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43、私と会えなくて不満だったのですか?(違う意味で)

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「あ、あのう……陛……ヴァルクさま、一体どうされたのですか? 私が何か気に障ることでも言いましたか?」
「別に」

 目も合わせずにそっけなく返すヴァルクにイレーナは眉をひそめた。


(何なの? まるで気に入らないことがあって不貞腐れる子どもみたい!)


 しばらくよそを向いたままのヴァルクを、イレーナはじっと見つめて根気よく待つ。
 すると、ヴァルクがゆっくりと振り返った。
 その表情は不満げだ。


「ね、寝ましょうか?」

 やんわりと笑顔で訊いてみると、ヴァルクは無言でイレーナを抱き上げた。

「ちょっ、と……あの」
「お前は何もわかっていない」
「何がですか?」
「俺がなぜ不機嫌なのか、よく考えてみろ」
「はあ? いや、さっぱりわかりませんが」


 そのままベッドに降ろされるとヴァルクは圧し掛かってきた。
 彼はイレーナの手を握ってじっと見下ろしている。
 その姿にイレーナはハッと気づいた。


「わかりました! 私と会えなくて(夜伽ができなくて)不満だったのですね!」

 ヴァルクは頬を赤らめて「ちっ……」と舌打ちした。


(なあんだ。欲求不満だったのね。もう、しょーがない人!)


 イレーナは手を伸ばしてヴァルクの背中を撫でる。
 実は心の底から安堵していた。
 しばらく会えなかったことで、もしかしてもう自分は(夜伽相手として)不要になってしまったのかと不安だったのだ。
 
 しかしそれは杞憂だった。
 ヴァルクはこうしてイレーナをまだ側妃として必要としてくれている。


「何をにやにやしているんだ?」
「ヴァルクさまが私のところへ来てくださったから嬉しいのです」
「そ、そうか……それはよかった」

 ヴァルクはやけに顔を赤くして、いつもよりたどたどしい口調だ。
 イレーナはじわっと胸が熱くなった。


(ああ、この犬みたいに可愛らしい反応、最高に愛おしいわ!)


 イレーナはぎゅっと彼に抱きついた。

 たとえ、そこに愛がなくても。
 ただの欲求を晴らす相手であっても。
 必要としてくれるだけで十分だ。


 それなのに、イレーナの心の隅には隙間風のようなものが吹いていた。
 その隙間はどうしても埋められなくて、自分でもどうにもできない。
 だから、笑って誤魔化すしかないのである。


(いやだわ。私、ずいぶん深入りしてしまったようね)


 認めざるを得なかった。
 完全に好きになってしまっている。
 けれど、個人的な感情を露わにして彼に嫌われたくなかったから、イレーナは決して言葉にしなかった。



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