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31話
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「お母さん……なんで」
目の周りが赤く腫れ上がった白海はそう言った。
白海母の本音を聞き戸惑っているのだろう。
離れて知った、母からの愛情の有無。
「花……ごめんなさい。でもあなたの幸せには私は必要ないの」
「そんなことっ……!」
艶やかな髪を激しく揺らして否定する白海。
「あるのよ。このままだと花は私のせいで不幸になる」
それでも白海母は考えを変えない。
自分の存在が娘の邪魔になると、激しく想っている。
「じゃあお母さんがギャンブルとか、そういうのを止めたら……!」
それができれば一番……なのだが。
「もう……もう遅いのよ」
白海母は静かに首を横に振り、沈痛な表情で言う。
ギャンブル中毒。
他の中毒。……例えばお酒だったり、薬物だったりと比べても、ギャンブル中毒は非常に厄介だ。
お酒や薬物。
もちろん、薬物は法律で禁止されているが、この二つを服用しても何も生産性を生まないのに比べて、ギャンブルというのは地獄に伸びる蜘蛛の糸のように、『当たり』という救済措置がある。
そのため「これに当たれば」だとかの、何の根拠もない希望にすがる。
その結果、失敗して人生を追い詰められた人が多く存在する。
もはや、ギャンブルというのは自分の意思で止めることができないのだ。
軽度であれば救いようはあるのかもしれない。
だが、遅い、という言葉の通り自分では止めることのできない域までに到達してしまっているのだろう。
「そう……わかった。じゃあお母さんは好きにして」
それは突き放す言葉ではない。
娘の幸せばかりを望んでいた、母への自由に生きて欲しいという感情だ。
微笑を浮かべた白海を見て、自分なりに解釈したのだろう。
白海母は、そこで初めて感情というものを表に出した。
「ごめんっ……! ごめんね……! こんなお母さんでごめんね……!」
白海に抱きつき、大粒の涙を流しながら、ごめんね、と言う白海母。
その『ごめん』という言葉には様々な意味が篭っているのだろう。
結果的に借金を負わせてしまったこと、一人で逃げたこと、拒絶したこと、不甲斐ない母親だったこと。
離れて後悔していたことを、涙が洗い流すように流れていく。
白海は子どもをあやすように、髪を撫でる。
「私はお母さんのこと、ずっとお母さんって思ってるから。だからさ、たまにでいいから顔を出してね」
自分も母と離れるのが悲しいのに、それをおくびにも出さず、気丈に振る舞う。
「うん……! 私頑張るからぁ……!」
ずっと泣いていなかったのか、堰が切れたかのように泣き続ける。
そして、しばらく二人は抱き合っていた。
☆☆☆
「一件落着、かな」
俺は二人の様子を見ながら、そう言葉が溢れる。
「情報だけじゃダメ……人の心情はその人にしかわからないものな」
結局俺には人を信じる心が足りなかった。
行動に対する情報だけで決めつけて、悪者だと決めつけて。
その結果、二人の絆を疑ってしまった。
「本当に白海を連れてきてよかった……というか付いてきてくれてありがとうだな、これは」
白海の問題であったが、俺はこの出来事で学ぶことができた。
人の信じる心の尊さだったり、親子の愛情だったり。
後者は充分に注いでもらっているけど。
俺はそんなことを考えていると、白海母がこちらをじっと見つめていることに気が付いた。
「えーと、なんですか?」
あまりに見つめられるものだから、俺は居たたまれなくなり、聞く。
「あなたの名前は?」
そういえば名前言ってなかったか。
俺は改めて、と言葉にして自己紹介をする。
いや、事後紹介か?
