161 / 190
イベリス復活編
フローラリア2
しおりを挟む
「フローラリアは穏やかで明るい人たちばっかじゃなかったのか?」
「昔はそうだったよ。三年前ぐらい前まではね」
「何かあったのか?」
「色々あったよ。まあ、一番大きな変化は首領の存在かな」
「首領?」
国トップに誰かが就任したという話はミュゲットから聞いていない。グラキエスの支配下となっているためアルフローレンスの命令で新国王の座位は消失したはず。アルフローレンスによる管理が行われているため誰かが好き勝手することはできなくなったと聞いていただけに首領という言葉に眉を寄せる。
「グラキエス皇帝嫌悪派が組織を作ったんだ。その首領が武装集団となってフローラリアを支配しようとしてる」
「支配って……フローラリアにはグラキエスから派遣されてる騎士がいるだろ」
「そんなのとっくに武装集団に入ってる」
わからない話ではない。グラキエスの騎士は誰もがアルフローレンスに怯えていた。生か死しか存在しない騎士としての人生は生きた心地がしなかっただろう。失敗は誰にでもあることで、それを次に活かそうという者が多い中で、アルフローレンスは反省を活かすはずの次を奪っていた。命を奪うことをなんとも思わない心まで冷え切った人間に一生ついていくと考える人間は稀だろう。ウォルフでさえいつまで耐えられたかわからない。
絶大な魔力と繊細なコントロールを持つ皇帝と戦う術がなかったから殺されないために従っていただけで、彼に気付かれないように勢力拡大が行われるのなら皇帝を滅する希望もあると考えた。
派遣された騎士がフローラリアの現状を上手く書いておけば彼が自ら足を運ぶことはないと確信し、手紙にフローラリアが変わりなく穏やかな世界であることを綴っていたのかもしれない。
愛する妻の愛する故郷が武装集団によって変わってしまっていることを知れば彼は黙っていない。すぐにでもフローラリアに降り立って悪意ある者全てを消すはず。
同じ氷使いであるサーシャと一緒にいたからウォルフにはわかる。銃弾では彼らの氷を砕くのは不可能だ。たとえ百人の武装集団が一斉に銃を乱射しようと氷の盾を一気に硬度を上げて銃弾を防ぎ、そして一瞬で彼らを氷漬けにし、破壊する。それに十秒もかかるかどうか。
グラキエスの騎士ならそれぐらいわかるはず。連絡が行けば計画は全て台無しになるのに、どうにもそれが不思議でならない。
「今の現状を皇帝陛下は知らないのか? 誰か知らせるとか……」
「皇帝に手紙を送ったことがバレたら殺される」
郵便屋すら監視はされている。郵便屋だけではないだろう。あちこちに武装集団の目があり、子供がハッキリとそうした言葉を使うということは実際にそうした処刑があったということ。
「ミュゲット様がいた頃は住民が手を取り合って生きてたけど、今はそうじゃない。武装集団に監視されてるし、生活も変わった。皆、自分のことで精一杯になったんだ」
「精一杯って……武装集団に献上が行われてるとか……?」
頷く少年にウォルフとサーシャは顔を見合わせる。何があってもこれはアルフローレンスに伝えなければならない。二人はまたフローラリアを訪れたいと笑って話していた。ミュゲットが願えばアルフローレンスは何がなんでも叶えるだろう。降り立ったときにこんな状況を知ってはミュゲットが悲しむ。ミュゲットが悲しめばアルフローレンスの怒りは爆発し、フローラリアが氷漬けになる可能性がある。
「俺は前のフローラリアが大好きだったよ。今のフローラリアは変だもん」
「俺たちは初めて訪れたんだが、これが普通なのか?」
「まさか。暑い国だけど、ここまでじゃない。カラッとしてたし、じんわり汗ばむぐらいだった。この武装集団が出来てからだよ。なんか、太陽のなんたらってのを手に入れたらしくて、それからすごい気温が上がってるんだ」
アルフローレンスが持っていた物と同じだろう。それ一つで城全体に熱を行き渡らせることができるほど強力な物を元々暑い南国に置いておく理由はなんなのか。
「一体、何個持ってんだ……?」
グラキエスでは一個しかなかったため城だけが暖かく、グラキエスの気温に変化はない。フローラリアが小島であろうとグラキエスの城より狭いわけではないだけに、現地人が異常だと感じるほどの気温上昇は一個というわけではないだろう。
(どっかで塊を見つけたとか……?)
