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26話
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「そこまで……」
そんなにも憎んでいたのか……。
自分を捨てた母親を恨まない方が難しいかもしれないが、母は母だ。
だが、白海の言った母という言葉には憎しみと、怒り、苦しみが込められていた。
「でも良いの。私には義母《はは》がいるから」
「そうか……」
結局俺は、気の利いた言葉一つも言えないまま、ただ無情に時間だけが過ぎていった。
俺は授業の間、白海のことをなんとかできないものかと悩んでいた。
だが、白海はどうも割りきっているようにも見える。
だが、俺の目からすると、少し、ほんの少し無理してるような微かな違和感があった。
そこに踏み込むのは、薄氷の上を走っていくようなものだ。
……結局俺にはなにができるんだ?
ただ、正義感という感情に身を任せて白海のスペースに土足で踏み込むようなことをしていいのだろうか。
いや、でも俺は正義感だけじゃない、一人の女の子である白海のことをどうにかしてあげたい、という思いがある。
悲痛な思いで語った姿を、昔の俺と重ねたせいなのだろうか。
あの時から、毅然に振る舞う白海はどこか危うげに見えて。
……いったい俺はどうすればいいのだろう。
そう自問自答を繰り返して。
☆☆☆
「──くん? ──山くん? 狭山くん!」
ハッとした俺を春風の顔が覗く。
俺は辺りを見渡すと、そこは二回目となる春風の家。
……そうか、二回目の勉強会だったか。
ボゥッとしたまま、為すがままに授業を終えた俺は、春風に頼まれ家にやってきたのだった。
「ごめん、ボーっとしてた……」
俺は勉強の途中なのに関わらず、集中していなかったことを謝る。
そんな俺を心配そうに見つめる春風。
そして、ハァっとやれやれといった勢いでため息を吐いた。
「しばらく、勉強会は中止にしよっか」
そして、そんなことを言った。
「え、どうしてだ? 何かあったのか?」
あのねぇ、と春風は俺の顔をビシッと指差して言い放つ。
「なんか思い詰めた顔してるし、ずっと意識はないようなものだし! 明らかに悩んでるでしょ? それが解決するまで、勉強会は中止!」
確かに俺は悩んでいる。
もちろん、白海のことだ。
何かできることはないか、と考えていることが春風には伝わっていたのだろう。
俺は申し訳なさと、ともにありがたさが広がる。
「春風には敵わないな……ごめん、少しやることがある」
「ふふっ、頑張って」
ニコニコと笑い、応援をしてくれる。
……やっぱり女子ってのは考えてることがわかるんだな。
俺が感心していると、示し合わせたように、俺の耳元に口を合わせて、こう言う。
「私だから、わかるの」
妖艶な吐息とともに発せられた言葉に思わずドキリとさせられてしまった。
「そ、それはどうゆう……」
「はい! いってらっしゃーい!」
答えを聞く前に、俺は追い出されてしまった。
去り際、春風の頬が紅潮していたのはきっと気のせいなのだろう……と思いながら。
☆☆☆
あれってほぼ告白じゃない!?
やばい、どうしようぅぅ!
恥ずかしいよぉ!
彼を見送った玄関で、ジタバタする春風だった。
そんなにも憎んでいたのか……。
自分を捨てた母親を恨まない方が難しいかもしれないが、母は母だ。
だが、白海の言った母という言葉には憎しみと、怒り、苦しみが込められていた。
「でも良いの。私には義母《はは》がいるから」
「そうか……」
結局俺は、気の利いた言葉一つも言えないまま、ただ無情に時間だけが過ぎていった。
俺は授業の間、白海のことをなんとかできないものかと悩んでいた。
だが、白海はどうも割りきっているようにも見える。
だが、俺の目からすると、少し、ほんの少し無理してるような微かな違和感があった。
そこに踏み込むのは、薄氷の上を走っていくようなものだ。
……結局俺にはなにができるんだ?
ただ、正義感という感情に身を任せて白海のスペースに土足で踏み込むようなことをしていいのだろうか。
いや、でも俺は正義感だけじゃない、一人の女の子である白海のことをどうにかしてあげたい、という思いがある。
悲痛な思いで語った姿を、昔の俺と重ねたせいなのだろうか。
あの時から、毅然に振る舞う白海はどこか危うげに見えて。
……いったい俺はどうすればいいのだろう。
そう自問自答を繰り返して。
☆☆☆
「──くん? ──山くん? 狭山くん!」
ハッとした俺を春風の顔が覗く。
俺は辺りを見渡すと、そこは二回目となる春風の家。
……そうか、二回目の勉強会だったか。
ボゥッとしたまま、為すがままに授業を終えた俺は、春風に頼まれ家にやってきたのだった。
「ごめん、ボーっとしてた……」
俺は勉強の途中なのに関わらず、集中していなかったことを謝る。
そんな俺を心配そうに見つめる春風。
そして、ハァっとやれやれといった勢いでため息を吐いた。
「しばらく、勉強会は中止にしよっか」
そして、そんなことを言った。
「え、どうしてだ? 何かあったのか?」
あのねぇ、と春風は俺の顔をビシッと指差して言い放つ。
「なんか思い詰めた顔してるし、ずっと意識はないようなものだし! 明らかに悩んでるでしょ? それが解決するまで、勉強会は中止!」
確かに俺は悩んでいる。
もちろん、白海のことだ。
何かできることはないか、と考えていることが春風には伝わっていたのだろう。
俺は申し訳なさと、ともにありがたさが広がる。
「春風には敵わないな……ごめん、少しやることがある」
「ふふっ、頑張って」
ニコニコと笑い、応援をしてくれる。
……やっぱり女子ってのは考えてることがわかるんだな。
俺が感心していると、示し合わせたように、俺の耳元に口を合わせて、こう言う。
「私だから、わかるの」
妖艶な吐息とともに発せられた言葉に思わずドキリとさせられてしまった。
「そ、それはどうゆう……」
「はい! いってらっしゃーい!」
答えを聞く前に、俺は追い出されてしまった。
去り際、春風の頬が紅潮していたのはきっと気のせいなのだろう……と思いながら。
☆☆☆
あれってほぼ告白じゃない!?
やばい、どうしようぅぅ!
恥ずかしいよぉ!
彼を見送った玄関で、ジタバタする春風だった。
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