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天使の祝福を
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リーン ゴーン リーン ゴーン
祝福の音が鳴り響く大きな鐘の下で純白の衣装に身を包んだ男女はその日、自分たちがこの世界で最も幸福であると微笑みながら手を握り合ってキスをする。
その瞬間に鳴り響く拍手、指笛、歓声を浴びながら新しい人生の一歩を赤い絨毯の上で踏み出した。
そしてその数年後、自分たちの愛の結晶がこの世に誕生する。
愛を誓い合ったあの場所を訪れ、愛の結晶を抱きしめながら神に祈りを捧げる。
そこで授かるは〝神の祝福〟
それを運ぶのは神の使いである天使の役目。
「あなたに神の祝福を」
神父から祝福の儀を受けている赤ん坊に祝福の息吹を贈る天使は赤ん坊の可愛さに見惚れていた。
「やっぱり赤ちゃんってすごく可愛い。いいなぁ」
毎日何百何千という数の祝福を運ぶ天使は一人の赤ん坊に見惚れて時間を潰したりはしない。天使にとって祝福は仕事であって遊びではないのだ。片手で持つには重すぎる祝福リストを手に世界中を回らなければならない。赤ん坊の顔に違いはないし、どうせ自分たちの姿は見えていないのだから愛でる必要も見惚れる意味もないと半数以上がそう言い放つ。
彼らは一分一秒を競って自分の成績を上げなければならないのだから。
だが、ときどき、それに当てはまらない赤ん坊もいる。
「私の姿が見えてるの?」
手を伸ばしてキャッキャと喜ぶ愛らしい赤ん坊の笑顔の瞳と視線が交わる。
天使の姿をはっきり確認できる赤ん坊が稀に存在する。成長するにつれ、その記憶は薄れてしまうが、天使にとっても嬉しい事象であることは間違いない。
「どうしたの?」
「天使が祝福に来ているのでしょう」
「まあ、天使が見えているのね」
「すごいな」
神父の言葉に両親も笑う。
両手を伸ばす赤ん坊に近付いて人差し指を出すとキュッと握られた。小さいながらもしっかりと握るそのか弱い力が成長と共に強くなり、恋をし、夫婦となり、親となって子を抱き、また此処へ神の祝福を受けに来るのだと思うといつも感慨深くなる。
「あ、いけない! 次に行かなくちゃ! また怒られちゃう! 幸せになってね。またいつか会いましょう」
真っ直ぐ見つめてくる赤ん坊の手からそっと指を抜いて額に口付ける。
天使のキスも贈り物。だが、時間に余裕がない天使たちがそうするのもまた稀なこと。
どの赤ん坊も似ているようで似ていない。それぞれに個性があって愛らしい。
天使に生まれてよかったと毎日毎分毎秒そう実感する。
「んやああああああッ!」
笑顔と共に天使が消えた。それと同時に泣き出した赤ん坊に母親が驚く。生まれた瞬間だってこんなに大きな声で泣かなかった我が子がさっきまでの笑顔が嘘のように癇癪を起こす。何事だと慌てて揺らしては顔を覗き込む。
「あらあら、どうしたの?」
「疲れたのかな?」
頬を撫でる父親の大きな手を嫌がるように手足を動かす。
「天使がいなくなったのかもしれないな」
「天使さんも忙しいのよ。ここにくればまた会えるわ」
この教会は天使が来ると有名。退屈な祝福の儀に耐えられず泣き出した子供が一定時間笑顔になったと話す者は多く、祝福を受けた子供たちはこぞって『天使を見たよ』と話した。
だからこの教会には多くの親が神の祝福を受けに来る。
両親が寄り添い、愛する我が子に祝福を、と祈る。
「ほら、天使が来ていたんだ」
「ああッ、ありがとうございます」
祝福の鐘が鳴り、夫婦は感動したように瞳を震わせながら感謝を捧げる。
真上で鳴る大きな鐘が響かせる祝福の音は不思議と耳を押さえたくなるほどの騒音には聞こえず、むしろ優しい音色に聞こえた。
「あなたに神の祝福を」
