
「ええ? それは本当ですの?」
「殿下の婚約者ともあろう者がなんと汚らわしい」

 ノエラは我慢できずににやりと笑った。

(さあ、リエル。早くおいでなさい。ここは針のむしろよ。どれだけ耐えられるかしらね?)

 リエルが現れたら、その顔を見るのが楽しみでならない。


 しばらくすると、アランがパーティ会場へ現れた。
 周囲の注目を浴びたアランは穏やかな笑顔を振りまいている。

「王太子殿下は本当に素敵なお方だわ」
「これほど素晴らしい婚約者がいながら令嬢は……」
「しっ……聞こえてしまいますわ」

 アランは周囲の声を聞きながら満足げに笑う。

「令嬢のわがままに殿下は振り回されているようだ」
「気の毒に。殿下は苦労なさっているのだろうな」

 アランは穏やかな笑みを周囲に向けながら内心ほくそ笑んでいた。

(いい具合に噂が広まっているな。さあ、リエル。来るがいい。落ち込む君を救ってやれるのは俺だけだということを全員の前で知らしめてやる)

 だが、パーティが始まってもリエルは現れなかった。

 アランはノエラを連れて貴族たちに挨拶をしてまわった。
 彼らはみな、ふたりを歓迎し、アランはいかにも紳士という態度で接している。

「メイゼル令嬢は殿下とお似合いですな」
「まことの夫婦のようですよ」

 貴族の男性陣に褒め称えられて、ノエラは照れくさそうにした。
 あくまで控えめな令嬢を演じる。

「いやですわ。殿下には正妻となる婚約者がいらっしゃいますのよ」

 ノエラはしおらしく上目遣いで話す。
 それを聞いた貴族たちは眉をひそめた。

「令嬢も噂は聞いているでしょう? あの女は悪女だ」
「そうですよ。我々は殿下にふさわしいお相手はメイゼル令嬢ではないかと思っているのです」

 ノエラはわざとらしく困惑の表情を浮かべるも、その胸中はにやけが止まらない。

(ここで一芝居打ってもいいわね)

 ノエラはうるうるした瞳で彼らに訴える。

「実はあたくし、見てしまったのです」
「何をですか?」
「カーレン令嬢が、アストレア帝国の皇太子とふたりきりで抱き合っているところを」

 周囲が、騒然となった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

処理中です...