花と札束

ねおきてる

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札束出産は当たり前になった。

全てが、くるり、ひっくり返ろうとした時だった。

人が札束に夢中になる中、テレビはある男女を映した。

若い二人は手をつなぎ、楽しそうに笑っていた。

女性のおなかは膨らんでいた。


大切そうに触っては優しい顔を浮かべていた。

お腹の中には人の子だった。

「これが、僕たちの幸せです。」

カメラを見つめて男性は言った。

手は女性の上に置かれていて大切そうに包んでいた。

何も疑わない目をしていた。

若い夫婦は花屋をしていた。

テレビでそう宣言した日も色とりどりの花に囲まれていた。

「札束出産が主流の今、人の子を出産するという事ですね?」

取材をした者が聞くと、夫は少し大げさに笑った。


「愛で全てを超えますから。」

こんな二人の姿をテレビも雑誌も大きく載せた。

二人の姿が映る下には、彼らを蔑む言葉が、それぞれの国の言語で書かれていた。

「彼らが幸せと思うのはきっと一時の事でしょう。」

ある番組で婦人言った。

札束出産は当たり前で、彼女の本は書店の裏で山のように積まれていた。

久しぶりに表で語る婦人は少し興奮気味に立て続けに言葉を並べた。

「愛はいつまで続くでしょう。一日一日消費して

久々に見た彼女の言葉に、人々は頷いた。

婦人は、続けて札束を生むことの素晴らしさを流れるようにそのまま繋げた。


メディアからも、周りからも冷たい視線を向けられて、ひっそり夫婦は住まいを変えた。

大きいお腹を抱えたまま、二人して真夜中に誰にも言わず出ていった。

渦中の夫婦が姿を消しても、人々はしばらくは、二人について意見を交わした。

そして決まって札束出産をする事の素晴らしさを繰り返した。

けれど、いつしかそれにも飽きて、また多くの紙幣を生むため頭を悩ます日々に戻った。

この頃には、札束を一枚でも多く生むものが一番偉いとされていた。

また生んだ後にも増やすため、自分の子供の札束を出産した後、人に預け投資する人も増えていた。

投資のプロに金を渡し、生んだ金が増えたり、減ったりするのを他人事のように眺めた。

 
こうして世界は金が溢れ、札束出産の名目すら人が忘れかけたある日だった。
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