せっかく楽しい旅行になるはずが、まさかの事態に三人の表情が曇る。
「アイゼンさんに手紙送って、そのままグラキエスに送ってもらうか?」
「中身を確認されたら?」
「暗号を書くのは得意だし、彼なら俺たちの故郷について書けば察してくれるだろ」
城に届いた手紙はまずアイゼンに渡る。アイゼン宛ならそれがファーディナンドの目に入ることはなく、封筒の中にアイゼンへの手紙を入れておけば彼ならすぐにグラキエスへと送ってくれるはず。ウォルフがどこまで上手く書けるのかいまいち信用はしていないが、サーシャも思いつく方法はそれしかなかった。
「おにーさんたちどっから来たの?」
「グラキエスだ」
「マジ!?」
「俺たちが今の現状を皇帝陛下に知らせる。少し時間はかかるけど、我慢してくれるか?」
ここからテロスまでかなりの距離があり、テロスからグラキエスまでもかなりの距離がある。手紙が届くには一ヶ月以上かかる可能性があるだけに申し訳ないと少年を見るも少年は笑顔だった。
「こうなったのは昨日一昨日の話じゃねぇもん。今更一ヶ月や二ヶ月同じ状況が続こうと平気。終わりがあるなら耐えられるよ」
三年間、この厳しい環境に耐え抜いてきた逞しい少年の頭を撫でて一緒に宿泊予定のホテルに入ると従業員が駆け寄ってきて少年から荷物を奪おうとするもウォルフが止める。
「この子に荷物運びを頼んでるんだ。部屋まで運ばせたい。給料分は仕事してもらわないとな」
明らかに身なりの良い三人に強く言えない従業員は薄汚れた服を着た裸足の少年に嫌悪感強めの表情を向けながらも通行を許可した。
「金持ちなんだね」
「まさか。ここに泊まったら、あとは金を稼がなきゃいけないぐらいだ。今ある手持ちで最後だよ」
「大丈夫なの?」
「当たり前だろ。大事な婚約者を苦労させるわけねぇよ」
「護衛だと思ってた」
驚いた顔をする少年の正直な言葉に目を閉じ、仕方ないと自分に言い聞かせて悲しみに落ちるのを防いだあと、笑顔を見せる。
「前は護衛だったからな」
「へー。主人から寝取ったんだ?」
「違う!! なんでそうなる!?」
「だっておにーさん、色々と強そうだし」
「色々って……」
今度はサーシャが吹き出しそうになり、顔を背け必死に堪える。肩が揺れているため隠しきれてはおらず、少年のニヤつきも相まって腹が立つ。
「ここか」
従業員が立ち止まり、ドアを開けた部屋の中にサーシャが先に入って中を確認したあと、イベリスが入り、ウォルフは続けて少年を入らせた。あ、と声を漏らした従業員に顔を向けるとその厳しい目は少年に向けられている。汚すなよと言わんばかりの厳しい目つきを見て少年は挑発的な笑みを返した。
「悪いが、飲み物持ってきてくれるか? フローラリアは果物も豊富なんだろ? トロピカルドリンクとかあれば壺にでも入れて持ってきてくれ」
「壺って……」
呆れる言い方にサーシャはスンッと笑いが消えてかぶりを振る。
少年を早く追い出したい従業員は戸惑いながらも頭を下げて部屋を出ていった。
「良い部屋だな」
「最高級の部屋だもの」
それでもテロスの高級ホテルと比べれば驚くほど安い。窓を開けると吹き抜ける熱風に慌てて閉めたウォルフにサーシャがあからさまに嫌な顔をして壁一面に薄い氷の膜を張る。ただでさえ蒸されていた部屋に更に熱風を吹き込んでどういうつもりだと視線に乗せるサーシャの魔法によって一気に部屋の気温が下がり、汗が引いていく。
「荷物、そこに置いて。重たいのにありがとう」
「こんなの軽い軽い。こんなの運んで金もらえるんだから最高だよ」
部屋の隅に荷物を置いた少年が肩を回してその場で飛び跳ねる。元気が有り余っているのか、それとも元気を装っているのか。サーシャは隠れた感情を見抜くのが苦手だった。
「ミュゲット王女を知ってるか?」
「知ってる。覚えてるよ」
「あの人がいた頃とどう変わった?」
