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やさしい侵入者
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アランに叩かれた日の夜、リエルは鬱々とした気持ちで過ごしていた。
今夜はどうも眠れそうにない。
ベッドの上に座ってぼんやり考えごとをしていた。
(やっぱり未来は変えられないのかしらね)
アランに婚約破棄させるためにわざと冷たく接してきたというのに、なぜか逆効果になってしまっている。
このままでは予定通り王太子妃にされ、ノエラの策略によってふたたびリエルは罪人に仕立て上げられて処刑されることに。
落ち込んでいたところ、突如コンコンッとバルコニーの窓が音を立てた。
リエルはどきりとしてそちらへ目をやる。
恐る恐る近づいてカーテンをめくると、そこにいたのはグレンだった。
「きゃっ……!」
悲鳴を上げそうになり、慌てて口を手で押さえる。
グレンはにこっと笑顔を向けた。
リエルは入口のドアへ目を向けて衛兵に気づかれていないか確認するも、静かだった。
安堵してゆっくりと窓を開ける。
「あなた、一体どこから……」
「岩登りが得意なんでね」
「落ちたらどうするのよ!」
バルコニーに出て下を見たリエルはくらりとした。
しかし、グレンは平然としている。
「落下より警備を心配していたんだけど、この城は緩いな」
「……そうね」
グレンの言うことに、リエルは呆れ顔で同意した。
衛兵はやる気がないのか寝ているのか、この城の警備が緩すぎることはリエルも把握している。
「まあ、おかげでこうしてリエルの部屋に侵入できたわけだが」
グレンは堂々とリエルの部屋に入ってきてそんなことを言う。
「あなた、今この城でどんな噂が広まっているか知らないの?」
「知ってるよ。なかなかいい噂だね」
「呆れた」
リエルは深いため息をつく。
(アランとは別の意味で面倒だわ)
半眼でグレンを睨みながら、リエルは訊ねる。
「それで何の用? 夜中に女の部屋に侵入するなんて、噂を現実にでもするつもり?」
「そうだと言ったら?」
「えっ……」
急に真剣な表情になるグレンに、リエルは戸惑った。
さらに、窓から月光に照らされる彼の姿にうっかり見惚れてしまった。
しかし、すぐに正気に戻る。
「バカなこと言わないで。私は3日後に正式にアランの婚約者として発表されるのよ。こんな夜中にあなたとふたりきりでいることがわかったらまた面倒なことになるわ」
「彼のことが嫌いなんだろ? だったらいいじゃないか。別れるチャンスだ」
軽くそんなことを言うグレンに、リエルは苛立ちから怒りに変わった。
「ふざけないで。こんなことで別れられるなら、とうに別れているわよ」
「なんだ、本当に別れたいのか」
リエルはうっかり本音を洩らしてしまい、口を閉ざす。
そして、グレンにくるりと背中を向けると冷たく言い放った。
「早く出ていって。パーティの準備でほとんど寝ていないの」
グレンはリエルの背中をじっと見つめている。
そして彼は真剣な表情で訊ねた。
「君はそれでいいのか?」
リエルは返答せず、黙ってじっとしている。
「君は能力があるのにこの国では誰も認めない」
リエルはうつむいたまま、悔しさに唇を噛む。
「帝国に来い。君に適任の仕事は山ほどある」
グレンははっきりとそう告げた。
その言葉にリエルは驚き、目を見開く。しかし、すぐに苦笑しながら困惑の表情になった。
「あなたって冗談が好きなのね」
「俺は本気で言ってる」
リエルは嘆息し、グレンを見据えた。
「私は侯爵家の人間なの。将来は王妃になるの。幼少の頃から決まっているの。私の人生に自由なんてないのよ」
リエルは拳を握りしめ、わずかに震えている。
今夜はどうも眠れそうにない。
ベッドの上に座ってぼんやり考えごとをしていた。
(やっぱり未来は変えられないのかしらね)
アランに婚約破棄させるためにわざと冷たく接してきたというのに、なぜか逆効果になってしまっている。
このままでは予定通り王太子妃にされ、ノエラの策略によってふたたびリエルは罪人に仕立て上げられて処刑されることに。
落ち込んでいたところ、突如コンコンッとバルコニーの窓が音を立てた。
リエルはどきりとしてそちらへ目をやる。
恐る恐る近づいてカーテンをめくると、そこにいたのはグレンだった。
「きゃっ……!」
悲鳴を上げそうになり、慌てて口を手で押さえる。
グレンはにこっと笑顔を向けた。
リエルは入口のドアへ目を向けて衛兵に気づかれていないか確認するも、静かだった。
安堵してゆっくりと窓を開ける。
「あなた、一体どこから……」
「岩登りが得意なんでね」
「落ちたらどうするのよ!」
バルコニーに出て下を見たリエルはくらりとした。
しかし、グレンは平然としている。
「落下より警備を心配していたんだけど、この城は緩いな」
「……そうね」
グレンの言うことに、リエルは呆れ顔で同意した。
衛兵はやる気がないのか寝ているのか、この城の警備が緩すぎることはリエルも把握している。
「まあ、おかげでこうしてリエルの部屋に侵入できたわけだが」
グレンは堂々とリエルの部屋に入ってきてそんなことを言う。
「あなた、今この城でどんな噂が広まっているか知らないの?」
「知ってるよ。なかなかいい噂だね」
「呆れた」
リエルは深いため息をつく。
(アランとは別の意味で面倒だわ)
半眼でグレンを睨みながら、リエルは訊ねる。
「それで何の用? 夜中に女の部屋に侵入するなんて、噂を現実にでもするつもり?」
「そうだと言ったら?」
「えっ……」
急に真剣な表情になるグレンに、リエルは戸惑った。
さらに、窓から月光に照らされる彼の姿にうっかり見惚れてしまった。
しかし、すぐに正気に戻る。
「バカなこと言わないで。私は3日後に正式にアランの婚約者として発表されるのよ。こんな夜中にあなたとふたりきりでいることがわかったらまた面倒なことになるわ」
「彼のことが嫌いなんだろ? だったらいいじゃないか。別れるチャンスだ」
軽くそんなことを言うグレンに、リエルは苛立ちから怒りに変わった。
「ふざけないで。こんなことで別れられるなら、とうに別れているわよ」
「なんだ、本当に別れたいのか」
リエルはうっかり本音を洩らしてしまい、口を閉ざす。
そして、グレンにくるりと背中を向けると冷たく言い放った。
「早く出ていって。パーティの準備でほとんど寝ていないの」
グレンはリエルの背中をじっと見つめている。
そして彼は真剣な表情で訊ねた。
「君はそれでいいのか?」
リエルは返答せず、黙ってじっとしている。
「君は能力があるのにこの国では誰も認めない」
リエルはうつむいたまま、悔しさに唇を噛む。
「帝国に来い。君に適任の仕事は山ほどある」
グレンははっきりとそう告げた。
その言葉にリエルは驚き、目を見開く。しかし、すぐに苦笑しながら困惑の表情になった。
「あなたって冗談が好きなのね」
「俺は本気で言ってる」
リエルは嘆息し、グレンを見据えた。
「私は侯爵家の人間なの。将来は王妃になるの。幼少の頃から決まっているの。私の人生に自由なんてないのよ」
リエルは拳を握りしめ、わずかに震えている。
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