鐘から手を離した天使は大きな目を細めて喜びに手を叩く赤ん坊に遠くから手を振ってもう一度囁いた。
祝福の音が鳴り響く大きな鐘の下で純白の衣装に身を包んだ男女はその日、自分たちがこの世界で最も幸福であると微笑みながら手を握り合ってキスをする。
その瞬間に鳴り響く拍手、指笛、歓声を浴びながら新しい人生の一歩を赤い絨毯の上で踏み出した。
そしてその数年後、自分たちの愛の結晶がこの世に誕生する。
愛を誓い合ったあの場所を訪れ、愛の結晶を抱きしめながら神に祈りを捧げる。
そこで授かるは〝神の祝福〟
それを運ぶのは神の使いである天使の役目。
「あなたに神の祝福を」
神父から祝福の儀を受けている赤ん坊に祝福の息吹を贈る天使は赤ん坊の可愛さに見惚れていた。
「やっぱり赤ちゃんってすごく可愛い。いいなぁ」
毎日何百何千という数の祝福を運ぶ天使は一人の赤ん坊に見惚れて時間を潰したりはしない。天使にとって祝福は仕事であって遊びではないのだ。片手で持つには重すぎる祝福リストを手に世界中を回らなければならない。赤ん坊の顔に違いはないし、どうせ自分たちの姿は見えていないのだから愛でる必要も見惚れる意味もないと半数以上がそう言い放つ。
彼らは一分一秒を競って自分の成績を上げなければならないのだから。
だが、ときどき、それに当てはまらない赤ん坊もいる。
「私の姿が見えてるの?」
手を伸ばしてキャッキャと喜ぶ愛らしい赤ん坊の笑顔の瞳と視線が交わる。
天使の姿をはっきり確認できる赤ん坊が稀に存在する。成長するにつれ、その記憶は薄れてしまうが、天使にとっても嬉しい事象であることは間違いない。
「どうしたの?」
「天使が祝福に来ているのでしょう」
「まあ、天使が見えているのね」
「すごいな」
神父の言葉に両親も笑う。
両手を伸ばす赤ん坊に近付いて人差し指を出すとキュッと握られた。小さいながらもしっかりと握るそのか弱い力が成長と共に強くなり、恋をし、夫婦となり、親となって子を抱き、また此処へ神の祝福を受けに来るのだと思うといつも感慨深くなる。
「あ、いけない! 次に行かなくちゃ! また怒られちゃう! 幸せになってね。またいつか会いましょう」
真っ直ぐ見つめてくる赤ん坊の手からそっと指を抜いて額に口付ける。
天使のキスも贈り物。だが、時間に余裕がない天使たちがそうするのもまた稀なこと。
どの赤ん坊も似ているようで似ていない。それぞれに個性があって愛らしい。
天使に生まれてよかったと毎日毎分毎秒そう実感する。
「んやああああああッ!」
笑顔と共に天使が消えた。それと同時に泣き出した赤ん坊に母親が驚く。生まれた瞬間だってこんなに大きな声で泣かなかった我が子がさっきまでの笑顔が嘘のように癇癪を起こす。何事だと慌てて揺らしては顔を覗き込む。
「あらあら、どうしたの?」
「疲れたのかな?」
頬を撫でる父親の大きな手を嫌がるように手足を動かす。
「天使がいなくなったのかもしれないな」
「天使さんも忙しいのよ。ここにくればまた会えるわ」
この教会は天使が来ると有名。退屈な祝福の儀に耐えられず泣き出した子供が一定時間笑顔になったと話す者は多く、祝福を受けた子供たちはこぞって『天使を見たよ』と話した。
だからこの教会には多くの親が神の祝福を受けに来る。
両親が寄り添い、愛する我が子に祝福を、と祈る。
「ほら、天使が来ていたんだ」
「ああッ、ありがとうございます」
祝福の鐘が鳴り、夫婦は感動したように瞳を震わせながら感謝を捧げる。
真上で鳴る大きな鐘が響かせる祝福の音は不思議と耳を押さえたくなるほどの騒音には聞こえず、むしろ優しい音色に聞こえた。
「あなたに神の祝福を」
鐘から手を離した天使は大きな目を細めて喜びに手を叩く赤ん坊に遠くから手を振ってもう一度囁いた。
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