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我慢の限界
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「ねえ、グラキエスって本当に雪が止まないのね」
窓の外を眺めながらつまらなそうに呟くフランは自ら望んでグラキエスに戻ってきたのだが、今更になってそれを後悔していた。
「グラキエスは雪が止まない国だからな」
「ずーっと雪景色ってつまんなくない?」
「綺麗だと言っていただろう」
「三日も見れば飽きちゃうよ。別に特別面白いことなんてないし、外で遊べるわけじゃないんだし」
「外で遊びたければ皇帝陛下に許可をもらってきてやってもいいが」
「できるの!?」
「たぶんな」
「さすがエルムント! 大好き!」
アルフローレンスはフランに興味がない。だからフランが外に出ようと監視付きであれば許可を出すのではないかとエルムントは思っていた。
なぜ姉のミュゲットだけを手元に置いているのかがいまだにわからない。それは騎士団の中でも特に回数多く話題に上がることで、しかし誰もその理由について当たりそうな推測ができた者もいない。
アルフローレンスが今まで囲っていた女とは全く正反対のタイプであることも推測できない理由の一つ。
寵愛の仕方が今までと群を抜いて違う理由こそ兵士たちが最も知りたい理由であった。
娼婦代わりではないように思える連れ歩き方に兵士たちは戸惑っている。あの氷帝が女を連れ歩くことなどあるのかと。それも相手は王女といえど捕虜。
エルムントも気になっていた。
「ミュゲットって今頃何してるのかな」
「気になるのか?」
「気になるよ。だって絶対フランより良い暮らししてるんだもん。あの白い毛皮のコートいいなぁ。ね、エルムントが狩ってきてフランのために仕立ててよ!」
何を言い出すのかと呆れたように大きなため息を吐くエルムントにフランがムッとする。
「お前が持っているそれとて最高級品だぞ」
「でもこれフランのために仕立てられた物じゃないもん」
「別に誰のために仕立てた物でもいいだろう。お前だけが着られる物に変わりはない」
「やだっ! フランだってフランのために仕立てられたコートが欲しい! ミュゲットが仕立ててもらったあの白いコートがいい!」
「無理だ。そもそも陛下の許可なくスノークルスを狩ることはできん」
「じゃあフランはミュゲットのお下がりを着続けなきゃいけないってこと? そんなのやだ! どうしてフランがミュゲットのお下がりで我慢しなきゃいけないのよ!」
フローラリアにいた頃はミュゲットから奪ってばかりだった。欲しいと言えばくれたし、フランもそれでよかった。ミュゲットがなんでも差し出してくれることに優越感を抱いていたから。
本当は譲りたくないくせに妹が欲しいと言っているから、姉だからと我慢して譲る姿を見るのが好きだった。だが今はそれも見られない。これは自分から欲しいと言ったわけではなく、褒めたらミュゲットがくれた物。それも嘘をついて。ミュゲットの嘘に喜んで着ていたのが嫌だから自分だけの物が欲しかった。何より、ミュゲットだけが二度もミュゲットのためだけに仕立てられた最高級品を持っていることが気に食わないのだ。
「そうだ! こっそり狩っちゃえばわかんないよ!」
「バカを言うな。許されるはずないだろう」
「どうして? だってここからずっと離れた場所にいるんでしょ? 銃声だって聞こえないよ」
「そういう問題じゃない。お前が外に出る許可を得られたとして、新しい毛皮を着ていたら疑問視されるだろう」
「ミュゲットがくれたコートだって言えばいいよ」
エルムントは最近、フランのわがままにうんざりしている。正直言えば専属騎士を解任してほしいと懇願したいぐらいだ。
フランは根っからの苦労知らずの王女であるため自分が言ったことは全て通ると思っている節があり、捕虜になってもその考えを改めようとはしない。
通るはずのない甘い考えを通そうとしているのも通らなかったときに「狩ったのはエルムント」と言おうと思っているからなのではないかと疑っている。根っからのバカではなく、自分の都合の良いように物事を動かそうとする小癪な部分も持っているため厄介だと危惧している部分もあった。
「ねえ、エルムント……お願い。フランのためにスノークルス狩ってきて?」
本を読んでいるエルムントの膝に跨って首に腕を回しながら猫撫で声で甘える。この歳でこれだけの色香を放つ理由は男を知り、男を操る方法を知っているからで、自分がどうすれば美しく見えるのか、どうすれば男が動くのかをフランは熟知していた。
しかし、エルムントは微塵も揺らがない。
「お前がどれほどそれを欲しがろうと叶えてやることはできん」
エルムントの拒否に膝から降りたフランが怒った顔で地団駄を踏む。
「フランの騎士でしょ!? だったらフランの言うこと聞いてよ!」
「お前の専属騎士として拝命されただけのこと。皇帝陛下に背いてお前に魂まで捧げるつもりはない」
「なっ……んなのよ、それ……。フランにミュゲットのお下がり着てろっていうの!?」
「そうだ。嫌ならそれも返せばいいだろう」
「返したら外に出られないじゃない! フランはこれしか持ってないんだから!」
「なら我慢するんだな」
「やだ!」
「お前がここでどれだけ喚こうが狩りにはいかん」
ここで暮らし始めたばかりの頃はフランの魅力に負けて肉体関係を持ったが、最近は相手にしないようにしている。フランからすればそれも不満のようで、すぐに苛立って文句を言い始めるようになり、それもまた鬱陶しいと思っていた。
フランはまだ未成年だが、それでもその場で地団駄を踏んで願いを叶えてもらおうとするような年齢は過ぎた。それなのにフランは今でも幼子のような表現をしながらエルムントを睨みつける。
「外に出たいなら許可をもらってきてやる。その代わり、毛皮はあれで我慢しろ」
「外に出る許可なんかいらないから新しい毛皮取ってきて」
「お前にある選択肢は外に出るために毛皮を我慢するか、外に出ず毛皮を我慢するか、だ」
「どっちも我慢じゃない! どうしてフランが我慢しなきゃいけないのよ! ミュゲットなんか何も我慢してないのにどうしてフランだけ!? 我慢するならミュゲットでしょ!」
どうすれば正反対の双子が育つのか。我慢をするのは姉で、妹の自分はわがままを叶えてもらうべきという主張はどこに行ったって通らない。両親が生きていれば頭を撫でて叶えてもらえたのだろうが両親は先に逝ってしまってもういない以上は我慢するしかないことをフランはまだ理解できないでいる。
「人の心を持たないお前が何かをねだることさえおこがましいと言えるがな」
「はあ!? 何その言い方! フランが悪いっていうの!? 悪いのはミュゲットじゃない! ミュゲットばっかり優遇されてこんなのおかしいよ! ミュゲットが大事なら妹のフランだって大事にすべきだよ! そうでしょ!?」
「……はあ……許可をもらってきてやるから大人しくしていろ」
「なんでそんな反応するの!? フランおかしいこと言ってないもん! どうしてフランに冷たくするのよ! エルムントのバカー!」
何を言ってもフランは理解しない。理解しようとさえしないのだ。
自分の願いはなんだって叶えられるべきだし、自分の魅力で落とせない男はいない。世界は自分を中心に回っていて、だから自分の思い通りになる。
それがフランの考えだとエルムントは一緒に暮らし始めてから嫌というほど実感した。そういう女は反吐が出るほど嫌悪するということも。
「アバズレめ……」
城に入る前、一度振り返るとドア番をしていた兵士の一人が中へと入っていく。兵士たちの何人かは既にフランに心惹かれており、肉体関係を持っている者もいる。
フランにとって男は運命の相手以外は利用すべきもの、という認識。エルドレッドが国を出るまで、エルムントは騎士団の宿舎にいた。それはエルムントよりエルドレッドを選んだという明確な意思表示であり、フランという女がどういう女であるかを示すものでもあった。
エルムントがあの家に戻ったのはエルドレッドが国を出た日。フランが呼んでいると報告を受けて戻っただけ。
そんな女と暮らしているのが今は苦痛でならない。だが、これはエルムントが望んだことではなく命令。従うほかならない。
「よう、エルムント」
「カインか」
「疲れてんな。若い子が相手だとやっぱ疲れるもんなの?」
同期の騎士に言われて初めて自分の顔が疲れを出しているのだと知ったエルムントはため息と共に首を振った。
「相手はしていない」
「マジ? あんな若い身体がそこにあるのに?」
「うんざりするほど中身が子供すぎる。あんな幼稚な王女なんか嫁の貰い手ないぞ」
「どうせ陛下の気まぐれで殺されるんだ。結婚なんかどのみち無理だろ」
エルムントもそう思っていた。姉も気まぐれに囲われているだけですぐに飽きられるだろうと。しかし違った。
今までの女はなんとか機嫌を取ろうとあれやこれやと必死に動き回っていたが、今はアルフローレンスのほうがミュゲットのために動いていることが多い。
「飽きたらポイ、で済むんだもんな。すげーお方だよ、皇帝陛下は」
「口を慎め。皇帝陛下を満足させられる女がいないだけだ」
「そりゃそうだろ。どんな女ならあの人を満足させられるってんだよ」
誰もミュゲットがこのまま寵愛を受け続けるとは思っていない。ミュゲットより背が高い美人はいくらでもいた。ミュゲットのように背が低く、細いだけの女を皇帝陛下が愛するわけがないと。
人を生かすも殺すも機嫌次第な皇帝陛下の行動は誰にも予想がつけられない。エルムントでさえも。
「で、お前さんは今からどこに?」
「フランが外に出たいと言うから許可をもらいに皇帝陛下に拝謁する」
「出ると思ってんのか?」
「皇帝陛下はフランに興味はない。どこで何をしようとどうでもいいと思っているだろうからな」
「どうして妹じゃなく姉なのかねぇ。わからんわ」
「お前が望むなら交代してやってもいいぞ」
「んー……やめとく。お前さんが疲れてるってことはそれだけやばい女ってことだろうし」
エルムントは舌打ちしたくなった。カインが乗り気で「交代する」と言ってくれればアルフローレンスに言って交代することができたかもしれないのにと残念さと悔しさで表情が不機嫌になる。その様子に笑いながら肩を叩いたカインは上機嫌に去っていった。
「誰か引き取ってくれ……」
志願者はいるだろうが、命を受けたのは自分であるため交代するにも許可がいる。一気に二つの許可は取れないだろうと諦め、とりあえずの外出許可をもらいに部屋へと向かった。
窓の外を眺めながらつまらなそうに呟くフランは自ら望んでグラキエスに戻ってきたのだが、今更になってそれを後悔していた。
「グラキエスは雪が止まない国だからな」
「ずーっと雪景色ってつまんなくない?」
「綺麗だと言っていただろう」
「三日も見れば飽きちゃうよ。別に特別面白いことなんてないし、外で遊べるわけじゃないんだし」
「外で遊びたければ皇帝陛下に許可をもらってきてやってもいいが」
「できるの!?」
「たぶんな」
「さすがエルムント! 大好き!」
アルフローレンスはフランに興味がない。だからフランが外に出ようと監視付きであれば許可を出すのではないかとエルムントは思っていた。
なぜ姉のミュゲットだけを手元に置いているのかがいまだにわからない。それは騎士団の中でも特に回数多く話題に上がることで、しかし誰もその理由について当たりそうな推測ができた者もいない。
アルフローレンスが今まで囲っていた女とは全く正反対のタイプであることも推測できない理由の一つ。
寵愛の仕方が今までと群を抜いて違う理由こそ兵士たちが最も知りたい理由であった。
娼婦代わりではないように思える連れ歩き方に兵士たちは戸惑っている。あの氷帝が女を連れ歩くことなどあるのかと。それも相手は王女といえど捕虜。
エルムントも気になっていた。
「ミュゲットって今頃何してるのかな」
「気になるのか?」
「気になるよ。だって絶対フランより良い暮らししてるんだもん。あの白い毛皮のコートいいなぁ。ね、エルムントが狩ってきてフランのために仕立ててよ!」
何を言い出すのかと呆れたように大きなため息を吐くエルムントにフランがムッとする。
「お前が持っているそれとて最高級品だぞ」
「でもこれフランのために仕立てられた物じゃないもん」
「別に誰のために仕立てた物でもいいだろう。お前だけが着られる物に変わりはない」
「やだっ! フランだってフランのために仕立てられたコートが欲しい! ミュゲットが仕立ててもらったあの白いコートがいい!」
「無理だ。そもそも陛下の許可なくスノークルスを狩ることはできん」
「じゃあフランはミュゲットのお下がりを着続けなきゃいけないってこと? そんなのやだ! どうしてフランがミュゲットのお下がりで我慢しなきゃいけないのよ!」
フローラリアにいた頃はミュゲットから奪ってばかりだった。欲しいと言えばくれたし、フランもそれでよかった。ミュゲットがなんでも差し出してくれることに優越感を抱いていたから。
本当は譲りたくないくせに妹が欲しいと言っているから、姉だからと我慢して譲る姿を見るのが好きだった。だが今はそれも見られない。これは自分から欲しいと言ったわけではなく、褒めたらミュゲットがくれた物。それも嘘をついて。ミュゲットの嘘に喜んで着ていたのが嫌だから自分だけの物が欲しかった。何より、ミュゲットだけが二度もミュゲットのためだけに仕立てられた最高級品を持っていることが気に食わないのだ。
「そうだ! こっそり狩っちゃえばわかんないよ!」
「バカを言うな。許されるはずないだろう」
「どうして? だってここからずっと離れた場所にいるんでしょ? 銃声だって聞こえないよ」
「そういう問題じゃない。お前が外に出る許可を得られたとして、新しい毛皮を着ていたら疑問視されるだろう」
「ミュゲットがくれたコートだって言えばいいよ」
エルムントは最近、フランのわがままにうんざりしている。正直言えば専属騎士を解任してほしいと懇願したいぐらいだ。
フランは根っからの苦労知らずの王女であるため自分が言ったことは全て通ると思っている節があり、捕虜になってもその考えを改めようとはしない。
通るはずのない甘い考えを通そうとしているのも通らなかったときに「狩ったのはエルムント」と言おうと思っているからなのではないかと疑っている。根っからのバカではなく、自分の都合の良いように物事を動かそうとする小癪な部分も持っているため厄介だと危惧している部分もあった。
「ねえ、エルムント……お願い。フランのためにスノークルス狩ってきて?」
本を読んでいるエルムントの膝に跨って首に腕を回しながら猫撫で声で甘える。この歳でこれだけの色香を放つ理由は男を知り、男を操る方法を知っているからで、自分がどうすれば美しく見えるのか、どうすれば男が動くのかをフランは熟知していた。
しかし、エルムントは微塵も揺らがない。
「お前がどれほどそれを欲しがろうと叶えてやることはできん」
エルムントの拒否に膝から降りたフランが怒った顔で地団駄を踏む。
「フランの騎士でしょ!? だったらフランの言うこと聞いてよ!」
「お前の専属騎士として拝命されただけのこと。皇帝陛下に背いてお前に魂まで捧げるつもりはない」
「なっ……んなのよ、それ……。フランにミュゲットのお下がり着てろっていうの!?」
「そうだ。嫌ならそれも返せばいいだろう」
「返したら外に出られないじゃない! フランはこれしか持ってないんだから!」
「なら我慢するんだな」
「やだ!」
「お前がここでどれだけ喚こうが狩りにはいかん」
ここで暮らし始めたばかりの頃はフランの魅力に負けて肉体関係を持ったが、最近は相手にしないようにしている。フランからすればそれも不満のようで、すぐに苛立って文句を言い始めるようになり、それもまた鬱陶しいと思っていた。
フランはまだ未成年だが、それでもその場で地団駄を踏んで願いを叶えてもらおうとするような年齢は過ぎた。それなのにフランは今でも幼子のような表現をしながらエルムントを睨みつける。
「外に出たいなら許可をもらってきてやる。その代わり、毛皮はあれで我慢しろ」
「外に出る許可なんかいらないから新しい毛皮取ってきて」
「お前にある選択肢は外に出るために毛皮を我慢するか、外に出ず毛皮を我慢するか、だ」
「どっちも我慢じゃない! どうしてフランが我慢しなきゃいけないのよ! ミュゲットなんか何も我慢してないのにどうしてフランだけ!? 我慢するならミュゲットでしょ!」
どうすれば正反対の双子が育つのか。我慢をするのは姉で、妹の自分はわがままを叶えてもらうべきという主張はどこに行ったって通らない。両親が生きていれば頭を撫でて叶えてもらえたのだろうが両親は先に逝ってしまってもういない以上は我慢するしかないことをフランはまだ理解できないでいる。
「人の心を持たないお前が何かをねだることさえおこがましいと言えるがな」
「はあ!? 何その言い方! フランが悪いっていうの!? 悪いのはミュゲットじゃない! ミュゲットばっかり優遇されてこんなのおかしいよ! ミュゲットが大事なら妹のフランだって大事にすべきだよ! そうでしょ!?」
「……はあ……許可をもらってきてやるから大人しくしていろ」
「なんでそんな反応するの!? フランおかしいこと言ってないもん! どうしてフランに冷たくするのよ! エルムントのバカー!」
何を言ってもフランは理解しない。理解しようとさえしないのだ。
自分の願いはなんだって叶えられるべきだし、自分の魅力で落とせない男はいない。世界は自分を中心に回っていて、だから自分の思い通りになる。
それがフランの考えだとエルムントは一緒に暮らし始めてから嫌というほど実感した。そういう女は反吐が出るほど嫌悪するということも。
「アバズレめ……」
城に入る前、一度振り返るとドア番をしていた兵士の一人が中へと入っていく。兵士たちの何人かは既にフランに心惹かれており、肉体関係を持っている者もいる。
フランにとって男は運命の相手以外は利用すべきもの、という認識。エルドレッドが国を出るまで、エルムントは騎士団の宿舎にいた。それはエルムントよりエルドレッドを選んだという明確な意思表示であり、フランという女がどういう女であるかを示すものでもあった。
エルムントがあの家に戻ったのはエルドレッドが国を出た日。フランが呼んでいると報告を受けて戻っただけ。
そんな女と暮らしているのが今は苦痛でならない。だが、これはエルムントが望んだことではなく命令。従うほかならない。
「よう、エルムント」
「カインか」
「疲れてんな。若い子が相手だとやっぱ疲れるもんなの?」
同期の騎士に言われて初めて自分の顔が疲れを出しているのだと知ったエルムントはため息と共に首を振った。
「相手はしていない」
「マジ? あんな若い身体がそこにあるのに?」
「うんざりするほど中身が子供すぎる。あんな幼稚な王女なんか嫁の貰い手ないぞ」
「どうせ陛下の気まぐれで殺されるんだ。結婚なんかどのみち無理だろ」
エルムントもそう思っていた。姉も気まぐれに囲われているだけですぐに飽きられるだろうと。しかし違った。
今までの女はなんとか機嫌を取ろうとあれやこれやと必死に動き回っていたが、今はアルフローレンスのほうがミュゲットのために動いていることが多い。
「飽きたらポイ、で済むんだもんな。すげーお方だよ、皇帝陛下は」
「口を慎め。皇帝陛下を満足させられる女がいないだけだ」
「そりゃそうだろ。どんな女ならあの人を満足させられるってんだよ」
誰もミュゲットがこのまま寵愛を受け続けるとは思っていない。ミュゲットより背が高い美人はいくらでもいた。ミュゲットのように背が低く、細いだけの女を皇帝陛下が愛するわけがないと。
人を生かすも殺すも機嫌次第な皇帝陛下の行動は誰にも予想がつけられない。エルムントでさえも。
「で、お前さんは今からどこに?」
「フランが外に出たいと言うから許可をもらいに皇帝陛下に拝謁する」
「出ると思ってんのか?」
「皇帝陛下はフランに興味はない。どこで何をしようとどうでもいいと思っているだろうからな」
「どうして妹じゃなく姉なのかねぇ。わからんわ」
「お前が望むなら交代してやってもいいぞ」
「んー……やめとく。お前さんが疲れてるってことはそれだけやばい女ってことだろうし」
エルムントは舌打ちしたくなった。カインが乗り気で「交代する」と言ってくれればアルフローレンスに言って交代することができたかもしれないのにと残念さと悔しさで表情が不機嫌になる。その様子に笑いながら肩を叩いたカインは上機嫌に去っていった。
「誰か引き取ってくれ……」
志願者はいるだろうが、命を受けたのは自分であるため交代するにも許可がいる。一気に二つの許可は取れないだろうと諦め、とりあえずの外出許可をもらいに部屋へと向かった。
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