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17、妹が旦那さまを狙っている

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 あの新婚旅行からすでに半年が経過しようとしていた。
 つまり、約束の1年まであと少し。
 フィリクスとアリアの関係は進展せず、このままずるずると期限を迎えようとしていた。

 あれから、ふたりの関係は悪くなることはなかったが、よくもならなかった。
 フィリクスは最初のほうこそアリアに猛アプローチしていたが、アリアがそれを冷たく返しているうちに、だんだんと彼の行動は落ち着いてきた。

 だが、アリアとて全面的に拒否をするつもりはなかったのだ。
 ただ、自分の気持ちに気づいてはいけないというふうに蓋をしてきたのである。

 だからお茶の時間でも、ふたりが同時にお菓子に手を伸ばし、手が触れた瞬間お互いに引っ込める。
 そして、ほんのり顔を赤くしてしばらく黙り込むのだ。


「子供の恋愛ですかね?」
 と侍女のユリアは呆れぎみにぼやくのだった。

 ふたりが両想いであることは、侍女や使用人など周囲はほぼ気づいていた。
 本人たちだけが壁を作ってお互いに踏み込まないようにしているのだ。


 そんな日々が続いたある日のことだった。
 アリアの妹のミラベルが、突然侯爵家に挨拶に来ることになったのである。


「お姉ちゃん、久しぶり!」

 ミラベルはアリアの顔を見た瞬間、笑顔で抱きついてきた。
 アリアは複雑な笑みを浮かべながら「久しぶりね」と返す。


「侯爵さまもお元気そうで何よりです!」

 ミラベルはフィリクスにも挨拶をした。
 フィリクスはゆっくりしていくように言い、ミラベルはなんと侯爵家に3日も泊まることになったのである。

 ミラベルは侯爵家にいるあいだ、フィリクスにくっついていた。
 食事の時間もずっとフィリクスと会話を楽しんだ。

 ミラベルはすっかりフィリクスが気に入ったようだ。
 フィリクスも嬉しそうにしており、まんざらでもなさそうだった。

 アリアはどうも落ち着かなかった。
 というのも、彼女はアリアのすべてを奪ってきたからである。


 ミラベルは病気がちで常に両親の気を引いていた。
 それに甘えていたのか、彼女は何を買い与えられても気に入らないと言い、もっと高価なものを両親に要求していた。
 そのときの口癖がこうだ。


『あたしは病気で可哀想なの。自由な身のお姉ちゃんとは違うんだから。欲しいものくらいちょうだいよ!』

 アリアはうんざりした。
 今、考えてみても嫌気がさす。


 病気と言っても幼少期の頃だけで、13歳になった頃にはすっかり健康そのものだった。
 しかし、主治医までもがミラベルを甘やかしていた。
 ミラベルの我儘に付き合いきれなくなったアリアが一度彼女に注意をしたことがある。
 すると、主治医は言った。

『あなたは可哀想な妹に冷酷すぎる。あなたのような意地悪な姉はこの世界のどこを探しても存在しないだろう』


 何が可哀想な妹だ。
 何が冷酷だ。
 何が意地悪な姉だ。

 アリアは当時のミラベルの主治医を憎んだ。
 だが、主治医はその後医療ミスを起こして首になり、伯爵家に来ることはなくなった。


 アリアは悶々とする気持ちを抑え、自分を落ち着かせるように深呼吸をする。
 ミラベルがフィリクスに好意を持とうが、関係ない。

 そう、関係ないのだ。
 どうせ、離縁するのだから。


「わあっ! 侯爵さまとあたしって趣味が合いますね! 今度一緒にお出かけしませんかあ?」

 ミラベルの提案にフィリクスは笑顔で「いいよ」と了承した。
 なぜ了承するのかしら、とアリアは睨むようにフィリクスを見つめた。

 
 ミラベルが滞在するこの3日間、アリアはよく眠れなかった。
 ベッドに入っても、もやもやした気持ちが晴れず、なかなか寝つけないのである。


「ミラベルはどうして私の大切なものばかり持って行くのかしらね」

 そんなふうに呟いたのは、寝入る寸前のことで、朝起きたときにはもう忘れていた。


 私の、大切なもの……。



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