「俺は狭山 渚です。娘さんとは同級生です」
「狭山 渚……なぎさ…………あ!」
俺の名前を噛み締めていたようだったが、ふいに何かに気が付いたかのように声を上げる。
「あなた! 花と同じ幼稚園だった渚くんね!?」
「え」
そして、こちらを指差し衝撃のことを口にした。
目の周りが赤く腫れ上がった白海はそう言った。
白海母の本音を聞き戸惑っているのだろう。
離れて知った、母からの愛情の有無。
「花……ごめんなさい。でもあなたの幸せには私は必要ないの」
「そんなことっ……!」
艶やかな髪を激しく揺らして否定する白海。
「あるのよ。このままだと花は私のせいで不幸になる」
それでも白海母は考えを変えない。
自分の存在が娘の邪魔になると、激しく想っている。
「じゃあお母さんがギャンブルとか、そういうのを止めたら……!」
それができれば一番……なのだが。
「もう……もう遅いのよ」
白海母は静かに首を横に振り、沈痛な表情で言う。
ギャンブル中毒。
他の中毒。……例えばお酒だったり、薬物だったりと比べても、ギャンブル中毒は非常に厄介だ。
お酒や薬物。
もちろん、薬物は法律で禁止されているが、この二つを服用しても何も生産性を生まないのに比べて、ギャンブルというのは地獄に伸びる蜘蛛の糸のように、『当たり』という救済措置がある。
そのため「これに当たれば」だとかの、何の根拠もない希望にすがる。
その結果、失敗して人生を追い詰められた人が多く存在する。
もはや、ギャンブルというのは自分の意思で止めることができないのだ。
軽度であれば救いようはあるのかもしれない。
だが、遅い、という言葉の通り自分では止めることのできない域までに到達してしまっているのだろう。
「そう……わかった。じゃあお母さんは好きにして」
それは突き放す言葉ではない。
娘の幸せばかりを望んでいた、母への自由に生きて欲しいという感情だ。
微笑を浮かべた白海を見て、自分なりに解釈したのだろう。
白海母は、そこで初めて感情というものを表に出した。
「ごめんっ……! ごめんね……! こんなお母さんでごめんね……!」
白海に抱きつき、大粒の涙を流しながら、ごめんね、と言う白海母。
その『ごめん』という言葉には様々な意味が篭っているのだろう。
結果的に借金を負わせてしまったこと、一人で逃げたこと、拒絶したこと、不甲斐ない母親だったこと。
離れて後悔していたことを、涙が洗い流すように流れていく。
白海は子どもをあやすように、髪を撫でる。
「私はお母さんのこと、ずっとお母さんって思ってるから。だからさ、たまにでいいから顔を出してね」
自分も母と離れるのが悲しいのに、それをおくびにも出さず、気丈に振る舞う。
「うん……! 私頑張るからぁ……!」
ずっと泣いていなかったのか、堰が切れたかのように泣き続ける。
そして、しばらく二人は抱き合っていた。
☆☆☆
「一件落着、かな」
俺は二人の様子を見ながら、そう言葉が溢れる。
「情報だけじゃダメ……人の心情はその人にしかわからないものな」
結局俺には人を信じる心が足りなかった。
行動に対する情報だけで決めつけて、悪者だと決めつけて。
その結果、二人の絆を疑ってしまった。
「本当に白海を連れてきてよかった……というか付いてきてくれてありがとうだな、これは」
白海の問題であったが、俺はこの出来事で学ぶことができた。
人の信じる心の尊さだったり、親子の愛情だったり。
後者は充分に注いでもらっているけど。
俺はそんなことを考えていると、白海母がこちらをじっと見つめていることに気が付いた。
「えーと、なんですか?」
あまりに見つめられるものだから、俺は居たたまれなくなり、聞く。
「あなたの名前は?」
そういえば名前言ってなかったか。
俺は改めて、と言葉にして自己紹介をする。
いや、事後紹介か?
「俺は狭山 渚です。娘さんとは同級生です」
「狭山 渚……なぎさ…………あ!」
俺の名前を噛み締めていたようだったが、ふいに何かに気が付いたかのように声を上げる。
「あなた! 花と同じ幼稚園だった渚くんね!?」
「え」
そして、こちらを指差し衝撃のことを口にした。
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