43 / 66
43、私と会えなくて不満だったのですか?(違う意味で)
しおりを挟む「あ、あのう……陛……ヴァルクさま、一体どうされたのですか? 私が何か気に障ることでも言いましたか?」
「別に」
目も合わせずにそっけなく返すヴァルクにイレーナは眉をひそめた。
(何なの? まるで気に入らないことがあって不貞腐れる子どもみたい!)
しばらくよそを向いたままのヴァルクを、イレーナはじっと見つめて根気よく待つ。
すると、ヴァルクがゆっくりと振り返った。
その表情は不満げだ。
「ね、寝ましょうか?」
やんわりと笑顔で訊いてみると、ヴァルクは無言でイレーナを抱き上げた。
「ちょっ、と……あの」
「お前は何もわかっていない」
「何がですか?」
「俺がなぜ不機嫌なのか、よく考えてみろ」
「はあ? いや、さっぱりわかりませんが」
そのままベッドに降ろされるとヴァルクは圧し掛かってきた。
彼はイレーナの手を握ってじっと見下ろしている。
その姿にイレーナはハッと気づいた。
「わかりました! 私と会えなくて(夜伽ができなくて)不満だったのですね!」
ヴァルクは頬を赤らめて「ちっ……」と舌打ちした。
(なあんだ。欲求不満だったのね。もう、しょーがない人!)
イレーナは手を伸ばしてヴァルクの背中を撫でる。
実は心の底から安堵していた。
しばらく会えなかったことで、もしかしてもう自分は(夜伽相手として)不要になってしまったのかと不安だったのだ。
しかしそれは杞憂だった。
ヴァルクはこうしてイレーナをまだ側妃として必要としてくれている。
「何をにやにやしているんだ?」
「ヴァルクさまが私のところへ来てくださったから嬉しいのです」
「そ、そうか……それはよかった」
ヴァルクはやけに顔を赤くして、いつもよりたどたどしい口調だ。
イレーナはじわっと胸が熱くなった。
(ああ、この犬みたいに可愛らしい反応、最高に愛おしいわ!)
イレーナはぎゅっと彼に抱きついた。
たとえ、そこに愛がなくても。
ただの欲求を晴らす相手であっても。
必要としてくれるだけで十分だ。
それなのに、イレーナの心の隅には隙間風のようなものが吹いていた。
その隙間はどうしても埋められなくて、自分でもどうにもできない。
だから、笑って誤魔化すしかないのである。
(いやだわ。私、ずいぶん深入りしてしまったようね)
認めざるを得なかった。
完全に好きになってしまっている。
けれど、個人的な感情を露わにして彼に嫌われたくなかったから、イレーナは決して言葉にしなかった。
101
お気に入りに追加
1,865
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。
おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子
設定ゆるゆるのラブコメディです。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?
ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。
当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める……
と思っていたのに…!??
狼獣人×ウサギ獣人。
※安心のR15仕様。
-----
主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる