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2話 授業中にお仕事

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 朝が来た。
 とはいっても、闇でできた私の愛しい部屋に、朝の光は入らない。
 時計もないこの部屋でなんとなく時間が分かるのは、私が神だからなのだろう。

 リン、と電話のベルが鳴った。指で招くと、空の一升瓶とおつまみのゴミで埋め尽くされた床から、黒電話が飛び出した。

「おはようございます」

『おはよう、キル・リ・エルデ。報告がまだのようだけど、どうしたの? まさか、君のような優秀な死女神が24時間かけても魂を狩れないなんて、そんなわけないよね? いつもみたいにすれ違いざまにさっと狩ってきただろう?』

 ハデス……。早朝から催促の電話とは、苛立たしい。
 しかも、いつもの煽るような嫌味ったらしい口調に拍車がかかってますます苛立たしくなっている。
 私は、今すぐ電話を切りたい衝動にかられた。
 だが、怒りを露にするのは美しくない。こちらの負けになる。
 生きとし生けるものは皆、美しいものに屈服する。すなわち、美しいものこそ優位な存在。
 だから私は人前において、言葉も仕草も姿かたちも美しく存在することを信条として生きている。
 
 髪を払い、私は静かに言葉を返した。

「必ず成果をお持ちしますので、今しばらくお待ちを」

 ガシャン! 受話器を叩きつける。
 
 ――クソハデスが!!
 
 私だって、こんなことになるとは、予想していなかった!
 洗脳が効かず、計算ごときに死を回避され、その上萌えさせられるなんて……っ!
 
 日本につながる鍵を扉に差し込み、怒りに任せて蹴り開いた。

 ビルの上から、地上を眺める。ちょうど、皇秀英が学校に向かって歩いているところだった。
 
 あんな根暗メガネに萌えるなんて……。
 だが、顔はきれいだった……。
 あの邪魔な前髪と黒縁メガネのせいで、はっきりは見えなかったが……。
 あれらが無かったら、どんな顔をしているのだろう……。気になる。見たい……。
 
 いやいやいや!
 皇は標的。仕事に集中しなければ。

 運命写真を撮る。今日も決定的な死因が起こる出来事はない。
 
 だが、今日こそ確実に魂を狩り取る。
 皇が萌えを発動する前に、殺してやる。
 2000年積み上げたキャリアを守り、悠々自適な推し活生活を営むために。
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