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65話

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 放課後の会議。
 なぜか俺の家ですることになった。

 オーマイガー……。
 いや、まあ仕方ないんだけどさ……。

 人目のつく場所や、話を聴かれる恐れのある場所はダメだという話になったのだが……なぜに俺ん家……。
 いや、まあこれから戦おうって相手がいる『六道』家で堂々とするわけにもいかないのはわかってるけどさ……。

 というか……女子を招くの初めてなんだが……。
 入るのはあっても招くのはなかったわ……。だから、緊張してる。

 瞳さんはさすがというべきか、特に緊張したりする様子はなく凛とした表情でリビングのソファーに座っている。

 とりあえず、何もやましいことがあるわけもないし、割りきって机を挟んで瞳さんの対面に座る。

 何か気まずいことが起こるのも嫌だからさっさと本題にいこう。

「それで、どうします?」

「どうします? って言われてもね……。作戦の発案者は渚だし、指示に従うわよ」

 まあ、それはそうかもしれないけど、俺が本当に聞きたいのはそうじゃない。

「まあ、端的に言えば、組織をですね」

 そう切り出すと、ハッと俺の顔を見て考え込む。
 
「そう、ね……。ワタシの問題だもの。ワタシが『どうしたいか』が問題よね」

 一人言のように呟かれた言葉が俺の耳に入る。
 確かに発案者は俺だ。
 でも、指示に従ってるだけじゃ、瞳さんがどう変えていきたいか、という一番重要な部分がわからない。
 あくまで俺はサポート役だ。……まあ、サポートの範疇を超えてるけどな。

 ともかく、人の運命を勝手に決めるのは許せない。少々……いや、だいぶ痛い目にあってもらわないとな。
 
 そんなことを考えながら、思考に耽っている瞳さんの答えを待つ。
 すると、俺の目を真剣に真っ直ぐ見つめ話す。

「これは……ワタシの夢物語かもしれない。でも、聴いてほしい……」

 その声は少し不安で震えていたけど、覚悟というか……確固たる信念を胸に宿したようで、自らが言った夢物語という言葉を実現したいと願う気持ちが篭っていた。

「もちろんです」

 瞳さんの願いと気持ちに応えようと、俺も瞳さんを真っ直ぐ見据える。
 端から見れば見つめあってるようにしか見えないだろうけど、この時俺たちの心の中の何かが繋がったような気がした。


 そして瞳さんは語る。
 夢とそのルーツを。


「……ワタシが何かを変えたいって思ったのは随分昔だけど、ハッキリ憶えてる。
 その時は……小学生の時ね。当時のワタシは周りの……『六道』に連なる人たちから、他の組織の人までに『姫』のような扱いを受けていたの。それは当然。ワタシの祖父……『六道昌義』の初孫だもの。ちやほやされたし、欲しいものは何でも手に入った」

 瞳さんはそれが原因だったのだけれどね、と自嘲気に呟いて続けた。

「最初は子供だもの。欲しいものが簡単に手に入ることに疑問なんて感じなかったし、現状に満足してたわ。
 でも……ある日わかっちゃったのよね。……周りとの差が。
 小学校に入学してからはそれが如実にわかったわ。
 ワタシに近づいて消えていったクラスメートたちとか、欲しいものを我慢してる人がほとんどだとか。そこでワタシは初めて『他の人たちとは違う』ことに気づいたわ。……悪い意味でね。
 そんな日々を過ごしてるうちに、何が正しいかわからなくなってね。よく目を向けたら当たり前だと思ってたことが当たり前じゃなかったり。
 家では纏わりつくハエを払うような気軽さで横行してる暴力。
 ワタシはそんな日々を変えたい! 
 だからワタシは絶対にこの裏社会を平和にしたいの!
 もう……大切な人を失くすのが……嫌、なのよ……」

 歯を食い縛り、涙を堪えながら自身のきっかけと夢を語った瞳さんは俺にとって輝いて見えた。

 俺は昔からそのことがよくわかってたはずだ。なのにそれに目を向けようとしないで見て見ぬふりをした。
 つまり……逃げたんだ。
 瞳さんは本当はただ一人の女の子のはずなのに、『六道』という鎖に縛られて日々、その重責と現状を相手に戦ってきた。

