上 下
22 / 73

22話

しおりを挟む
 「嵐のようですね」

 俺が舞阪先輩について思ったことを、三人の先輩に言う。
 三人は苦笑しつつも頷く。
 舞阪先輩のことは、この三人の方がよく知っているだろう。
 なにせ、俺よりも一年長く付き合ってるのだから。

 「まあ、それがあいつの良いところでもあるがな」

 武田先輩はしみじみ呟く。

 「あの子には助けられたからねー」

 「うん、でも時々悪い子」

 伊縫先輩と森先輩は、舞阪先輩に助けられた過去があると聞いたが、俺は詳しくは知らない。
 その時のことを思い出してか笑う、二人。

 色々なことがあろうと、ここにいる人はみんな舞阪先輩のファンなのだ。
 ……本人には口が裂けても言えないが。

 「だから羨ましいよ」

 ふいに武田先輩が真剣なトーンで返した。
 羨ましい?

 「原稿を最初に読めるからですか?」

 最初に思い浮かんだのはそれだった。
 先輩のファンである人からすれば、一番最初に原稿が読めるのは何よりの幸せだ。
 俺はだから羨ましいと言ったのだと、ふんだのだが、

 「ガハハ。それもあるけどな。一番は渚を頼ってることだ。俺たちはお前みたいに頭が良いわけではないからな。そういう意味で舞阪に協力することができない」

 俺はハッとした。
 俺を頼る。
 その意味は他の三人よりも俺が便りになると暗に言っているようなものだ。
 舞阪先輩にはそんな意図があるわけではないだろうが、武田先輩が言いたいのは、
 ということなのだろう。
 羨ましい、と表現したが、本当は悔しい思いもあるのではないか、とも思う。

 「……すみませ」

 「何も謝ってほしいわけじゃない。というか謝るな。謝るってことは舞阪の原稿チェックに後悔とか罪悪感が現れる時だけだ。もし、そんなことを思ったならば今すぐ降りてほしいがな」

 俺が謝ろうしたのを遮り言った。
 確かにそうだ。
 俺が謝る時は先輩に頼まれた仕事に、自責の念が生まれるときだ。
 だが、俺は誇らしいと思うし、嬉しい。
 謝るのは筋違いだ。
 俺が言うべき言葉は、

 「ありがとうございます。でも俺は降りるつもりはありませんよ」

 俺が感謝と決意を口にする。
 そうすると、武田先輩はフッと口元を緩めた。

 「武田、長い」

 武田先輩が何かを言おうとしたとき、森先輩が、武田先輩をひっぱたいた。

 「いてっ、何をする」

 武田先輩が抗議するも、森先輩の眼光一睨みで黙った。
 ……おう……体は鍛えても、心がまだあれだったのね……
 でも、メンタルも強かったような。気のせいか?

 「渚。私たちはあなたに感謝してる。あなたが選ばれたことに何も感じないというと嘘になるけど。それでも本当にあの子が信頼できる人を見つけられてよかったって思うよ」

 森先輩は珍しく感情が籠っている口調で喋った。

 「先輩、最後の意味って──」

 俺が聞こうとする前に、パンパンっと手を叩く音がした。
 
 「はいはい。暗い話は終わり! 下校時刻過ぎてるからそろそろ帰らなきゃね」

 伊縫先輩が言った。
 時計を見ると、6時10分と下校時刻を過ぎている。
 俺は最後の意味について聞けなかったことにモヤモヤしながらも、いつか聞けばいいか、っと切り替える。

 そのまま、帰り支度を整え、先輩方に挨拶をし学校を出る。

 空は夕焼けに染まっていた。
 黄金色が辺りを包み込んで、どこか温かい雰囲気の感じる光になっている。

 いつもと変わらない気色のはずなのに、夕焼け色に染まるだけで、新鮮さと清浄さが満ちて世界を鮮やかに変える。

 俺はそんな景色を見てあることを思い出す。
 母さんが俺に言った言葉にこんなのがある。

 『夕焼けとは人々の心を照らし、感情を鮮やかに染めゆくもの。それは……恋もね? つまり、燃える恋はバーニングファイヤぁぁぁ!』

 ……前半はよかった。
 詩的で、俺の心に納得と、共感を得ることができた。

 ……後半? 知らん。

 ……夕焼けを見たせいで、アンニュイな気持ちになってしまった……

 俺は母さんの言葉の後半を思い出し、少し笑う。

 「燃える恋はバーニングファイヤって、ハハハ。よく恋のことを燃え上がる炎だ、とか表現するけど、炎はいつか消えるものなんだからいつか恋も覚めるって暗に言ってるよなあ……ま、俺はそんな恋をすることはないだろ」

 そして、俺は夕焼けに染まる下校道を辿っていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

処理中です...