「気温が上がったし、物価も上がった。風景も変わったし、人も変わったかなぁ。なんか、ギスギスしてるっていうか……今は世界に誇れるフローラリアじゃないって感じ」
「変わってないのは?」
「ちょっとした景色ぐらいかも。海と砂浜は無事。花は元々暑さに強い物がほとんどだけど、やっぱりこの異常な暑さに花もちょっと萎れ気味っていうか。果物も暑さでやられちゃうし。それでもフローラリアには今も多くの観光客が来るんだ。ま、昔と違って降り立って数日過ごしたら帰ってく人も多いけど。今は裸になっても暑いしね」
フローラリア特有のお出迎えを期待する者も多いのだろう。男女関係なく、そういった趣向に期待しながら足を運ぶ。だが、この暑さではそうした行為すら嫌になる者もいる。ジョイが言うように裸になっても暑いこの島では立っているだけで汗が吹き出す。そんな暑さの中でどうやって楽しめというのか。
「おばさんすごいね」
「……誰がおばさんよ」
「ジョイ、お前は何歳なんだ?」
「十二。もうすぐ十三になるけど」
十二歳からすれば二十歳超えた者はおばさんか。それともあの交渉でそう呼ぶと決めたのか。どこからどう見ても二十歳を過ぎているウォルフはおにーさんと呼ぶ時点で後者かと舌打ちしたくなった。
「学校は?」
「フローラリアで学校に行く奴なんて稀だよ」
「何か学びたいことは?」
「金持ちになる方法」
「それは俺も知りたいな」
「ほらな。学校に行ったところで一番知りたいことは学べやしねぇし、行く意味ねぇよ」
涼しくなった室内で床に腰掛けるウォルフの横を通ってイベリスは自分の荷物から便箋を取り出した。ああ、そうだとすぐに立ち上がって自分が書くからとペンと便箋を受け取り、テーブルへと移動する。
「いいな、この部屋。涼しすぎる。最高じゃん」
外の猛暑が嘘のように涼しい室内にジョイが深呼吸を繰り返す。グラキエスに色白の者ばかりのように、フローラリアには褐色肌の者ばかり。ジョイも例外ではなく、よく焼けた肌をしている。上は何も着ず、靴も履かずにズボンだけ穿いている。フローラリアの男の格好だ。
涼しくなった室内でも太陽の熱でやられた肌は暑いままなのか、腕をパタパタと揺らし続ける。
「おにーさん、支払いしてもらっていい?」
ペンを置いて立ち上がって財布を出すとジョイの後ろのドアが開いた。カットされたフルーツの盛り合わせと金魚鉢のような入れ物に入ったトロピカルドリンク、三人分の皿とフォークとグラスがワゴンに乗って運ばれてきた。
まだ居たのかと言いたげな視線を向ける従業員に大きく舌を出して壁際へと向かう。
「これは……」
この部屋だけまるで冷房器具でもあるかのように涼しいことに驚いた従業員に「ありがとう」とだけ伝えて追い出した。
器に水滴がないことから冷えてはおらず、これもサーシャによって急速に冷やされていく。
「ジョイ、帰る前に水分補給していけよ」
「え、なんで?」
「なんでって……喉乾いてるだろ?」
「まあ、そうだけど……」
キョトンとした顔をするジョイにウォルフが怪訝な顔をする。そこに立ったまま近付いてこようとしない彼に手招きをすると警戒心旺盛にゆっくりと寄ってくる。グラスに注いでやり、差し出しも受け取らないジョイの頬にグラスを押し当てた。
「これを飲んだからってチャラにしろって言うつもりはねぇし、金額から差し引くつもりもねぇよ。ちゃんと運搬賃は渡す。そんな警戒する必要ねぇよ」
これ一杯で配達料と言うつもりなのではないかと疑っているのだろうと気付き、グラスを持たせてから金を取り出して支払いを済ませるとジョイは恐る恐る口をつけて一口飲んだ。久しぶりに飲む冷えた飲み物にそのまま一気に飲み干した。
「もう一杯飲むか?」
「いや、いい」
「遠慮すんな。俺たちはあとで追加で頼めるし」
「いいんだ。あんま贅沢覚えたくねぇから」
