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大草原の小さな小屋

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さて、大草原の小さな家という話がある。


おむすびころりんとか、アリスの穴の変形エレベーターがあったり、ネズミがピザを頼んだりおとぎの国も、進化しつつあるはずだった。


多少の期待はやむを得ないだろう。


けれど、私の職場は、大草原の小さな家、ならぬ小さなプレハブ小屋として、草原の中に存在していた。


「公民館みたいですね。」


これが、精一杯のお世辞だった。


「仕方ないんですよ、ここしか空いてなかったんですから。」


一休先輩は、そう言いながら、先々と前を歩いていく。


地面は、水分に富んでいて、踏みしめると、うっすらと靴の底が冷たくなった。


「一応言っておきますが、ここはあの大草原の小さな家とは別物ですよ。どなたのお話の中にも登場したことがありません。」



「え?!おとぎの国なのに、そんなのっていいんですか?」


驚いて素っ頓狂な声を上げる私に彼は振り返るわけでもなく身振り手振りをつけながら続ける。


「エレベーターを掘っている際にこの草原を見つけたそうです。今まで誰にも気づかれず、ひっそり存在していたこの土地で新しく物語が生まれ…。」


とっても良いことを言っているのはわかる、けれど…


「誰かひとりのステージとなるのではなく、たくさんの人の舞台となり…」


めちゃくちゃ靴に水染み込んでくる。靴下の色が変わりそうなくらい。


先々歩く先輩を見て不思議に思いふと、足元を見て私は絶句した。


いつのまにか、とってもおしゃれな長靴に履き替えている。手には今まで履いていた革靴を持ち、身振り手振りのたびにブンブン振り回していた。


「ちょっと待って下さいよ、いつの間に履き替えてんですか!!」


話の途中で急に、大声をあげた後輩を少し迷惑そうに彼は見た。


「いや、わかるんですけどね!何自分だけ、しゃあしゃあと靴履き替えてんですか!!」


「仕方ないでしょう、これは頂き物ですから。」


フウと、美しくため息をついて微笑する。


「以前うちに転職相談に来た現靴屋の長靴の猫さんからいただいたんです。履かないわけにはいかないでしょう?」


ほら先に行きますよ、と、自分のありがたいお話が打ち切られたことに腹が立ったのか、これまで以上に早足で歩き始める。

 
水を含む少しぬかるんだ大地をでゆっくりと足踏みしながら、私は自分の身を案じていた。


こんなことがあるなら伝えるってのがスジだろう。


何、会いたいだ、いなづま走っただ要らないことは書いてるくせに最重要なことは忘れるのか。


出勤方法と言い、長靴のことといい、自分が伝えなかった罪をあの男は全く認める気がない。


先輩は、もうとっくにハローワークについて、鍵を開けていた。


恨めしそうに見ている後輩に、嫌味か、本気なのか、彼は私に大声で呼びかけた。


「早くおいでよーー!!」


ああ、確信した。

 
あいつ絶対ナルシストだ。


あのいちいちクサイ仕草でなんで気づかなかったんだ、私は。


もし、一休さん時代、本当に屏風から虎が出て来ても、自分だけ、麻酔銃とか隠し持ってるタイプだ。


自分のことさえ良ければ良いんだ。


靴を履き替えて職場に入っていく先輩と、ぬかるみに佇む後輩。


私はえらいブラック企業に就職したようだ。








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