ペット？いりません。ウチ、ヒーローいるんで。

きっと、新たな移動手段！ 中編①


「私の手にならないか？」

はて、どういう意味だろう。
意味がわからず、顔を上げる。
おもむろに辺りを見回すと、正樹くんも黒い女も呆然とした顔で矢採を見ていた。
信じられない、という表情だった。

「あの…それはどういう…」

「考え直してください！矢採様！」

私が質問するのを割って入って、黒い女はそう叫んだ。

「そうです！そうです！」

いつのまにか四つん這いになって正樹くんも叫んでいる。
そばにいた黒服も、初めは躊躇っていたものの叫ぶ二人に見習ってヤジを矢採くんに飛ばし始めた。

喧騒の中の彼は優雅に目を瞑って声を聞く。
その姿はとても綺麗で、ある種の宗教画みたいだけど、この喧騒のきっかけは、どう考えてもこいつなんだろう。
ここまで他人事のように振る舞える、その神経が羨ましい。

「この美しいわからずや！」

黒服の一人がヤジを飛ばした。

「正気の沙汰でないイケメン！」

また違う黒服が叫ぶ。

「バラのようなヤバい人！」

もはやボディビルの大会みたいになっていて、教室は収拾もつかない。
枕詞の褒め言葉を免罪符のようにかかげ、黒服はサクサク悪口を言う。