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36話

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 「なんか近くないですかね……」

 大きな雷により、停電してしまったようだ。
 そして、なぜか俺に寄り添って座る日夏。

 「雷怖いのか?」

 てか、それしか理由がないだろう。
 俺にくっつく理由など。

 「う、うん。実は昔に目の前の木に雷落ちたことがあって……それがトラウマで……だからもうちょっと寄っていい?」

 「う、うん」

 薄く暗く見える、日夏の上目遣いで懇願された俺は、頷くしかなかった。
 あれを、断れる人いないだろうよ……。

 ありがとう、と言った日夏は更に体を寄せ、ぴったりと俺にくっつく。

 隣に感じる触感に、俺の心臓はバクバクと激しいビートを鳴らしている。
 
 無言で流れる時間。
 よく日夏を見ると、その体は震えていた。
 寒さではなく、怖さだろう。

 気付かないなんて、俺も自分ばっかりだな……。

 「実はさ──」

 とうしたらいいか、と考えた結果、少しでも怖さをまぎらわせるため、俺は話しかける。

 「──ということがあってさ」

 話し終えた俺が、日夏を見ると笑っていた。
 いつしか、震えも止まっていた。

 俺はそれにホッとする。
 そして、ちょうどそのタイミングで、停電が復旧する。
 立ち上がった日夏が、俺を微笑む。

 「ありがとね。渚くん」

 「ん? なんのことだ? 俺はただ話してただけだぞ」

 俺はただ話しただけだ。
 何の意図もない。……本当だって。

 「ふふっ、私はわかってるからね」

 まあ、普通にバレていて、慈愛に満ちた微笑みをされる。
 ただ、ここでそうだ、と認めるのもなんか恥ずかしい!

 「な、なんのことかなぁ」

 俺はすっとぼける。
 
 「もうっ」

 頬をプクーっと膨らませて不満な様子だ。
 怒っているアピールのつもりだろうが、ただただ、かわいい。

 「じゃ、じゃあ、俺帰るから」

 これ以上追及されてたまるか! と逃げるように家を出る。

 「あ、待って。見送るから」

 そういって付いてくる日夏。
 またなんか言われないだろうか……と思ったが、もう追及されないようだ。

 俺は結局バレたが、微かなプライドを守りきったのだった。

 マンションを出て、上を見上げると、暗い夜の闇に煌々と輝く月があった。

 「今夜は月が綺麗だね」

 ふと、隣に立った日夏がそう言う。

 「そ、そうだな」

 ふいに言われた言葉に、一瞬心臓が跳ねる。

 そんな意味は込められていないと思うが、急に言われ、驚いてしまった。
 ちょっと動揺したことにバレてないだろうか……。
 日夏はそんな俺に、いつも通りの笑みを浮かべるばかりだった。



☆☆☆

 「その意味で合ってるんだけどなあ……」

 渚くんが歩いて帰った方向に向かって、そう呟く私。

 「渚くん、渚くん……ふふっ」

 お互い名前呼びになっただけで、喜ぶ私。

 でもそれはきっと大きな一歩のはずだ。

 「鈍感に周りくどいのは効かないなぁ……かといって攻めすぎるのも……」

 恥ずかしくて、きっとボロが出てしまう。

 「まあ、ともかく……白海さんには負けない」

 闘志に満ちた瞳で、私は呟く。
 あえて言葉にすることで、覚悟を本気にするために。

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