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弟王子の苦い記憶
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―――――――
よみがえるおぞましい記憶。
それはノエラがリエルを非難する声だ。
「リエル? あなた、なんてことを……」
ノエラはこちらを見て震えている。まるで恐ろしいものを見ているかのような姿だ。
そして、リエルが抱きかかえているのは血まみれのユリウスである。
リエルはとっさに主張する。
「違うわ、ノエラ。私は彼とお茶を飲んでいただけなの。急に彼がこんなことに……」
「リエル、言いわけは通用しないわ。だって、あなた同じお茶を飲んだのでしょう? どうしてあなたは何ともないの?」
「わからない。本当にわからないの。ノエラ、信じて!」
そんな中、アランも駆けつけ、この現状に驚愕した。
「ユリウス! なぜだ、どうして……」
駆け寄ってきたアランにリエルはおずおずと話しかける。
「殿下、私にも何が何だか……」
しかし混乱し狼狽するアランにリエルの声は聞こえなかった。
「リエル、なぜだ? ユリウスはお前のことを慕っていたんだぞ。それなのに、なぜ殺した?」
「違います、殿下! 私ではありません。決して私では……」
「お前じゃないなら使用人か? だが使用人が毒を盛ったというなら、なぜお前は同じ茶を飲んで平気なんだ?」
「ああ、殿下……信じてください……私ではありません……私では……」
リエルが泣きながら周囲を見わたすと、全員が疑いの目を向けていた。
中には「人殺し」と呟く者もいた。
―――――――
――――
「……ねうえ、義姉上」
過去の記憶に囚われ、ぼんやりしていたリエルは、ユリウスの声で我に返った。
「え? ああ……これは、ユリウス王子殿下」
「どうぞユリウスとお呼びください」
ユリウスはにっこりと微笑んだ。
リエルは複雑な表情で笑みを浮かべる。
(ユリウス、当たり前だけど生きているわ)
悲惨な記憶がよみがえり、いまだ鼓動が落ち着かないが、とりあえず安堵する。
「お散歩中ですか? よろしければご一緒しませんか?」
「あ、えっと……」
すぐにでも戻らなければならない。
リエルがどう説明すべきか迷っていると、代わりにエマが答えてくれた。
「申しわけございません。リエルさまは体調が優れないようでして……」
「え? それは大変だ。部屋までお送りしますよ」
突然の申し出にリエルはすぐさま断る。
「ユリウス殿下のお手を煩わせるわけには……」
「こちらには護衛騎士がおりますから、ご安心ください」
にっこりと笑ってそう言ってくれるユリウスに、リエルは複雑な心境を抱いた。
ユリウスの背後にはふたりの護衛騎士がいる。
リエルは少し考えてからユリウスに返事をした。
「では、お願いしてもよろしいですか?」
「はい。ゆっくり歩きましょう」
ユリウスはリエルの体調を気遣って歩幅を合わせてくれる。
そんな彼に嘘をついて心苦しいが、これはいい機会だ。
(ユリウスには申しわけないけれど、利用させていただくわ)
今、部屋へ戻ると盗みを働いた使用人がいるはずだ。
そこにユリウスとともに鉢合わせすれば、使用人はどんな言い逃れもできない。
リエルがユリウスと宮殿内を歩いていると、まさかの事態が起こった。
前方からアランが侍従と護衛騎士を連れて歩いてくるのだ。
リエルは驚き、唇を噛んだ。
(こんなときにアランと鉢合わせてしまうなんて)
お互いに足を止め、向かい合う形になる。
アランはリエルとユリウスが一緒にいるのを見て、眉をひそめた。
「なぜ、俺の婚約者とユリウスが一緒にいる?」
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