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14話

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 「……寝れない」

 それはあんなことがあったから当然だろう。
 俺はベッドの上で横になりながら思い出す。

 勉強会の帰り際、俺は春風にキスされたのだ。
 頬だけどもキスはキスだ。
 今思い出すだけでも心臓が荒々しい鼓動を奏でている。

 「春風は俺のことが好きなのか?」

 その疑問口に出して俺は自分で恥ずかしくなる。

 「いやいや、そんなわけないよな……お礼って言ってたし……でもお礼であんなことするか? 漫画じゃあるまいし」

 ベッドの中でウンウン悩む俺。
 だが悩んでも春風の真意はわからない。

 ……経験が無い俺にどうしろと……。
 悲しきかな、こんな経験が初めての俺はどういう意味で捉えていいのかわからない。

 単純にお礼という意味に取るのもいいが、何かが違うと俺の心が叫んでいる。

 考えてもわからなくなった俺は、思考を放棄することにした。


 つまり……寝た。




☆☆☆



 夢を見た……いやまたか!?

 でも今回は良い夢。

 なんと白海と春風が俺を取り合う夢だ。
 こんなこと絶対にあり得ないとわかってても、なんか漫画みたいですごい……という馬鹿な感想が出る。

 でも……なんだか妙にリアルがかってる気がする。
 気のせい……気のせいだよな?


 え、待ってなんでこんなにリアルなの!?



☆☆☆


 「ハッ!」

 俺は飛ぶような勢いで起き上がった。

 「夢の内容憶えてるな……珍しい」

 基本夢の内容は憶えてない。
 過去の回想ならば憶えてる方が多いのだが。

 「とりあえず……二度寝しよう……今日は休みだし」

 今日は待ちに待った土曜日。
 いくらでも寝れる最高の日だ……。

 俺は重力に従い、眠りに落ちようとした瞬間、眠りを妨げる悪魔の音が鳴った。

 ……なんてことない、ただの電話である。
 寝ぼけ眼を擦り、掛けてきた名前を見ようとせず、通話ボタンをタップする。
 ただ一言文句を言おうとした時、相手の声を聞き、眠気が完全に覚めた。

 「わしだ」

 詐欺か? と思うも、声は完全に一致している。

 ハァ……

 「朝っぱらから何の用事だ? くそジジイ」
 
 口調が荒くなるが仕方ない。俺の眠りを妨げたのだ。
 俺がくそジジイと呼ぶのはただ一人。
『天笠』の当主、天笠英隆だけだ。

 「カッカッカッ、若者は元気がええの。なに、用事は一つじゃよ。会合だ。顔出せ」

 「チッ、わかった」

 「12時に迎えをよこす。それじゃあな」

 チッ、断れねぇじゃねぇか。
 会合……ヤクザ達が集まる集会のことだ。
 ワイワイ仲良くする……わけはない。
 多数の組のものが出席する会合では、常に互いを牽制しどう蹴落とそうかを考える場だ。

 この会合には幾つかのルールがある。

 一つ、暴力禁止。
 二つ、会合から一ヶ月間は組同士の抗争の禁止。
 三つ、一、に伴い、武器の携帯の禁止。
 四つ、各組の当主一名、後継ぎ一名で出席しなければいけない。

 というくそルールがある。
 一つ目は言わずともわかる。
 二つ目だが、会合では組同士で条約を結ぶことがある。
 合併だったり、和平だったりと色々あるのだが、その条約が履行される前にその組を潰そうとする組が存在するのだ。
 なぜなら合併されると規模で負け、いずれ潰されるのでは、と恐れるからだ。

 それを防ぐためにこのルールがある。
 三つ目も良いとして、四つ目だ。

 これが存在する理由は二つだ。

 一つは顔を見せること。
 今の当主の状況や、いずれ組を継ぐものの品定め。
 二つは箔、だそうだ。
 当主と後継ぎが揃うことで箔が付くそうなのだ。よくわからんが。

 そしてこの四つ目のルールが存在するせいで俺は行かなければならない。

 俺は後を継ぐつもりは全く無いが、それでもいいからわしが死ぬまで来てくれ、平和のためだ、と言われては断ることはできない。

 よって仕方なく出席しているのだ。


 俺は寝れることができなくなった悲しみを抱えながら準備をする。

 現在時刻は11時。
 何件も通知が溜まっていたことから、俺は寝ていたから気が付かなかったとだろう。

 会合なため、多少は良い格好をしなければいけない。
 俺は慣れないスーツを身に纏う。
 さらに、前髪を上げ、ワックスで整える。

 ふと、前を見ると獣のような鋭い瞳が俺を鏡越しに視た。



☆☆☆
 

 12時になったのを確認し、家を出る。
 家の前には黒いベンツが一台止まっていた。

 「なんでヤクザっぽい車に乗るんだ……今ラパンで来てる組もいるだろうに……」

 ギャップがすごいが、今は令和だ。
 昭和丸出しのヤクザ世代はもう終わった。

 俺が家を出た瞬間、運転席から黒服の男が出てくる。
 俺に会釈し、無言で後部座席の扉を開ける。
 俺はそれに無言で乗る。

 「おう! 久しぶりじゃな、渚」

 すでに乗っていたくそジジイは頬にある縦一線の傷を触りながら挨拶してくる。

 「あぁ」

 俺は返事だけで済ます。
 極力こいつとは喋りたくないのだ。
 年上を敬うのが普通だが、こいつにされた仕打ちを考えればこの対応はむしろ優しいだろう。

 そんな俺にも慣れているジジイは、気にすることもなく腕を組み、無言になる。
 俺が乗ったのを確認すると、すぐに車が発進された。
 ジジイとは話したくないが、必要なこともあるため話す。

 「今日の会合の状況と目的は」

 「いつも通りの偵察と……六道との和平」

 「なっ!?」

 俺は思わず声を上げる。
 『六道』……『天笠』と双璧を為す組。
 30年前に大きな抗争をし、引き分けになった以来互いに牽制が続いていた。

 ついに今日、それに終止符が打たれるのか!?
 俺は急激に緊張した。
 これをミスれば人が何人も死ぬ、と同時に成功すれば未来に助かる人もいる。 
 絶対に失敗できない。
 それくらい重要なのだ。

 「条件があるんだろ。向こうにも」

 無条件の和平などあり得ない。
 特に六道だと。

 「条件はある。だがそれは着いてからだ」

 「わかった」

 返事をした俺をチラッと一瞥する。
 その目は少し申し訳なさがあった。
 それに俺は一抹の不安を覚えるのであった。
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