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銀の風
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大きなクスノキが目印の小さな森にも、寒い冬が来ています。
誰からも忘れられそうなこの森に、リスさんと狼さんの二匹が仲良く暮らしていました。
体は、すっかり大きいけれど狼さんは、甘えん坊。
瞳を輝かせ今日も銀の毛並みをリスさんに整えてもらいます。
うっそうとした毛の波に埋もれながら櫛を入れるリスさんは、小さな体に似合わずしっかり者でクスノキの実のように黒々としたつぶらな瞳を持っています。
二匹の朝はこんな風に狼さんの毛並みを整えることから始まるのです。
「やれやれ、君の毛は癖があるから困っちゃうよ。」
やっと毛づくろいを終えたリスさんはため息交じりに言いました。
体中についた毛を、必死に取ろうともがいています。
「いつも、ありがとうねえ。」
いっしょに毛をとりながら、狼さんは、いつものようにお礼を言いました。
「礼には及ばないさ。」
リスさんは必死に毛を払いながら、そっけなく付け加えました。
「それに、君に任せたら、背中の毛なんか直せやしないんだから。」
狼さんは小さなころからリスさんとずっと一緒にいました。
お母さんもお父さんも、ましてや兄弟の顔なんて全く思い出すことができません。
物心ついた頃から、二匹は一緒に暮らしていました。
朝の毛づくろいも、ご飯も、眠るときだってずっと一緒。
リスさんが木の実や花で作る料理を食べ、月が浮かぶ川の水で二匹が体を洗います。
眠る時はススキで作ったリスさんお手製のベットでぐっすりです。
少し皮肉屋だけれど狼さんはリスさんが大好きで、リスさんもまた同じく狼さんのことが大好きでした。
一本も残らないように体中の毛を取り終え、リスさんは狼さんの頭にスルスルと上ります。
いつものように耳と耳の間に腰掛け、楽しそうに言いました。
「よし、朝ごはんの材料集めといこうか!」
毎朝、二匹はこうやって、朝ごはんの材料を探しに行きます。
狼さんがリスさんを頭の上に乗せてしまえば二匹が離れ離れになることもありません。
狼さんは、数歩後ずさりをして、勢いをつけ駆け出しました。
冬の冷たい空気を銀の風になって二匹は森を駆け抜けていきます。
少し霧がかかった森もまっしぐらに進む狼さんによって目を覚ましていくようでした。
木の枝から落ちた露が朝日に照らされ、夜を溶け込ませた泉の眠りをさまします。
こんな朝の光景を狼さんの頭の上から眺めることがリスさんは何より好きでした。
巡っていく季節の中、森の朝は様々な姿を見せ、長くこの森に棲むリスさんにも毎朝たくさんの発見がありました。
けれど、素直になれないリスさんは正直にその気づきを喜ぶ事ができません。
不意に狼さんが木の根っこにつまずきました。
どしん、と森全体が大きく揺れて朝露が宝石のよう降ってきます。
濡れた体をブルルと震わせ、美しい光景を見ることができた喜びを抑えながらリスさんは口調を作って言いました。
「ほら!君のせいで濡れたじゃないか!」
けれど、狼さんもリスさんが喜んでいる事に、すっかり気が付いていました。
顔は見えないけれど、頭の上でパタパタ動くしっぽや、狼さんの耳を時折ギュッと掴む小さな手、弾むような鼻歌なんかも聞こえて、リスさんが楽しんでいることは十分わかりました。
けれど、狼さんは、気付いていないふりをして、いつもみたいに笑顔で謝りました。
誰からも忘れられそうなこの森に、リスさんと狼さんの二匹が仲良く暮らしていました。
体は、すっかり大きいけれど狼さんは、甘えん坊。
瞳を輝かせ今日も銀の毛並みをリスさんに整えてもらいます。
うっそうとした毛の波に埋もれながら櫛を入れるリスさんは、小さな体に似合わずしっかり者でクスノキの実のように黒々としたつぶらな瞳を持っています。
二匹の朝はこんな風に狼さんの毛並みを整えることから始まるのです。
「やれやれ、君の毛は癖があるから困っちゃうよ。」
やっと毛づくろいを終えたリスさんはため息交じりに言いました。
体中についた毛を、必死に取ろうともがいています。
「いつも、ありがとうねえ。」
いっしょに毛をとりながら、狼さんは、いつものようにお礼を言いました。
「礼には及ばないさ。」
リスさんは必死に毛を払いながら、そっけなく付け加えました。
「それに、君に任せたら、背中の毛なんか直せやしないんだから。」
狼さんは小さなころからリスさんとずっと一緒にいました。
お母さんもお父さんも、ましてや兄弟の顔なんて全く思い出すことができません。
物心ついた頃から、二匹は一緒に暮らしていました。
朝の毛づくろいも、ご飯も、眠るときだってずっと一緒。
リスさんが木の実や花で作る料理を食べ、月が浮かぶ川の水で二匹が体を洗います。
眠る時はススキで作ったリスさんお手製のベットでぐっすりです。
少し皮肉屋だけれど狼さんはリスさんが大好きで、リスさんもまた同じく狼さんのことが大好きでした。
一本も残らないように体中の毛を取り終え、リスさんは狼さんの頭にスルスルと上ります。
いつものように耳と耳の間に腰掛け、楽しそうに言いました。
「よし、朝ごはんの材料集めといこうか!」
毎朝、二匹はこうやって、朝ごはんの材料を探しに行きます。
狼さんがリスさんを頭の上に乗せてしまえば二匹が離れ離れになることもありません。
狼さんは、数歩後ずさりをして、勢いをつけ駆け出しました。
冬の冷たい空気を銀の風になって二匹は森を駆け抜けていきます。
少し霧がかかった森もまっしぐらに進む狼さんによって目を覚ましていくようでした。
木の枝から落ちた露が朝日に照らされ、夜を溶け込ませた泉の眠りをさまします。
こんな朝の光景を狼さんの頭の上から眺めることがリスさんは何より好きでした。
巡っていく季節の中、森の朝は様々な姿を見せ、長くこの森に棲むリスさんにも毎朝たくさんの発見がありました。
けれど、素直になれないリスさんは正直にその気づきを喜ぶ事ができません。
不意に狼さんが木の根っこにつまずきました。
どしん、と森全体が大きく揺れて朝露が宝石のよう降ってきます。
濡れた体をブルルと震わせ、美しい光景を見ることができた喜びを抑えながらリスさんは口調を作って言いました。
「ほら!君のせいで濡れたじゃないか!」
けれど、狼さんもリスさんが喜んでいる事に、すっかり気が付いていました。
顔は見えないけれど、頭の上でパタパタ動くしっぽや、狼さんの耳を時折ギュッと掴む小さな手、弾むような鼻歌なんかも聞こえて、リスさんが楽しんでいることは十分わかりました。
けれど、狼さんは、気付いていないふりをして、いつもみたいに笑顔で謝りました。
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