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決戦の日
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豪華なシャンデリアに赤い絨毯が敷かれた王宮の披露宴会場では、派手な装飾品がいくつも並び、招待を受けた貴族たちが次々と会場入りした。
長テーブルには料理が並び、多くの者はシャンパンを片手に談笑している。
そこに登場したのはノエラだ。
ゆるふわの金髪をなびかせて、大きなリボンのついたピンクのドレスを着ている。
ノエラは周囲の注目を浴びてご機嫌だった。
「まあ、あれはメイゼル伯爵令嬢ではなくて?」
「まばゆいほど愛らしい子だわ」
「どうやら王太子殿下の寵愛を受けていらっしゃるみたいよ」
ノエラは貴族の婦人たちににっこり微笑んだ。
「ごきげんよう、みなさま。本日は楽しんでくださいね」
まるでこのパーティの主役である。
そして周囲も否定しない。むしろ、ノエラの愛らしさにうっとりする者もいる。
「メイゼル令嬢が王太子殿下の側妃になるという話は本当だったのね」
「だって殿下にお似合いなのはどう見てもメイゼル令嬢でしょう?」
「そうよね。カーレン令嬢はどこか愛想がなくて冷たい印象だもの」
周囲の言葉を聞きながらノエラは満足げに笑った。
(そうそう、これよ。このときを待っていたのよ)
婦人も令嬢もみんな、ノエラとリエルを比較した。
そしてついに、例の噂について話題にのぼった。
「そういえばご存じ? カーレン令嬢はアストレア帝国の皇太子と関係があるそうよ」
「ええ? それは本当ですの?」
「殿下の婚約者ともあろう者がなんと汚らわしい」
ノエラは我慢できずににやりと笑った。
(さあ、リエル。早くおいでなさい。ここは針のむしろよ。どれだけ耐えられるかしらね?)
リエルが現れたら、その顔を見るのが楽しみでならない。
しばらくすると、アランがパーティ会場へ現れた。
周囲の注目を浴びたアランは穏やかな笑顔を振りまいている。
「王太子殿下は本当に素敵なお方だわ」
「これほど素晴らしい婚約者がいながら令嬢は……」
「しっ……聞こえてしまいますわ」
アランは周囲の声を聞きながら満足げに笑う。
「令嬢のわがままに殿下は振り回されているようだ」
「気の毒に。殿下は苦労なさっているのだろうな」
アランは穏やかな笑みを周囲に向けながら内心ほくそ笑んでいた。
(いい具合に噂が広まっているな。さあ、リエル。来るがいい。落ち込む君を救ってやれるのは俺だけだということを全員の前で知らしめてやる)
だが、パーティが始まってもリエルは現れなかった。
アランはノエラを連れて貴族たちに挨拶をしてまわった。
彼らはみな、ふたりを歓迎し、アランはいかにも紳士という態度で接している。
「メイゼル令嬢は殿下とお似合いですな」
「まことの夫婦のようですよ」
貴族の男性陣に褒め称えられて、ノエラは照れくさそうにした。
あくまで控えめな令嬢を演じる。
「いやですわ。殿下には正妻となる婚約者がいらっしゃいますのよ」
ノエラはしおらしく上目遣いで話す。
それを聞いた貴族たちは眉をひそめた。
「令嬢も噂は聞いているでしょう? あの女は悪女だ」
「そうですよ。我々は殿下にふさわしいお相手はメイゼル令嬢ではないかと思っているのです」
ノエラはわざとらしく困惑の表情を浮かべるも、その胸中はにやけが止まらない。
(ここで一芝居打ってもいいわね)
ノエラはうるうるした瞳で彼らに訴える。
「実はあたくし、見てしまったのです」
「何をですか?」
「カーレン令嬢が、アストレア帝国の皇太子とふたりきりで抱き合っているところを」
周囲が、騒然となった。
長テーブルには料理が並び、多くの者はシャンパンを片手に談笑している。
そこに登場したのはノエラだ。
ゆるふわの金髪をなびかせて、大きなリボンのついたピンクのドレスを着ている。
ノエラは周囲の注目を浴びてご機嫌だった。
「まあ、あれはメイゼル伯爵令嬢ではなくて?」
「まばゆいほど愛らしい子だわ」
「どうやら王太子殿下の寵愛を受けていらっしゃるみたいよ」
ノエラは貴族の婦人たちににっこり微笑んだ。
「ごきげんよう、みなさま。本日は楽しんでくださいね」
まるでこのパーティの主役である。
そして周囲も否定しない。むしろ、ノエラの愛らしさにうっとりする者もいる。
「メイゼル令嬢が王太子殿下の側妃になるという話は本当だったのね」
「だって殿下にお似合いなのはどう見てもメイゼル令嬢でしょう?」
「そうよね。カーレン令嬢はどこか愛想がなくて冷たい印象だもの」
周囲の言葉を聞きながらノエラは満足げに笑った。
(そうそう、これよ。このときを待っていたのよ)
婦人も令嬢もみんな、ノエラとリエルを比較した。
そしてついに、例の噂について話題にのぼった。
「そういえばご存じ? カーレン令嬢はアストレア帝国の皇太子と関係があるそうよ」
「ええ? それは本当ですの?」
「殿下の婚約者ともあろう者がなんと汚らわしい」
ノエラは我慢できずににやりと笑った。
(さあ、リエル。早くおいでなさい。ここは針のむしろよ。どれだけ耐えられるかしらね?)
リエルが現れたら、その顔を見るのが楽しみでならない。
しばらくすると、アランがパーティ会場へ現れた。
周囲の注目を浴びたアランは穏やかな笑顔を振りまいている。
「王太子殿下は本当に素敵なお方だわ」
「これほど素晴らしい婚約者がいながら令嬢は……」
「しっ……聞こえてしまいますわ」
アランは周囲の声を聞きながら満足げに笑う。
「令嬢のわがままに殿下は振り回されているようだ」
「気の毒に。殿下は苦労なさっているのだろうな」
アランは穏やかな笑みを周囲に向けながら内心ほくそ笑んでいた。
(いい具合に噂が広まっているな。さあ、リエル。来るがいい。落ち込む君を救ってやれるのは俺だけだということを全員の前で知らしめてやる)
だが、パーティが始まってもリエルは現れなかった。
アランはノエラを連れて貴族たちに挨拶をしてまわった。
彼らはみな、ふたりを歓迎し、アランはいかにも紳士という態度で接している。
「メイゼル令嬢は殿下とお似合いですな」
「まことの夫婦のようですよ」
貴族の男性陣に褒め称えられて、ノエラは照れくさそうにした。
あくまで控えめな令嬢を演じる。
「いやですわ。殿下には正妻となる婚約者がいらっしゃいますのよ」
ノエラはしおらしく上目遣いで話す。
それを聞いた貴族たちは眉をひそめた。
「令嬢も噂は聞いているでしょう? あの女は悪女だ」
「そうですよ。我々は殿下にふさわしいお相手はメイゼル令嬢ではないかと思っているのです」
ノエラはわざとらしく困惑の表情を浮かべるも、その胸中はにやけが止まらない。
(ここで一芝居打ってもいいわね)
ノエラはうるうるした瞳で彼らに訴える。
「実はあたくし、見てしまったのです」
「何をですか?」
「カーレン令嬢が、アストレア帝国の皇太子とふたりきりで抱き合っているところを」
周囲が、騒然となった。
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