あまりにも切ない言葉に胸が痛くなった。まだ十二歳の子供がドリンクのおかわりを贅沢と言った。豊富に取れるはずの果物を絞って作られたドリンクを自由に飲むこともできないほど不自由になっているフローラリアの現状を書き記しておかなければならない。
「これ、持って帰れよ」
「なんで?」
「なんでって……お前を気に入ったから?」
「なんでそんな気前良いの? 会ったばっかじゃん。優しすぎねぇ? 怖いんだけど」
貧困街の子供なら大喜びで受け取るだろう。でもジョイはそうじゃない。警戒している。受け取れば何かあるのではないかと。そうするだけの何かが彼の過去にあった。ウォルフにはそれが何か想像もつかない。自分は幼少期に働かなければならないような状況で育っていないから。
生意気で、真面目で、一生懸命な少年を気に入らないわけがない。自分にしてやれることがあるならしてやりたいし、助けてやりたくなる。
「こんな暑い中で頑張ってる少年に自分が与えられるもんを分け与えるってのはおかしなことか?」
「フローラリアではね。観光客はそんなことしない。もてなされて当然だって思ってるし、自分たちを神だと思ってやりたい放題する奴もいる。親切にする人間のが珍しいんだよ」
「んーまあ、でも、俺はお前にしてやりたいから言ってるだけ。別にお前がこれを全部食ったからって何かしてもらおうとか、何か差し出してもらおうとか思ってない。謂わばこれは俺の自己満足だな」
「……変な奴。でも、そのまま表から帰ることはできないから、裏から受け取る」
「そうだな」
ジョイが堂々と表から帰ることは許されないだろうことはウォルフもわかっている。だからと立ち上がってテラスに出て、そこから外へと降りた。足が長いため軽々と超える巨体に感動しながら身軽になったジョイも同じように飛び越えた。
「サーシャ、取ってくれ」
渋々、皿を取ってウォルフに渡し、ウォルフからジョイに渡る。受け取ったジョイの喉がごくりと鳴るのが聞こえた。腹が減っているくせに強がるところも気に入っている。
「ダチとか兄弟とかと一緒に食べな」
「ありがとう。皿だけ返しに来るから」
「いいよ、別に。割っちまったって言っとくから」
素直な言葉に満面の笑みを浮かべて頭を撫でると走っていくジョイを見送って部屋へと戻る。
「さすがですね、サーシャさん」
「何がよ」
「器、冷たくなってたじゃん」
「ここの空気で冷やされただけでしょ。ていうか、アンタあれ、イベリス様のフルーツだったのに勝手に渡さないでよ」
「イベリス様が気にすると思うか?」
「そういう問題じゃないの」
「細かいこと言うなよ。あれは俺の金で払うから」
「当たり前でしょ」
ウォルフに渡す前、サーシャは魔法で器に氷を張った。そうしてほしいと思ってサーシャに任せたのだが、当たりだった。
やっぱりこの二人は相性が良いと嬉しくなったイベリスが二人の手を握って笑顔を見せる。
「ご機嫌ですね、イベリス様」
「二人が協力して誰かを喜ばせてあげたことがとっても嬉しいの」
イベリスが笑うだけで二人は嬉しい。互いをどう思っていようとそれは閉じ込めて同意するように頷けばいいだけ。
到着早々、問題ありと判明したフローラリアでどう過ごすべきか三人は少し迷っていた。グラキエスと関わった以上はこの問題を見過ごすわけにはいかない。かといって余計な手出しをするのもアルフローレンスは許さないだろう。ならばまずは手紙で知らせる。審判を下すのは皇帝である彼。
できるだけ詳しく書かなければとジョイから聞いたこと、自分が感じたことを余すことなく暗号にして書き伝えることにした。
「昔はそうだったよ。三年前ぐらい前まではね」
「何かあったのか?」
「色々あったよ。まあ、一番大きな変化は首領の存在かな」
「首領?」
