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煙草のにおい

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「・・・でなー、嬢ちゃん、男ってのは嫌がられると燃えるもんだぜ。」

「・・・。」

「嫌よ、嫌よも、とか、あーれーってグルグル―!とかあるだろ?
あーんな風に男は強引に行くのが楽しいんだよ。
本能ってのは年取らねえしなあ。」

「・・・。」

朝もはよから私は下ネタをおかずに飯を食らう。

目の前の武蔵さんは私の食べる速度が落ちるにも気づかず延々と彼なりの保健体育を開講する。

多分、私が昨日どなたと濃ゆい時間を過ごしたと思い傾向と対策を教えているつもりなのだろう。


「それでな・・・」

「もういいです。」


いつもなら、気持ち悪いとちゃぶ台返し・・・それはないか。もったいない。

彼の足をこむら返りにするくらいだろう。

けれど、私は昨日の手前武蔵さんには借りがある。

だから強くは言えないのだ。

昨日、あの後お父さんは帰らなかった。

捻挫をしても、職質されても、通報されても朝日が昇るまで家に帰る。

ヒーローは朝、出没しないという彼のジンクスがあるらしい。

そんな露出狂のような思考のお父さんがスーツのまま帰ってこない。

何時ものようにお気楽に来た誠さんは、私の話を聞き自転車で町中探してくれたのだ。

深夜に帰った武蔵さんは女と酒の匂いをまとって帰ってきたけど、キンキラキンの男は見つからなかった。


「なんか、もう、あれかもな、誘拐。」

「金色の中年、どこに需要在ります?」

「・・・だよなあ。」


一晩たっても、生産性0の答えしか出すことが出来ない。

あのお父さん相手なら仕方ない。


「で、嬢ちゃん、なんで父ちゃん出てったんだ?」

「それは・・・。」


昨日は、理由も話さずただ帰らない事実を伝えた。


「誠さん、お父さんが帰らないんです!あんなの帰らないと末代までの恥です!」


するめ噛みかみ自転車押してきた武蔵さんに、昨晩私は詰め寄った。


「いやあ、嬢ちゃんがアイツの事で焦るなんて。思わず自転車飛ばしちまったわけよ。」

「結局見つけられもせず、酒と女のにおいぷんぷんさせて帰ってきましたけどね。
見つけもせずに、キャバクラですか?」

「まあ、それは大人の事情ってわけだ。」


皿を洗う私をつけて台所で煙草をふかしながらいたずらっぽく笑った。


「で、嬢ちゃん、お前さんは何に責任感じてんだ?」

「・・・。」


時たま武蔵さんはずるいところがある。

私は、なかなか取れない皿の汚れを落とすふりをして無視を決め込んだ。

別に昨日の事は全面的に私が悪いとは思わない。

けれど、誠さんは何かを感じ取ってしまうらしい。

今朝も朝飯を食うためと転がり込んだけど、結局食べたのは糠漬け一枚。

酒を飲んだ次の日は食べないってこの前言っていた。


「・・・まあ、俺は強引に脱がすのは好きだけど無理やり聞くのは趣味じゃねえんだわ。」

「それ犯罪じゃないですか?」

「意思承諾の上だ。まあ、なんだ・・・。」


ぽん、と私の頭に手をのせる。

ふと顔をあげると、長身をかがませにやりと笑った。


「嬢ちゃんは大人になりすぎなんだ。たまには、大人に頼れってことだよ。」


じゃあ、失礼するぜ、といつの間に取っていたのかガムの代金ぴったりおいて商品を尻ポケットに挟ませ出ていった。

少しがたついた自転車が遠ざかっていく。

何だか少し恥ずかしくて少し乱暴に皿の汚れをこすった。






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