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55話
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マンションを出ると、ひんやりとした風が頬を撫でる。
ブルッと寒さに体を震わせた俺の近くに、監視しているような、強い負の感情を伴った視線を感じた。
そう、俺はマンションに入る前にこの視線を感じたのだ。
だから、万が一のことがあっては困ると、日夏の送りを拒否した。
俺は経験上、視線に敏感だ。だが、それが誰か、だとか距離とかは漫画じゃあるまいしわからない。
視線に気付くことと、その視線の種類くらいしかわからない。
……まあ、充分漫画の設定っぽいが。
俺が辺りを警戒していると、ふと曲がり角から人が現れた。
視線の質が同じく負の感情を持ち、黒く濁った瞳を向けている人が。しかし、俺はその瞳に気が付くことができなかった。
なぜなら──
「花ちゃん?」
曲がり角から現れたのは花ちゃんだったからだ。
花ちゃんは虚ろな表情で俺を見る。陰が差した表情に、何かあったんじゃ……と思った俺は花ちゃんに駆け寄るその瞬間。
「おわっ!?」
その細腕から想像できない力で引っ張られ、都合よく近くにあった路地裏へと連れ込まれ、なす術もなく倒れる。さらに、起き上がろうとした俺を押し倒し、荒い息を吐き出す。
困惑してる俺を他所に、怒気を浮かべ、冷淡な声で俺に問いかける。
「あれは同じクラスの春風さんだよね? なんでなぎくんが春風さんの家に出入りしてるの? ねぇ、どうして。どうして」
機械のように淡々と俺を責める。静かな声とは裏腹に凄みのある雰囲気にたじろいでしまう。
「い、いったいどうしたんだよ急に」
「いいから答えて」
俺の疑問を切り捨て能面のような表情で答える。
そこで俺は悩んだ。日夏に勉強を教えていることを言っても大丈夫なのか、と。別に日夏も隠してるわけではないだろうが、むやみやたらに話すようなことでもない。
しかし、だ。ここで話さなければこの押し倒されている状況は解除されないだろう。
力ずくで脱出することはできるが、花ちゃんを傷つけたくないし、どうしてこんなことをしたのかの理由も聞きたい。
「なんで黙ってるの? 何かやましいことでもあるんじゃないの?」
考えている俺が隠し事をしているように見えたのだろうか。そんなことを言ってくる。もう考えても仕方ない。日夏には悪いが話すしかないだろう。
「実はちょっと事情があって、日夏に勉強を教えてるんだよね」
「は? 日夏……? なんで名前呼びなんかに……」
俺に聞こえない音声でぶつぶつと呟く。心なしかさっきより怒っているようである。
そもそもなんで怒ってるんだよ……。
詰問されるようなことでもなかろうに……。
なにか区切りをつけたように、怒りを少し納めた……少し、ここ重要。そして、花ちゃんはさらに俺に尋問をする。
「勉強っていっても、春風さんは頭いいはずだけど?」
なんで知ってるんだと言いたいが、まあ、日夏だし頭いいことは有名なのかもしれないな。疑問を浮かべる花ちゃんに、俺は事情を伝える。
「日夏は東大を目指してるんだけど、点数が足りなくてな……。俺が点数伸ばすために教えてるんだよ」
土下座で頼まれたことをもちろん言わない。というか言ったら何かヤバい予感がする。
「……そもそもなぎくんって頭よかったの?」
結構驚いた、といった表情で俺を見てくる。失礼だなおい。
とりあえず俺は証拠に、ちょうどポケットに入っていた模試の結果を花ちゃんに渡す。
ちなみになぜ、ポケットに入っていたかというと、日夏父が俺の成績の事について言うのではないか、と思ったため証拠のために持ってきたのだ。
花ちゃんは俺の渡した紙を開き、しげしげと眺め、ちょうど点数の書いてあるとこで、目を見開き驚く。
「ま、満点!? 嘘でしょ!? 本当に頭よかったんだ……。裏切られた……」
裏切られたって……。花ちゃんもイメージ的に頭良さそうだけど。察しもいいし、推測する力もなかなかのものだ。
「そういう花ちゃんは何点だったんだ?」
気になった俺がそう聞くと、途端に暗い表情を浮かべ、小さく口を開いた。
「聞かないで……」
「あ、はい」
その一言で察した俺である。
というか、未だに押し倒されたままなんだが!?