国トップに誰かが就任したという話はミュゲットから聞いていない。グラキエスの支配下となっているためアルフローレンスの命令で新国王の座位は消失したはず。アルフローレンスによる管理が行われているため誰かが好き勝手することはできなくなったと聞いていただけに首領という言葉に眉を寄せる。
「グラキエス皇帝嫌悪派が組織を作ったんだ。その首領が武装集団となってフローラリアを支配しようとしてる」
「支配って……フローラリアにはグラキエスから派遣されてる騎士がいるだろ」
「そんなのとっくに武装集団に入ってる」
わからない話ではない。グラキエスの騎士は誰もがアルフローレンスに怯えていた。生か死しか存在しない騎士としての人生は生きた心地がしなかっただろう。失敗は誰にでもあることで、それを次に活かそうという者が多い中で、アルフローレンスは反省を活かすはずの次を奪っていた。命を奪うことをなんとも思わない心まで冷え切った人間に一生ついていくと考える人間は稀だろう。ウォルフでさえいつまで耐えられたかわからない。
絶大な魔力と繊細なコントロールを持つ皇帝と戦う術がなかったから殺されないために従っていただけで、彼に気付かれないように勢力拡大が行われるのなら皇帝を滅する希望もあると考えた。
派遣された騎士がフローラリアの現状を上手く書いておけば彼が自ら足を運ぶことはないと確信し、手紙にフローラリアが変わりなく穏やかな世界であることを綴っていたのかもしれない。
愛する妻の愛する故郷が武装集団によって変わってしまっていることを知れば彼は黙っていない。すぐにでもフローラリアに降り立って悪意ある者全てを消すはず。
同じ氷使いであるサーシャと一緒にいたからウォルフにはわかる。銃弾では彼らの氷を砕くのは不可能だ。たとえ百人の武装集団が一斉に銃を乱射しようと氷の盾を一気に硬度を上げて銃弾を防ぎ、そして一瞬で彼らを氷漬けにし、破壊する。それに十秒もかかるかどうか。
グラキエスの騎士ならそれぐらいわかるはず。連絡が行けば計画は全て台無しになるのに、どうにもそれが不思議でならない。
「今の現状を皇帝陛下は知らないのか? 誰か知らせるとか……」
「皇帝に手紙を送ったことがバレたら殺される」
郵便屋すら監視はされている。郵便屋だけではないだろう。あちこちに武装集団の目があり、子供がハッキリとそうした言葉を使うということは実際にそうした処刑があったということ。
「ミュゲット様がいた頃は住民が手を取り合って生きてたけど、今はそうじゃない。武装集団に監視されてるし、生活も変わった。皆、自分のことで精一杯になったんだ」
「精一杯って……武装集団に献上が行われてるとか……?」
頷く少年にウォルフとサーシャは顔を見合わせる。何があってもこれはアルフローレンスに伝えなければならない。二人はまたフローラリアを訪れたいと笑って話していた。ミュゲットが願えばアルフローレンスは何がなんでも叶えるだろう。降り立ったときにこんな状況を知ってはミュゲットが悲しむ。ミュゲットが悲しめばアルフローレンスの怒りは爆発し、フローラリアが氷漬けになる可能性がある。
「俺は前のフローラリアが大好きだったよ。今のフローラリアは変だもん」
「俺たちは初めて訪れたんだが、これが普通なのか?」
「まさか。暑い国だけど、ここまでじゃない。カラッとしてたし、じんわり汗ばむぐらいだった。この武装集団が出来てからだよ。なんか、太陽のなんたらってのを手に入れたらしくて、それからすごい気温が上がってるんだ」
アルフローレンスが持っていた物と同じだろう。それ一つで城全体に熱を行き渡らせることができるほど強力な物を元々暑い南国に置いておく理由はなんなのか。
「一体、何個持ってんだ……?」
グラキエスでは一個しかなかったため城だけが暖かく、グラキエスの気温に変化はない。フローラリアが小島であろうとグラキエスの城より狭いわけではないだけに、現地人が異常だと感じるほどの気温上昇は一個というわけではないだろう。
(どっかで塊を見つけたとか……?)