 ……大切な人を守るために。

 それなのに俺は逃げて逃げて、知らないふりをしてのうのうと生きてきた。

 だから俺はできる最大限のことをしよう。
 贖罪ではないけど、俺の目的と希望のために。

 嗚咽を堪える瞳さんに俺は近づき、しゃがんで手を握る。

「絶対に成功させましょう。俺にできることは全てするつもりです」

「ありがとう……ありがとう……!」

「さ、泣くのは成功してからにしましょうよ。悲しみよりも嬉しみの涙の方が綺麗ですから」

 我ながらキザなセリフだと思うけど、そんなことは今はどうでもいい。
 俺の言葉に瞳さんは頷き、目の涙を強引に拭い前を見据える。
 
「そうね。泣くのも全部後!」

 そう言って前を向く彼女の瞳には輝かしい未来が見えているに違いない。
 俺も……そうでありたいと願っている。


☆☆☆

 その日の夜。突如かかってきた電話は、俺が待ち望んでいた人物だった。

「アマリリスか……。さすが仕事が早いな」

 まだ数時間しか経っていない。
 とりあえず、吉報であれ、と願いながら通話ボタンをタップした。

「良い報告と悪い報告。どちらから聞きたいっすか?」

 出るなり、そんなことを言ったアマリリス。
 こういう切り出し方は嫌な予感しかしない。でも、話さないと何も始まらない。だから俺はとりあえず、悪い報告から聞くことにした。

「悪い報告で」

「オッケーっす。悪い報告っすけど、脅す材料は見つかるには見つかるっすが、どれも弱いっすね。正直、上手くいかないと思うっす」

「なに……?」 

 残虐非道で知られているはずだ。なのに材料が弱いってどいうことだ?
 情報を隠してる……? いや、それでもアマリリスなら突破できるはずだ。

「なーんかきな臭いんすよねぇ。掴んだ情報だと前当主はさほど悪いことはしてないんすよ」

「きな臭い……それって、何か事情があるってことか?」

「そう考えてもらってもいいっす。現当主も多分、前当主に直接会って言われてるわけじゃないっすから」

 確かに、俺が直接その指示をされたのか、と聞くと、首を振って電話で指示されたと言っていたはずだ。しかも最近は会えていない、と。

 これがきな臭いって理由か……。

「つまり、黒幕的な何かがいるってことか?」

「それが良い報告っすね。その黒幕はもうリークしたっす」

「早くね!?」

 仕事が早いどころの話じゃないぞ……。

 じゃあ、話を整理すると、前当主は悪くなくて別に指示している黒幕がいる、と。

「それで黒幕っすけど─────っす」

 その名を聞いた瞬間、の行い、評判が思い出されて俺は合致がいった。

「ふーん。あいつらがねぇ……」

 自分でも相当に底冷えした声を出したと思う。それだけ俺は『怒っている』。

「お、怒ってるっすか?」

「当たり前でしょ。ちょっと……まじでキレる」

 頭の悪そうながどうやって思い付いたのかは少し怪しい部分があるけども知らん。とにかく許さん。

 ……といっても。

「だけど、どうすればいいか、だな……」

 そこが問題だ。
 正体がわかったところで、対応する術がないのだ。
 どうせ数の力で来るだろうし、さすがにキツイ。

 脅しも、もはや無駄な話だ。
 すると、光明はアマリリスからもたらされた。

「簡単っすよ♪ 捕らわれてる本当の『六道』の前当主をこっそりと助け出すっす!」

「あぁ、なるほどね……って、えぇぇぇぇぇれ!?」

 あ、捕まってんのね!?

 だから助け出しても……

「あ!」

「気づいたっすか?」

 わかったぞ、助け出す理由が。

「助け出して、『六道』として命令してそいつらを潰せばいいのか」

「正解っす」

 簡単な話だ。
 現時点での前当主は偽物だ。孫の瞳さんが知らないとなると、組全体が騙されているはずだ。

 だから、本物を助け出して、事情を言えば子分たちが黙っていないだろうから、あとは任せれば解決する。

 命令したのも偽物となると、瞳さんの意見が通る可能性も高い。

 さあ、やっと解決の糸口が見えてきたぞ!

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