ブルッと寒さに体を震わせた俺の近くに、監視しているような、強い負の感情を伴った視線を感じた。
そう、俺はマンションに入る前にこの視線を感じたのだ。
だから、万が一のことがあっては困ると、日夏の送りを拒否した。
俺は経験上、視線に敏感だ。だが、それが誰か、だとか距離とかは漫画じゃあるまいしわからない。
視線に気付くことと、その視線の種類くらいしかわからない。
……まあ、充分漫画の設定っぽいが。
俺が辺りを警戒していると、ふと曲がり角から人が現れた。
視線の質が同じく負の感情を持ち、黒く濁った瞳を向けている人が。しかし、俺はその瞳に気が付くことができなかった。
なぜなら──
「花ちゃん?」
曲がり角から現れたのは花ちゃんだったからだ。
花ちゃんは虚ろな表情で俺を見る。陰が差した表情に、何かあったんじゃ……と思った俺は花ちゃんに駆け寄るその瞬間。
「おわっ!?」
その細腕から想像できない力で引っ張られ、都合よく近くにあった路地裏へと連れ込まれ、なす術もなく倒れる。さらに、起き上がろうとした俺を押し倒し、荒い息を吐き出す。
困惑してる俺を他所に、怒気を浮かべ、冷淡な声で俺に問いかける。
「あれは同じクラスの春風さんだよね? なんでなぎくんが春風さんの家に出入りしてるの? ねぇ、どうして。どうして」
機械のように淡々と俺を責める。静かな声とは裏腹に凄みのある雰囲気にたじろいでしまう。
「い、いったいどうしたんだよ急に」
「いいから答えて」
俺の疑問を切り捨て能面のような表情で答える。
そこで俺は悩んだ。日夏に勉強を教えていることを言っても大丈夫なのか、と。別に日夏も隠してるわけではないだろうが、むやみやたらに話すようなことでもない。
しかし、だ。ここで話さなければこの押し倒されている状況は解除されないだろう。
力ずくで脱出することはできるが、花ちゃんを傷つけたくないし、どうしてこんなことをしたのかの理由も聞きたい。
「なんで黙ってるの? 何かやましいことでもあるんじゃないの?」
考えている俺が隠し事をしているように見えたのだろうか。そんなことを言ってくる。もう考えても仕方ない。日夏には悪いが話すしかないだろう。
「実はちょっと事情があって、日夏に勉強を教えてるんだよね」
「は? 日夏……? なんで名前呼びなんかに……」
俺に聞こえない音声でぶつぶつと呟く。心なしかさっきより怒っているようである。
そもそもなんで怒ってるんだよ……。
詰問されるようなことでもなかろうに……。
なにか区切りをつけたように、怒りを少し納めた……少し、ここ重要。そして、花ちゃんはさらに俺に尋問をする。
「勉強っていっても、春風さんは頭いいはずだけど?」
なんで知ってるんだと言いたいが、まあ、日夏だし頭いいことは有名なのかもしれないな。疑問を浮かべる花ちゃんに、俺は事情を伝える。
「日夏は東大を目指してるんだけど、点数が足りなくてな……。俺が点数伸ばすために教えてるんだよ」
土下座で頼まれたことをもちろん言わない。というか言ったら何かヤバい予感がする。
「……そもそもなぎくんって頭よかったの?」
結構驚いた、といった表情で俺を見てくる。失礼だなおい。
とりあえず俺は証拠に、ちょうどポケットに入っていた模試の結果を花ちゃんに渡す。
ちなみになぜ、ポケットに入っていたかというと、日夏父が俺の成績の事について言うのではないか、と思ったため証拠のために持ってきたのだ。
花ちゃんは俺の渡した紙を開き、しげしげと眺め、ちょうど点数の書いてあるとこで、目を見開き驚く。
「ま、満点!? 嘘でしょ!? 本当に頭よかったんだ……。裏切られた……」
裏切られたって……。花ちゃんもイメージ的に頭良さそうだけど。察しもいいし、推測する力もなかなかのものだ。
「そういう花ちゃんは何点だったんだ?」
気になった俺がそう聞くと、途端に暗い表情を浮かべ、小さく口を開いた。
「聞かないで……」
「あ、はい」
その一言で察した俺である。
というか、未だに押し倒されたままなんだが!?
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