せっかく楽しい旅行になるはずが、まさかの事態に三人の表情が曇る。
「アイゼンさんに手紙送って、そのままグラキエスに送ってもらうか?」
「中身を確認されたら?」
「暗号を書くのは得意だし、彼なら俺たちの故郷について書けば察してくれるだろ」
城に届いた手紙はまずアイゼンに渡る。アイゼン宛ならそれがファーディナンドの目に入ることはなく、封筒の中にアイゼンへの手紙を入れておけば彼ならすぐにグラキエスへと送ってくれるはず。ウォルフがどこまで上手く書けるのかいまいち信用はしていないが、サーシャも思いつく方法はそれしかなかった。
「おにーさんたちどっから来たの?」
「グラキエスだ」
「マジ!?」
「俺たちが今の現状を皇帝陛下に知らせる。少し時間はかかるけど、我慢してくれるか?」
ここからテロスまでかなりの距離があり、テロスからグラキエスまでもかなりの距離がある。手紙が届くには一ヶ月以上かかる可能性があるだけに申し訳ないと少年を見るも少年は笑顔だった。
「こうなったのは昨日一昨日の話じゃねぇもん。今更一ヶ月や二ヶ月同じ状況が続こうと平気。終わりがあるなら耐えられるよ」
三年間、この厳しい環境に耐え抜いてきた逞しい少年の頭を撫でて一緒に宿泊予定のホテルに入ると従業員が駆け寄ってきて少年から荷物を奪おうとするもウォルフが止める。
「この子に荷物運びを頼んでるんだ。部屋まで運ばせたい。給料分は仕事してもらわないとな」
明らかに身なりの良い三人に強く言えない従業員は薄汚れた服を着た裸足の少年に嫌悪感強めの表情を向けながらも通行を許可した。
「金持ちなんだね」
「まさか。ここに泊まったら、あとは金を稼がなきゃいけないぐらいだ。今ある手持ちで最後だよ」
「大丈夫なの?」
「当たり前だろ。大事な婚約者を苦労させるわけねぇよ」
「護衛だと思ってた」
驚いた顔をする少年の正直な言葉に目を閉じ、仕方ないと自分に言い聞かせて悲しみに落ちるのを防いだあと、笑顔を見せる。
「前は護衛だったからな」
「へー。主人から寝取ったんだ?」
「違う!! なんでそうなる!?」
「だっておにーさん、色々と強そうだし」
「色々って……」
今度はサーシャが吹き出しそうになり、顔を背け必死に堪える。肩が揺れているため隠しきれてはおらず、少年のニヤつきも相まって腹が立つ。
「ここか」
従業員が立ち止まり、ドアを開けた部屋の中にサーシャが先に入って中を確認したあと、イベリスが入り、ウォルフは続けて少年を入らせた。あ、と声を漏らした従業員に顔を向けるとその厳しい目は少年に向けられている。汚すなよと言わんばかりの厳しい目つきを見て少年は挑発的な笑みを返した。
「悪いが、飲み物持ってきてくれるか? フローラリアは果物も豊富なんだろ? トロピカルドリンクとかあれば壺にでも入れて持ってきてくれ」
「壺って……」
呆れる言い方にサーシャはスンッと笑いが消えてかぶりを振る。
少年を早く追い出したい従業員は戸惑いながらも頭を下げて部屋を出ていった。
「良い部屋だな」
「最高級の部屋だもの」
それでもテロスの高級ホテルと比べれば驚くほど安い。窓を開けると吹き抜ける熱風に慌てて閉めたウォルフにサーシャがあからさまに嫌な顔をして壁一面に薄い氷の膜を張る。ただでさえ蒸されていた部屋に更に熱風を吹き込んでどういうつもりだと視線に乗せるサーシャの魔法によって一気に部屋の気温が下がり、汗が引いていく。
「荷物、そこに置いて。重たいのにありがとう」
「こんなの軽い軽い。こんなの運んで金もらえるんだから最高だよ」
部屋の隅に荷物を置いた少年が肩を回してその場で飛び跳ねる。元気が有り余っているのか、それとも元気を装っているのか。サーシャは隠れた感情を見抜くのが苦手だった。
「ミュゲット王女を知ってるか?」
「知ってる。覚えてるよ」
「あの人がいた頃とどう変わった?」
