恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸

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54話

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 今俺たちは、互いに向かい合って座っている。
 それは、日夏父を待つためである。
 じっと黙って座っている日夏の心情は、父に認めてもらえるかという不安が渦巻いていることだろう。

 こればっかりは俺はどうしようもない。
 日夏父が認めてくれるなんて、神のみぞじゃなくて、父のみぞ知る。

 もしかしたら、あの出した目標は、建前かもしれない。
 絶対に取れるはずがない、と。

 ……いや、俺が不安になってどうするんだ。

 でも、実際に日夏はその点を取った。
 杞憂……だといいんだが。




☆☆☆

 「それで、結果は?」

 俺は日夏の横に座り、対面には渋い表情をしている日夏父がいる。
 なんか日夏父がゲームのラスボスに見えてきたな……。
 
 あらかじめ、日夏が結果を伝えることになっている。
 日夏は意を決した表情で、父に伝える。

 「お父さん! はい!」

 いや、紙渡すんかーい。と思ったけど、口よりも説得力があるだろう。 
 
 日夏父は日夏が渡した模試の結果を見て、表情を変える。

 「ほぅ。目標を達成したのか」

 感心はしたけども、感慨は抱いていない様子だった。
 その目には、目標を叶えた娘に対する嬉しさ等は無い。
 当たり前と言わんばかりの顔に、俺は少しばかりか苛立ちを覚えた。

 「それで、認めてくれるんですか?」

 その苛立ちを一端置いておき、最初の議題である俺が日夏へ教える許可についてを尋ねた。
 そもそも許可がいること事態おかしくね?
 勉強を教えることに許可もないだろうに……。
 俺はそう思ったが、実際日夏父に言われてる以上、無視して教えることはできなくなってしまっている。

 ならば、日夏父に見つかる恐怖を感じながら教えるよりも、許可を得て気持ちよく教えれる方が何倍も良いだろう。
 
 「……わかった。教える腕は確かなようだ。認めよう」

 少し時間をかけて悩んだあと、渋々といった感じで認めた。

 許可が出たことに喜んだ俺たちは思わず顔を見合わせ笑顔になる。

 「ありがとうございます!」

 「ありがとう、お父さん!」

 俺たちは日夏父に礼を言う。
 すると、日夏父はカッと目を見開き、だが、と付け加えた。

 「だがッ! 認めるのは勉強を教えることだけだッ! 付き合うこととかは認めんぞ!」

 と、鬼の形相で言い放った。
 
 ……ガチの表情で何を言っているんだか。
 そもそも、この人俺と日夏が付き合ってるって勘違いしてたのか?
 まあ、二人きりで教えてるわけだし、疑われるのも仕方ないかもな。

 俺は荒ぶる日夏父を落ち着かせる。

 「大丈夫ですよ春風さん。俺たちは付き合ってるわけではないので」

 「君にお父さんと言われる筋合いはないッ!」

 言ってねぇよ!? なんか話の通じない雰囲気を感じるぜ……! 厄介だなおい。

 そして、日夏父はふぅふぅと息を吐き、落ち着く。
 
 「本当なのか? 付き合ってないというのは」

 「本当ですよ。付き合うつもりもないので」

 日夏はそもそも俺のことなど、意識してないだろう……多分。
 だから安心させるように言う。

 すると、何故か隣に座っていた日夏が愕然とした表情を俺に向けていたが、気にしないようにする。

 「まあ、いいだろう。
 日夏。ちゃんと成績を維持するんだぞ。満点近く取らないと東大には入れないんだからな」

 そう言うと、日夏父は家を出ていった。

 ガチャっという扉を閉める音が聞こえると同時に、俺たちはハァ……と安堵のため息を吐く。

 いや、疲れるなぁ……。主に精神が。

 「ごめんね、うちの父親。ちょっと変だからさ」

 ちょっとじゃなくない? って思ったけど、それを面と向かって言えるほど俺は図太くない。

 「大丈夫。癖強い人なら死ぬほど知ってるから」

 ケイヤ、先輩方、天笠の面々etc……。
 挙げれば数多くの人がいる。
 
 考えてみれば癖強い人多すぎなんだよ。
 
 「そんな嘘ついて…………って本当みたいだね」

 俺が嘘をついてフォローしようとしたのだと思ったのだろうか。
 嘘をついて、と言いかけたが、俺の渇いた笑みに本当のことだと感じ取ったのか、苦笑いを浮かべる。

 くそっ。まともな人なんて日夏と花ちゃんくらいしかいないっ!

 そもそも俺の知り合いのほとんどが裏社会の人間なのが問題なんだろうけどね。

 「とりあえず帰るな」

 時間を見ると五時半で、秋に差し掛かった北海道では、外は暗闇へと変わろうとしている。

 日夏はそれに頷き、送ろうとしてくれたが、それを断り一人で出た。


 さて、とりあえず問題は解決……か。

 何故かしこりの残った感傷に浸りながらも、俺は日夏の住んでいるマンションを出た。
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