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11話

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 それから春風の案内に従い、家路を辿る。
 もっとも、辿るのは俺でなく春風だが。
 そして、近づくにつれ緊張が増してくる俺。

 あ、そういえば。
 俺は一つ気が付いたことがあった。

 「なあ春風」

 「ん? なに?」

 「その……親御さんはいるのか?」

 そう、親の存在である!
 このままだと気まずくファーストコンタクト。
 何も用意をしていないのもある。
 お土産だったり、心の準備だったり、な……すいませんカッコつけました。
 はい、度胸が無いだけです。

 俺の不安に春風はあっけらかんと何でもないかのように答えた。

 「家? 大丈夫だよ、一人暮らしだから」

 「あ、そうなんだ……って、えぇ!?」

 「わわっ、どうしたの?」

 急に大声を出した俺にびっくりする春風。

 「いや、それは……駄目だろ」
 
 全く大丈夫ではない。
 さすがに一人暮らしの女子の家に訪問するのはアウトーッ! だろ。
 そもそも一人暮らしの家に男を招き入れるとか問題ありありだろう。

 もし俺が狼さんだったらどうするというのだ。

 まあ、俺には手を出す勇気も甲斐性も動機もないからな。
 問題はない。いや、ある。
 その状況が、だ!

 「何が駄目なの?」

 わかっていないらしい。
 あぁ! 無防備!

 「その……男は狼なんだぞ?」

 いやいや、これは俺がそうだ、って言ってるみたいじゃん。

 「狼になるの?」

 こてん、と首を傾げて聞いてくる。あざとい。そしてかわいい。

 「いや、ならないけどさ」

 「じゃあいいじゃん」

 いいじゃんじゃないわ。
 ちょっと天然入ってるのか、この人。
 と思ってしまうのは仕方ないはずだ。

 「状況的にマズイんじゃぁないでしょうか」

 「状況?」

 小首を傾げる春風。
 ま、まだわからないのか……。

 「だからね? 一人暮らしの女子の家に男が行く、という状況がですね……」

 俺が慌てて説明をしていると、急に春風がふふっ、と笑った。

 「え?」

 俺はその様子に戸惑った。

 「私もその考えは持ったよ? もちろん」

 じゃあなぜ……と口にしようとした俺を遮り、続ける。

 「でも大丈夫かな、って思ったんだ。……目がね」

 「目?」

 「うん、女の勘かなぁ?」

 誤魔化したようにちょっと茶目っ気に笑う。

 「勘、かぁ」

 「でも最初はどうしよう、って思ったんだよ?」

 「どういうこと?」
 
 「家に誘った時に食いぎみのオッケー出したでしょ?」

 「あ」

 確かにあれは不自然だったし、春風目当てだと思われても仕方ない。

 「あ、あれは目立ちたくないからつい……」

 「ふふふ、そんなことだろうと思ったよ」

 口に手を当て笑う。
 そこで疑問がまた出る。

 「じゃあなんで結局オッケー出したんだ?」

 「うーん、それは秘密で」

 いたずらっぽくニヤリとした春風。
 あまり見たことない姿にドキリとさせられてしまう。
 どこか計算されたような会話。

 「えーと、意外に春風って策士?」

 「女の子は強かさがないと生きていけないんだよ」

 そこでまた笑った春風。
 女の子って怖い。
 
 そんなことを知った俺だった。

 でも……まさかッ!? あの天然は演技!?
 やだ、春風さんったら策士ッ!
 なんで俺オカマ口調。

 「あ、狼って襲うの比喩表現でいいんだよね?」

 ま、また演技か……!?
 いや、わからん……嘘を着いてるようには見えない。

 あ、そもそも表情を見抜く術を持ってねーや。

 「あ、うん。そうそう」

 結局気の抜いた、そんな返事しかできないのであった。

 なお、俺は知らない。
 この時春風が俺の視線から逃れた所で舌を出して、テヘペロ、みたいなポーズを取っていたことをッ!

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