「気温が上がったし、物価も上がった。風景も変わったし、人も変わったかなぁ。なんか、ギスギスしてるっていうか……今は世界に誇れるフローラリアじゃないって感じ」
「変わってないのは?」
「ちょっとした景色ぐらいかも。海と砂浜は無事。花は元々暑さに強い物がほとんどだけど、やっぱりこの異常な暑さに花もちょっと萎れ気味っていうか。果物も暑さでやられちゃうし。それでもフローラリアには今も多くの観光客が来るんだ。ま、昔と違って降り立って数日過ごしたら帰ってく人も多いけど。今は裸になっても暑いしね」
フローラリア特有のお出迎えを期待する者も多いのだろう。男女関係なく、そういった趣向に期待しながら足を運ぶ。だが、この暑さではそうした行為すら嫌になる者もいる。ジョイが言うように裸になっても暑いこの島では立っているだけで汗が吹き出す。そんな暑さの中でどうやって楽しめというのか。
「おばさんすごいね」
「……誰がおばさんよ」
「ジョイ、お前は何歳なんだ?」
「十二。もうすぐ十三になるけど」
十二歳からすれば二十歳超えた者はおばさんか。それともあの交渉でそう呼ぶと決めたのか。どこからどう見ても二十歳を過ぎているウォルフはおにーさんと呼ぶ時点で後者かと舌打ちしたくなった。
「学校は?」
「フローラリアで学校に行く奴なんて稀だよ」
「何か学びたいことは?」
「金持ちになる方法」
「それは俺も知りたいな」
「ほらな。学校に行ったところで一番知りたいことは学べやしねぇし、行く意味ねぇよ」
涼しくなった室内で床に腰掛けるウォルフの横を通ってイベリスは自分の荷物から便箋を取り出した。ああ、そうだとすぐに立ち上がって自分が書くからとペンと便箋を受け取り、テーブルへと移動する。
「いいな、この部屋。涼しすぎる。最高じゃん」
外の猛暑が嘘のように涼しい室内にジョイが深呼吸を繰り返す。グラキエスに色白の者ばかりのように、フローラリアには褐色肌の者ばかり。ジョイも例外ではなく、よく焼けた肌をしている。上は何も着ず、靴も履かずにズボンだけ穿いている。フローラリアの男の格好だ。
涼しくなった室内でも太陽の熱でやられた肌は暑いままなのか、腕をパタパタと揺らし続ける。
「おにーさん、支払いしてもらっていい?」
ペンを置いて立ち上がって財布を出すとジョイの後ろのドアが開いた。カットされたフルーツの盛り合わせと金魚鉢のような入れ物に入ったトロピカルドリンク、三人分の皿とフォークとグラスがワゴンに乗って運ばれてきた。
まだ居たのかと言いたげな視線を向ける従業員に大きく舌を出して壁際へと向かう。
「これは……」
この部屋だけまるで冷房器具でもあるかのように涼しいことに驚いた従業員に「ありがとう」とだけ伝えて追い出した。
器に水滴がないことから冷えてはおらず、これもサーシャによって急速に冷やされていく。
「ジョイ、帰る前に水分補給していけよ」
「え、なんで?」
「なんでって……喉乾いてるだろ?」
「まあ、そうだけど……」
キョトンとした顔をするジョイにウォルフが怪訝な顔をする。そこに立ったまま近付いてこようとしない彼に手招きをすると警戒心旺盛にゆっくりと寄ってくる。グラスに注いでやり、差し出しも受け取らないジョイの頬にグラスを押し当てた。
「これを飲んだからってチャラにしろって言うつもりはねぇし、金額から差し引くつもりもねぇよ。ちゃんと運搬賃は渡す。そんな警戒する必要ねぇよ」
これ一杯で配達料と言うつもりなのではないかと疑っているのだろうと気付き、グラスを持たせてから金を取り出して支払いを済ませるとジョイは恐る恐る口をつけて一口飲んだ。久しぶりに飲む冷えた飲み物にそのまま一気に飲み干した。
「もう一杯飲むか?」
「いや、いい」
「遠慮すんな。俺たちはあとで追加で頼めるし」
「いいんだ。あんま贅沢覚えたくねぇから」
