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1話 サクラでお仕事

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「エルデさん! このクラスに入ったということは、り、理系女子、ですね!? 我々の化学部に、ははは、入っていただけませんか!」
「いえいえ! こんなつまらん部活にいく必要などありません! 我々の蒸気機関車研究部に是非!」
「我々生体研究部以外、何の価値もありません! ぜひ、我々と一緒に!」

 1限のチャイムが鳴り終わった瞬間、男たちに囲まれた。皆、跪いて指を組み、はぁはぁと下品な息を漏らしている。
 標的が近づいてきやすいようにと神力を抑えているためになんとか近寄ることはできようが、よくもこうぐいぐいと近づいてこれるものだ。
 身の程を知れ、愚かものどもめ。
 あぁ、臭い。
 
 私は立ち上がった。くるりと男たちに踵を返して髪を振り、私の百合の香りで男たちの脂臭い匂いを浄化する。

「ああっ……エルデさん……」

 私は振り向くことなく、まっすぐに奴の元に向かった。
 唯一私に近づいてこなかった、皇 秀英のもとに。

「皇 秀英さん」

 ぽつんと自席に座り、カタカタとパソコンを打ち込んでいた皇が、ゆっくりと顔を上げた。

「学級委員と聞きました。放課後、学校を案内してください」

 奴は唇をわずかに震わせたあと、大人しく「……はい」と頷いた。

 ***

「ここが教務室です。隣のここが自習室で、その隣が図書室。ここから先が実験室です」

 皇は私を、6階まである校舎の隅々まで案内した。

 ……なんだこれは。
 隙だらけではないか。いつもの私のやり方で、さっと魂を狩れそうだ。
 だが、資料には、何度そのやり口でやっても失敗したとあった。ひとまず従っておくのが賢明だろう。
 
 改めて、皇の後ろ姿を睨んだ。
 
 背がすらりと高く、背筋がしゃんと伸びている後ろ姿から、育ちの良さが感じられる。
 細い質感のさらりとした髪も、後ろから見るだけなら上品めいてみえる。
 それに、ふわりといい香りもする。お香のような、若葉のような、和の香り……。
 他のブ男たちよりはいくらかましなように思えた。

 だが、黒い縁のメガネと長い前髪がダサすぎる。
 せっかく緋王様と同じ唇の右下にほくろがあるのに……。
 羨ましくて怒りがわいた。剥がしてやりたい。
 そしてその見た目と、必要のないこと以外話さないロボットのような無口っぷりから根暗感がにじみ出ている。
 
 私の嫌いなタイプの男だ。

 はぁ。
 たまらなく緋王様を拝みたくなった……。
 
 さっさとこいつの魂を回収してここから撤収しよう。
 そして一度自室に戻り、緋王様の動画を見て幸せを注入し、花見酒を愉しみにいくとしよう。
 
 音楽室の前から大きな音が漏れ聞こえた。運命写真機を取り出し、皇を撮った。
 出てきた写真に、皇の後ろ姿と、奴のこの後の「運命」が浮かび上がる。

 死神の仕事は、運命写真に浮かぶ標的の死因になりうる決定的な出来事を確認し、何かあればその出来事を確実に起こして魂を狩り、なければ出来事をつくって魂を狩る。
 今日は、死因となりうる出来事はない。だが、出来事をつくることなどお手の物だ。
 この運命ならば、次のタイミングで魂を狩れるだろう。
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