上 下
45 / 73

45話

しおりを挟む
 「さあ! 次は動物園だよ!」

 時刻は午後12時半。
 レストランを出た瞬間、元気よく日夏が言った。
 映画の余韻が残り、アンニュイな気分に浸っていた俺だが、気持ちを切り替え、動物園へと挑む。

 「そういえば、動物園とか久しぶりだな」

 丸山動物園へ行くためのバスの中で、俺はそう、話を切り出した。

 「実は私も久しぶりなんだよね」

 「へぇ、日夏もなんだ。なんか動物好きそうだから、結構行ってるのかと思った」

 「好きなんだけど、お母さんが動物嫌いだから行く機会がなかったんだよね……」

 しゅん、として言う日夏。
 
 「確かに一人で行くのもハードル高いしな」

 一人カラオケよりも、ハードル高いと俺は思う。
 家族連れでワイワイしてるなか、一人で動物を見るのは、まったく悪いとは思わないが、かなりの上級者だろう。何がとは言わないが。

 「そうなんだよね……だから、今日は楽しみ!」

 バッと振り向いて、俺に笑いかけた日夏。
 
 「じゃあ、楽しむか!」

 そんな日夏に、俺もテンションを上げる。
 こういうのは、同調が大切だ。
 皆が楽しいと思っても、ただその空間で楽しくないと思ったものがいるだけで、空気がぶち壊されるだろう。

 無理にとは思わないが、テンションを上げるのは大切だ。

 これを、俗に空気を読むと言うのだ。


☆☆☆


 「ビバッ! 動物園っ!」

 入り口の目の前で、謎のポーズを取る日夏。
 俺の想像以上にテンションが高い。
 相当楽しみにしてたんだろうな……。

 「じゃあ、行こうか」

 待ちきれない様子の日夏にそう、声をかける。
 うん! と頷き、隣に並ぶ。

 日曜だけあって、結構な込み具合だ。
 家族連れが多いが、カップルも多い。

 今の俺たちはどう見られてるんだろうか……。

 「今、カップル割を行っております~。いかがですか~?」

 受付にたどり着き、券を買おうとした時、受付の従業員にそう言われた。

 横をチラッと見ると、日夏と目が合う。
 よく表情は見れなかったが、きっと困っているだろうも思い、普通料金で、と言おうとした時、なにやら慌てた様子の日夏が、食いぎみに言った。

 「か、か、カップル割で!」

 「日夏!?」

 顔を朱く染めて、言う日夏。
 それに、思わず声を挙げてしまう。
 
 「ほ、ほら安くなった方がいいしょ!? そ、それだけ!」

 俺の耳元でそう囁く。

 目をグルグルして言い訳する姿に、俺はなんか嘘っぽいけど、これくらいしか理由がないと思い、信じた。

 それにしても、さすがだな。
 何がなんでも得した方を取る精神は、素直に感銘を受ける。

 節約大事! 

 
 受付を抜けた俺たちは、ようやく中に入った。

 最初に、入り口を抜けて見た動物は、猿だった。

 「おぉ! お猿さんだあ!」

 猿にお、を付ける日夏に何かの可愛さを感じてしまった。
 
 「そ、そうだな。猿だな」

 感じたことを、気取られないよう、普通に話そうとした俺。

 「ダメだよ! お猿さんは先祖だよ? 立場上同じなんだから敬称付けなきゃ!」

 そんな考え方が!? ただ天然でお、を付けてたわけじゃないのね……。
 それはそれはですごいと思うけど。 

 そこから、色々なところを回る俺たち。
 鳥類のコーナーや、アライグマでは、ひたすら日夏が可愛いと叫んでいた。

 爬虫類館で、叫んでいたのも記憶に残る。
 まあ、叫んだの俺だけどな!

 苦手なんだよ! あの感触とか、姿!
 叫ぶ俺を尻目にケタケタ笑っていた日夏がやけに印象に残った。

 
 『ただいま~14時より、虎の餌やり体験ができます。参加したい方は総合受付までお越しお願いします』

 見て回っていたら、突如そんなアナウンスか入った。
 すると、俺の裾を急に引っ張り、すごい食い付きをみせる。

 「餌やりだって! わ、私、虎に餌をあげるのが夢だったんだよね! 気になるから行こ?」

 少し不自然にも思える食い付きで俺を誘う。
 その不自然さに若干の違和感を感じつつ、特に断る理由もないため、了解する。

 「おっけー。行こうぜー!」

 「うん! ありがと!」

 お礼を言いながらガッツポーズを取る日夏が、目に映った。
 そんなに、餌やりが楽しみだったんだろうか。

 
 「ふんふふーん♪」

 受付をした俺は、上機嫌にスキップをしながら鼻歌を歌う日夏を先頭に、虎の飼育コーナーに向かう。

 なんと、餌やり体験をするのは俺たちしかいない様子だった。
 一時間に一回行うそうなので、それは確かに人が少なくなるだろう。

 隣の日夏を見ると、何かを企むような顔をしているように見えた。
 久しぶりに見る、腹黒大天使の姿だ。
 俺は一抹の不安を覚えつつ、一応何か仕掛けてくるのだろうかと、警戒をする。

 と、言っても俺にすることなんてあるのか?
 嫌がらせを日夏がするわけないし。
 まあ、いっか。
 それに俺の気のせいだな。

 と、考えていると餌やり体験が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

処理中です...