あまりにも切ない言葉に胸が痛くなった。まだ十二歳の子供がドリンクのおかわりを贅沢と言った。豊富に取れるはずの果物を絞って作られたドリンクを自由に飲むこともできないほど不自由になっているフローラリアの現状を書き記しておかなければならない。
「これ、持って帰れよ」
「なんで?」
「なんでって……お前を気に入ったから?」
「なんでそんな気前良いの? 会ったばっかじゃん。優しすぎねぇ? 怖いんだけど」
貧困街の子供なら大喜びで受け取るだろう。でもジョイはそうじゃない。警戒している。受け取れば何かあるのではないかと。そうするだけの何かが彼の過去にあった。ウォルフにはそれが何か想像もつかない。自分は幼少期に働かなければならないような状況で育っていないから。
生意気で、真面目で、一生懸命な少年を気に入らないわけがない。自分にしてやれることがあるならしてやりたいし、助けてやりたくなる。
「こんな暑い中で頑張ってる少年に自分が与えられるもんを分け与えるってのはおかしなことか?」
「フローラリアではね。観光客はそんなことしない。もてなされて当然だって思ってるし、自分たちを神だと思ってやりたい放題する奴もいる。親切にする人間のが珍しいんだよ」
「んーまあ、でも、俺はお前にしてやりたいから言ってるだけ。別にお前がこれを全部食ったからって何かしてもらおうとか、何か差し出してもらおうとか思ってない。謂わばこれは俺の自己満足だな」
「……変な奴。でも、そのまま表から帰ることはできないから、裏から受け取る」
「そうだな」
ジョイが堂々と表から帰ることは許されないだろうことはウォルフもわかっている。だからと立ち上がってテラスに出て、そこから外へと降りた。足が長いため軽々と超える巨体に感動しながら身軽になったジョイも同じように飛び越えた。
「サーシャ、取ってくれ」
渋々、皿を取ってウォルフに渡し、ウォルフからジョイに渡る。受け取ったジョイの喉がごくりと鳴るのが聞こえた。腹が減っているくせに強がるところも気に入っている。
「ダチとか兄弟とかと一緒に食べな」
「ありがとう。皿だけ返しに来るから」
「いいよ、別に。割っちまったって言っとくから」
素直な言葉に満面の笑みを浮かべて頭を撫でると走っていくジョイを見送って部屋へと戻る。
「さすがですね、サーシャさん」
「何がよ」
「器、冷たくなってたじゃん」
「ここの空気で冷やされただけでしょ。ていうか、アンタあれ、イベリス様のフルーツだったのに勝手に渡さないでよ」
「イベリス様が気にすると思うか?」
「そういう問題じゃないの」
「細かいこと言うなよ。あれは俺の金で払うから」
「当たり前でしょ」
ウォルフに渡す前、サーシャは魔法で器に氷を張った。そうしてほしいと思ってサーシャに任せたのだが、当たりだった。
やっぱりこの二人は相性が良いと嬉しくなったイベリスが二人の手を握って笑顔を見せる。
「ご機嫌ですね、イベリス様」
「二人が協力して誰かを喜ばせてあげたことがとっても嬉しいの」
イベリスが笑うだけで二人は嬉しい。互いをどう思っていようとそれは閉じ込めて同意するように頷けばいいだけ。
到着早々、問題ありと判明したフローラリアでどう過ごすべきか三人は少し迷っていた。グラキエスと関わった以上はこの問題を見過ごすわけにはいかない。かといって余計な手出しをするのもアルフローレンスは許さないだろう。ならばまずは手紙で知らせる。審判を下すのは皇帝である彼。
できるだけ詳しく書かなければとジョイから聞いたこと、自分が感じたことを余すことなく暗号にして書き伝えることにした。
164
お気に入りに追加
883
あなたにおすすめの小説
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
王太子殿下の小夜曲
緑谷めい
恋愛
私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる