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19話

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 「すまないな、渚」

 帰りの車の中で、ジジイが唐突に謝ってきた。

 「何がだ?」

 謝られる心当たりはない。
 むしろ殴った俺が謝るべきだろう。
 でも、俺にはジジイの言った言葉が演技とは思えなかった。
 もし、本当に演技ならば人間として謝らなければいけない。

 だが、もし本音だった場合、俺はジジイの言ったことを許さない。

 「あれは半分、嘘で半分本当のじゃ」

 やはり……と俺は思った。
 本当の部分というのはジジイが怒気をさらけ出したあそこだろう。

 「謝ることじゃない。お互い正しいと思った故の行動だからな」

 だから、俺はジジイを許さない、けどジジイも俺を理解しなくていい。

 もう何年も前から、ジジイと俺に相互理解なんて言葉は存在しないのだから。



☆☆☆

 俺は家に帰り、一息着いたと同時にあらゆる疲れがどっと押し寄せた。
 
 「疲れたー……」

 俺はぐでー、っとリビングのソファーに横たわる。

 滞在した時間はそこまででもないが、経験した密度が高い。
 それに緊張もしていたことが原因。
 家に帰り、やっと緊張が解けたといった感じだろう。

 休む暇もなく出来事が過ぎていく最近。
 ほぼボッチといってもよかった昔とは違った。

 白海を助け、春風の勉強を見ることになり、行った会合でなぜか『六道』の当主に気に入られる。

 時系列に起こすと最近、波乱万丈な人生を送っている。
 それは疲れが溜まるというものだろう。

 ……さっさと寝るか。

 まだ午後5時だったが、気にせず自室に行き、ベッドに横たわる。

 目を瞑るとすぐに眠気がやってきた。
 そして、そのまま意識は闇に沈んでいった。


☆☆☆



 ピリリリ、と激しく音のする目覚まし時計で俺は覚醒した。

 部屋に備え付けてある目覚まし時計だ。
 毎朝7時に設定してある。
 昨日も鳴ったはずだが、聞こえていないということは……うん、そういうことだろう。

 「ふわああ」

 おおきく欠伸をして、寝ぼけ眼を擦り、一階へ行き顔を洗う。
 気分も顔もさっぱりした俺はリビングへ向かう。

 キッチンとリビングが一体化してる俺の家だが、キッチンを使うのはほとんど俺である。
 人並みには料理ができるが、いかんせん苦手だ。
 レシピ通りにこなすことはできるのだが、創作料理とかいう自分で考えて応用する、というものが苦手である。

 そのため、味に飽きないよう、日々Go○gleでレシピを調べる作業が続いている。

 さすがに朝ごはんはレシピを調べて作るのは面倒くさいため、パンにバターを塗り、トースターにぶちこむ。

 その間にコーヒーを入れる。
 ピー、っとトースターが鳴り俺はトーストを取り出し皿に盛る。

 それを机に置く。

 「いただきます」

 しっかりと手を合わせ、今日もご飯が食べられることを感謝する。
 長年染み付いている習慣だが、これを欠かすことは絶対に無い。

 俺はトーストを手に取り、食べようとしたとき、ふと思ったことがあった。

 「なんでパン焼いたらトーストになるんだ?」

 という、くっだらないことだ。

 ……いや、でも気になるだろう? 
 ググれよ! って思うだろうが、それをしたら終わりだ。

 思考を放棄したものに未来はないからだ(パクり)


 だから俺はググることも考えることもしなかった。

 ……だって面倒くさいだもん。

 矛盾はしてない……多分。


 朝ごはんを食べ終わった後は、日曜日らしく、自堕落に過ごした。

 ゲームをして、ゲームをして、ゲームをする。
 
 うん、ゲームしかしてないや。

 別に俺はゲーマーではないが、暇潰しをする時はゲームをすることしか頭にない。

 だが、俺はモ○ハンのような狩りゲーや、協力ゲーはしない。

 ……言わせないでくれよ……一緒にする友達がいないんだよ……。
 文芸部の人たちはゲームをしないし、ケイヤはゲームをする暇があったらバスケの練習をしている。
 誰よりも努力家なケイヤは、娯楽に時間を割かない。……イケメンすぎだろ。

 よって、ド○クエとかファ○ファンや、スマホゲームをひたすらしてる。
 悲しくなんかないよ。だって楽しいんだもん。

 俺はひたすらにゲームをする。

 そして、午後3時を回った頃、とあるスマホゲーで手に汗握るボス戦をしていたときピンポーン、と家のチャイムが鳴った。

 「今いいとこなんだけど」

 荷物を頼んだ覚えもなければ、誰かが来る予定もない。
 何かの勧誘だろうと踏んだ俺は無視する。

 しかも何度もチャイムを鳴らしてくる相手。

 ……くそうぜぇ。

 ボス戦が一段落した俺は仕方なく出る。

 「……はい」

 家の扉を開け不機嫌な声で出る。
 そこには……

 「わ、若。こ、こんにちは」

 いつぞやのヤスとヒデがいた。

 「帰れ」

 俺はやつらを一瞥し、即答する。
 そのまま家の扉を閉めようとしたとき、ヤスが日常生活で絶対に出せない俊敏さで、さも探偵がするように足を扉の間に挟んだ。

 「…………」

 俺は無言で気にせずグッと力を入れ、無理やり扉を閉めようとする。

 「痛いっ、痛いっ!」

 ヤスが悲鳴をあげる。
 しばらくその攻防をしていたが、ヤスが絶対に話を聞いてもらう!
 という顔をしていたため、仕方なくやめる。

 「で、何の用だ」

 「できれば、その言葉は戸を無理やり閉める前に言って欲しかったです……」

 ごちゃごちゃ文句を言ってるヤスをキッと睨む。
 ヒッ! と悲鳴をあげるヤス。

 震えてるヤスに、ヒデがフォローする。

 「ま、まあまあ。落ち着いてくださいよ。今日はお詫びを言いにきただけですから」

 お詫びというと、この前白海を脅していた、あれだろう。
 詫びるなら俺じゃないと思うのだがな……と思ってた俺の気持ちの理由をヒデが話す。

 「謝るならあのお嬢さんだと思うんですがね。いきなり会っても怯えられたり警戒されるのが関の山かと思いまして、まずは若に詫びて話を通そうと思いましてね」

 まあ、確かにこの前脅してきたやつが、いくら謝る目的であっても、それを知らない白海は驚いたり警戒したりするだろう。

 「話はわかった。じゃあ伝えておく。よし、帰れ」

 早くゲームの続きがしたい俺はそんなことを言う。

 それにヤスが慌てる。

 「ま、まだ用事はあるんですよ。これを」

 ヤスが一枚の手紙を差し出してきた。
 そして、じゃあこれで! と言い逃げるように帰っていった。

 「誰からだ? 差出人は……六道 瞳!?」

 俺は驚き手紙を落としかける。
 手紙とは……。

 ……おいおい、俺のライン持ってるだろ……

 わざわざ手紙にしなくてはならないこと。
 つまり、重要なことではないのでは、と思った俺は慎重に手紙の封を開ける。

 紙は二つ折りにされていた。
 それをドキドキしながら開けると、
 
 『ずっと見てる』

 と書いてあった。

 …………いや、怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


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