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51話

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 「ジジイ!」

 俺が受付で病室を聞き、駆けつけるとそこには全身管で繋がれたジジイの姿……ではなく、なぜかヤスとヒデに押さえ付けられているジジイがいた。

 「なんじゃ、渚か。この馬鹿どもをさっさと離してくれ!」

 俺に気が付いたジジイが、少し切羽詰まった声で言う。
 それを見て俺はハッとした。
 
 普段のジジイなら、ヤスとヒデなど片手で押し退けることができる。
 けれど、ジジイはヤスとヒデに四苦八苦している。
 それだけ体が弱っている証拠だからだ。

 「ジジイ、落ち着け。とりあえず何があった?」

 荒ぶるジジイを宥め、渋々従ったジジイにホッとしたヤスとヒデに、俺は問い掛けた。

 「それなんですがね……」

 「言わんでいいわい!」

 事情を説明しようとしたヒデの言葉を、ふいにジジイが遮った。

 ……本当に何があったんだよ……。

 「へい、ヒデカモン」

 このままでは埒が明かないので、ヒデを呼び寄せる。
 当然ジジイも反論しようとするが、ヤスが掲げたナースコールを見て黙った。

 そのまま、俺とヒデは病室の外に出る。

 「んで?」

 そして、ヒデに目線を向ける。
 ヒデは俯きがちで、何かを耐えるような顔をしていた。
 その表情に、益々不安になった。

 「実は……。脳梗塞で倒れたんです」

 俺は告げられた事実に呆然とする。

 脳梗塞……もちろん、知識としては知っている。
 脳内の血管が細くなったり、血栓ができて血管が詰まってしまい発生する症状……だったはずだ。

 そして、血管が詰まると血液の流れが止まってしまい、脳に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳の神経細胞が壊死してしまい、さまざまな障害が生じる。

 死亡率も高く、今ピンピンしてるのが不思議なくらいだ。

 「いつから?」

 「ずっと症状は隠してたらしいです」

 「そうか……」

 俺は頭を抱える。
 脳梗塞は恐ろしいが、早期発見をすれば、治療の方法は様々にある。
 そして、脳梗塞は呂律が回らなくなったり、体が麻痺したりなどの症状がある。
 それらを経て倒れたりするのだ。
 つまり、倒れたあとは遅いことが多い。

 「くそ、ちゃんと気付いとけば……!」

 「若のせいじゃないです。寧ろ俺たちが──」

 「そんな気休めはいらねぇよ。とりあえず今は責任だとか、誰のせいだとかはいい。どうするか、だ」

 「ですね……。でも、ボスはずっとあんな調子で、退院できるとか言ったり」

 「相変わらずだな……」

 ジジイを落ち着かす方法は無い。
 時間が経てば、もっと暴れ病院を抜け出してしまうかもしれない。

 いったいどうすればいいんだ。

 「治療はどうなってるんだ?」

 とりあえず倒れた後の治療の有無を確認する。
 すると、後悔の表情で言った。

 「血栓溶解薬は投与したんですが、発見が遅れたせいであまり効果が無いかもしれない、と」

 脳に血栓が詰まってることから、発症後4、5時間以内には血栓を溶かす、血栓溶解薬が投与される。
 ヒデが言うには、5時間近く経ったあとらしいのだ。

 「じゃあ、なんでジジイは元気なんだよ」

 そんな状況なら、刻一刻を争うはずだ。
 それに、少し呆れたような表情で、ヒデが言った。

 「それが、医者にもわからないそうです。ただ症状は治ってるので、二、三日で退院できるらしいです」

 「さっきの重い話はなんだったんだよ!」

 やっぱ、あいつ超人だわ。
 かー! 心配して損した。

 だが、少しホッとしている俺もいた。

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