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106話 思い出の地巡り2
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文化祭の曲が決まってから、それぞれ一曲目の個人練習が始まった。
俺はそれと同時にオリジナル曲の歌詞を考えるために、ルーシーとの思い出の地を回ることにした。
今日は土曜日。
昼食を食べて、一人で出歩くことにした。
と、思っていたのだが、朝目覚めるとスマホにメッセージがきていた。
しずはからだった。
『ねぇ。今日、回るんでしょ?』
言葉は少ないが、言わんとしていることはわかった。
『そうだよ』
『私もついていっていい? 絶対邪魔しないから』
初詣の時は話せるような場所ではなかったから話せなかっただけ。
でも、今は小学校メンバーなら話しても良いと思っていた。
しずはなら、良い。
俺はそう思っている。
『わかった。そしたらうちに十三時に来てもらえる?』
『ありがとう。じゃあその時間に行くね』
そうして約束の時間。
しずはから家の前に着いたというメッセージ。
俺は玄関を出た。
「光流、おはよっ」
「おはよう」
どこからどう見ても美少女。
冬の寒さで少し頬が赤らみ、マフラーに顔を埋めて口を隠すしずは。
十人中十人は可愛いと言ってしまうような、そんな彼女がそこにはいた。
「じゃ、行こうか」
俺たちは歌詞を探す旅に出た。
◇ ◇ ◇
まず、俺たちが向かったのは、ドーム型遊具がある公園だった。
「ここ。俺とルーシーが出会った場所なんだ」
「そう……」
しずはが何を思って、一緒に着いてきたのかよくわからない。
ルーシーのことを知ることで、何かを感じるのだろうか。
俺たちは公園の中に入り、ドーム型遊具の場所まで近づく。
「学校帰りのあの日は雨だったんだ。そしたら公園から誰もいないはずなのに、泣いてる声が聞こえてきて」
十二月だったかな。
寒い時期だというのに全身びしょ濡れで、震えていたようにも見えた。
「どうしても気になってこの中に入ったら、女の子が泣いてたんだ」
最初見た瞬間、綺麗な金髪だなと思った記憶がある。
「でも顔には包帯が巻かれていて……」
「包帯?」
静かに俺に話を聞いていたしずはだったが、さすがに気になったようだ。
「ずっと顔の病気でさ。そのせいで包帯が取れない生活してたんだ」
「そう、なんだ……」
しずはが神妙な表情になる。
「その病気のせいで友達もできなくて、学校ではいじめられてたみたいで」
「…………っ」
俺達は良くも悪くも、いじめとは無縁な生活を送ってきた。
その対象になることは、どのくらいつらいのかもわからない。
でも、もうそんな気持ちにはさせたくないと思ったのは確かだった。
と言っても小学校を辞めようなんてことは言えるわけもなく、ただただ無力だった。
俺にできることは、一緒に間だけは明るく、元気でいてもらうこと。
だからたくさん会話した。
まぁ、最終的にはルーシーばっかり話していたけど。
「でも、俺はそれより他のところが気になって。髪の色とか目の色とか見たことない色で。だから包帯の下の顔も見たいと思ったんだろうね」
「光流……結構ズカズカいくね……」
「あの頃は好奇心の塊だったからね。今じゃできないかも」
そう、今じゃあんなに突っ込んで聞けなかったと思う。
若気のいたりってやつかな。今も若いけど。
「それで、俺が強引にお願いして、顔を見せてもらったんだ」
「デリケートすぎる……」
「ほんと。バカだよな俺」
よくもそんなこと言えたもんだ。
ルーシーも最初あんなに嫌がっていたのにな。
「それでさ、確かに彼女の肌は大変なことになってはいたんだけど、それでも俺は綺麗だって思っちゃったんだ」
「………」
ルーシー以外にはあれからずっと誰にも言っていない神聖な言葉。
こんなに美少女のしずはにすら、言えなかった。
しずはも気づいてるだろうか。
俺がずっとこの言葉を言わなかったこと。
「でも、彼女は今までのことがあってか卑屈になってて。俺の言葉が信じられないっていうから、だから友達になろうって言ったんだ」
「……光流、らしいね」
「そしたら少し心開いてくれてね。元気に喋ってくれるようになって。そこから交流が始まったんだ」
「凄いなぁ、光流……」
ルーシーの顔を見てから、どうしても仲良くなりたいと思ってしまった。
友達がいないなら、俺が最初の友達になりたい。
だからそう言ったんだ。
「公園、雨、冷たい、綺麗、包帯……」
遊具の前でスマホを出し、思いついた単語をメモっていく。
とりあえず、公園はこのくらいで良いだろう。
「――じゃあ移動しようか」
俺たちは公園を出て、次の思い出の地へ向かう。
その歩いている途中――、
「光流って、結構面食いだよね」
「えっ!?」
突然、しずはからそう言われた。
今までそんなこと思ったことはなかった。
「だって、ルーシーちゃんの見た目が気になって仲良くなりたいって思ったんでしょ?」
「……あ」
言われて気付いた。
もしかするとこれは否定できないのかもしれない。
見た目で仲良くなろうだなんて、なんだか薄っぺらい。
俺って、思っていたより軽薄なやつなんだろうか。
「光流を魅了した子って、本当にどんな子なんだろう。私だって結構美少女だと思うんだけど」
自分で美少女って言ったこいつ。
「はは。ルーシーはハーフだからね。普段関わることがなかった人だったから珍しかったのかもしれない」
「もう人種的に勝てないやつじゃん!」
「そこだけじゃないと思うけど……」
と、言いつつも俺が最初に気になったのは珍しい見た目だ。
ルーシーの性格だって、一週間分しかしらない。
もっと良いところも嫌なところも知りたいのに。それが許されなかった。
「――ここだよ」
俺とルーシーの思い出の地は少ない。
公園と車の中。そして車の中でも車を駐車していた位置は事故の場所しか覚えていない。
つまり二箇所だけ。
でも、俺にはそれだけで十分だった。
「なんにもない場所、だね……」
「そう、なんにもない場所」
ただ、たまたま車を停めていた場所なんだから何かそこにあったわけではない。
「ここに車を停めてて、トラックに突っ込まれたんだ」
「…………」
しずはが無言になる。
「その時、運転手と執事の人がちょうど車の外に出ていてさ、車内にはルーシーと俺二人だったんだ。気付いた時にはもうトラックが迫ってて、もうルーシーを守ることしか考えられなくて。抱きしめたんだけど、いつの間にか車の外に弾き出されてて……」
「無理して説明しなくていいからね……?」
しずはが気を遣ってそう言ってくれる。
「ううん。大丈夫。でもまたすぐに意識失って、目覚めたら病院だった」
「…………そう、だったんだね」
「でも、事故の影響でルーシーの腎臓がやばい状態でさ。もうあんまり時間がなかったんだ」
「それって、どういう……」
死という言葉はできれば使いたくない。だから俺はその言葉を省いて説明した。
「家族も俺のこと心配したんだけど、押し切った。俺の腎臓をあげたいって」
「――――っ」
しずはは、言葉にならない。そんな表情をしていた。
「奇跡的に俺とルーシーの腎臓が適合してね、手術することになったんだ」
あの時、本当に適合してよかった。
適合しなかったら、ルーシーは、ルーシーは。
「だから俺――腎臓が一個ないんだ」
「そう、なんだ。そうだったんだ……」
この腎臓の話は、周りの人には冬矢以外言っていなかった。
ただ、事故に遭って入院していた。
それだけが当時のクラスメイトの共通認識だった。
「俺があの時、決断できたからルーシーが助かった。でも、逆に言えば俺がルーシーと出会わなかったらあんな事故も起きなかった。そうも思ってた」
「それは……結果論ってやつだよ」
「そうかもしれない。でも何が良かったのかわからない。ルーシーの口からあの時のことを聞いてないから」
「でも、わかるよ。ルーシーちゃん、光流と出会ってから明るく変わったんでしょ? 事故が起きたことで光流を恨んだり、そういうこと思うわけない。これは確信だよ」
そうだと嬉しい。
そうであってほしい。
あの事故がなくても、多分ルーシーのことを大事に想えている。
けど、事故があったからこそ、さらに大事に想えるような気もしていた。
「手術は成功したんだけど、ずっとルーシーが目覚めなくてさ。ルーシーのお家はすごいお金持ちで……。だからアメリカの病院でちゃんとした治療をしたいって話になって、あっちに行っちゃったんだ」
「じゃあ……ルーシーちゃんと過ごしたのって……」
「たった一ヶ月くらい……。しずはは四年なのにね……」
「ううん。過ごした時間じゃない何かが光流の中にはあったんだよ……」
そうじゃないと、四年も毎日のように考えたりすることなんてないよな。
それは俺もわかってる。
「ルーシーはその後目覚めたって聞いたんだけど、ずっとアメリカから帰ってこなくて。連絡も俺からもあっちからもしなくて。結局四年が経っちゃった……」
「どっちも連絡、していないんだ……」
「そうしてるのには、理由があるんだと思う。だから俺はとりあえず待とうって。その間にできることしようって思ったんだ。それで始めたのが筋トレとかジョギングとか勉強とかだったんだよね」
「光流が頑張ってた理由、そこが始まりだったんだね……」
何が正解かなんてわからない。
でも決めた選択肢。今やれることをやるだけだと思い行動している。
「四年も待っちゃったけど、いつかは我慢できなくなるかもしれない。もしかしたら今すぐ手紙くらい出した方が良いのかもしれない。色々迷って、結局行動できてないんだけどね。こういう話すると、かっこいいしずはに何も言えなくなっちゃうけど」
「そんなことない……そんなことないよ!」
俺がそういうと、しずはが否定する。
今日一、感情を出していた。
「だって、その話聞いただけで、光流が悩んで、悩んで……たくさん悩んで決めて。何かを頑張ろうってなったのがわかるもん」
「そうかな……」
「うん。そうだよ」
その後、全部ではないけど、ルーシーが俺と同じく甘い物が好きだったり、車の中でデートを重ねたことなどを話した。
この話をしていた時のしずはは、ずっと真剣な表情をしていた。
…………
「――ねぇ、なんで今日来ようって思ったの?」
事故現場から帰る途中、俺は聞きたいことを聞いてみた。
「光流が好きになった人、知りたいに決まってるでしょ?」
「そういうもんか……?」
「そういうもん」
恋敵……のようなものなのかはわからないけど、普通はそんなことできるのだろうか。
俺にはよく、わからない。
「でも、初めて今日その話聞いてさ。私が思ってたより、すごい出会いだったんだなって感じたよ」
「まぁ……そうだね。ルーシーと出会った以上の衝撃は……」
「はぁ~。悔しいなぁ。光流を泣かせたくらいの演奏したのに。それでもルーシーちゃんに勝てないんだもんね」
「ごめん……」
謝ってしまった。
「だーかーら! 謝らないでって!」
「しずはは吹っ切れてるかもしれないけどさ。やっぱりどこかで申し訳ない気持ちがあって……」
しずはも、割り切れない部分は絶対にある。
でも、"友達でいる"って選択をした俺たち。なら、暗い顔をすべきでは、ない……よな。
「もう……優しいんだから……。そんなんだから、私ずっと未練が残っちゃうじゃん」
「ごめん……」
「あー、もう! そんな顔、ルーシーちゃんに見せたらだめだよ?」
「あ、いや……そう、だよな」
確かに、ルーシーには、こんな顔見せない方がいいのかもしれない。
「よし! 帰りにたい焼き買ってくぞー!!」
「え?」
「知らないの? あの大通りにある『黄金の鯛』。あそこの紫芋餡の味美味しいんだよー?」
「そういうことじゃなくて……まぁ良いか。そこ知ってるよ。昔姉ちゃんと買い食いしたことあるから」
そういえば、姉ちゃんとたい焼き屋に寄ったのも、退院してすぐにルーシーとの思い出の地を巡った帰りだったな。
なんだかもう、懐かしいな。
俺はスマホには歌詞の欠片になるような単語をさらにメモしていった。
どんな歌詞になるのだろう。
まだ、自分にもわからない。
初めての歌詞作りだ。まだまだわからない部分も多い。
「――あ。しずは」
「なーにぃ?」
「透柳さんに聞いたんだけど、オリジナルの曲作るなら、しずはに頼んでみたらどうかって言われて……」
「あの親父……」
「嫌だったら断ってもらっていいからね!?」
「はぁ……私、光流に弱いんだから断るわけないでしょ……」
「あ、いや……ごめ……ありがとう」
「ふふ。我慢したね」
「あれだけ言われたらね」
少し先ほどまでの神妙な雰囲気から、明るい雰囲気に変わっていく。
「冬矢も打ち込み初めてだと思うからさ。ピアノに支障ない範囲で協力してあげてほしい」
「わかったよ」
「苦労かける」
「なんだよ~。苦労はお互い様でしょ? バンドは運命共同体なんだぞ」
「確かに……そう、かもね」
「私より、覚えることが多い三人の方が負担は多いと思うし」
「それは、そっか」
しずはから協力してくれるとは言ったが、負担はできればかけたくない。
バンドって、方向性の違いとか一人の意識の違いで空中分解すると聞いたことがある。
それぞれのメンタル面も気にした方が良いだろう。
陸だって、仲良くなったのもこのクラスになってから。
いきなり抜けてしまうことも考えながらやらないと。
ともかく。こうして、俺の歌詞作りが始まった。
ー☆ー☆ー☆ー
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俺はそれと同時にオリジナル曲の歌詞を考えるために、ルーシーとの思い出の地を回ることにした。
今日は土曜日。
昼食を食べて、一人で出歩くことにした。
と、思っていたのだが、朝目覚めるとスマホにメッセージがきていた。
しずはからだった。
『ねぇ。今日、回るんでしょ?』
言葉は少ないが、言わんとしていることはわかった。
『そうだよ』
『私もついていっていい? 絶対邪魔しないから』
初詣の時は話せるような場所ではなかったから話せなかっただけ。
でも、今は小学校メンバーなら話しても良いと思っていた。
しずはなら、良い。
俺はそう思っている。
『わかった。そしたらうちに十三時に来てもらえる?』
『ありがとう。じゃあその時間に行くね』
そうして約束の時間。
しずはから家の前に着いたというメッセージ。
俺は玄関を出た。
「光流、おはよっ」
「おはよう」
どこからどう見ても美少女。
冬の寒さで少し頬が赤らみ、マフラーに顔を埋めて口を隠すしずは。
十人中十人は可愛いと言ってしまうような、そんな彼女がそこにはいた。
「じゃ、行こうか」
俺たちは歌詞を探す旅に出た。
◇ ◇ ◇
まず、俺たちが向かったのは、ドーム型遊具がある公園だった。
「ここ。俺とルーシーが出会った場所なんだ」
「そう……」
しずはが何を思って、一緒に着いてきたのかよくわからない。
ルーシーのことを知ることで、何かを感じるのだろうか。
俺たちは公園の中に入り、ドーム型遊具の場所まで近づく。
「学校帰りのあの日は雨だったんだ。そしたら公園から誰もいないはずなのに、泣いてる声が聞こえてきて」
十二月だったかな。
寒い時期だというのに全身びしょ濡れで、震えていたようにも見えた。
「どうしても気になってこの中に入ったら、女の子が泣いてたんだ」
最初見た瞬間、綺麗な金髪だなと思った記憶がある。
「でも顔には包帯が巻かれていて……」
「包帯?」
静かに俺に話を聞いていたしずはだったが、さすがに気になったようだ。
「ずっと顔の病気でさ。そのせいで包帯が取れない生活してたんだ」
「そう、なんだ……」
しずはが神妙な表情になる。
「その病気のせいで友達もできなくて、学校ではいじめられてたみたいで」
「…………っ」
俺達は良くも悪くも、いじめとは無縁な生活を送ってきた。
その対象になることは、どのくらいつらいのかもわからない。
でも、もうそんな気持ちにはさせたくないと思ったのは確かだった。
と言っても小学校を辞めようなんてことは言えるわけもなく、ただただ無力だった。
俺にできることは、一緒に間だけは明るく、元気でいてもらうこと。
だからたくさん会話した。
まぁ、最終的にはルーシーばっかり話していたけど。
「でも、俺はそれより他のところが気になって。髪の色とか目の色とか見たことない色で。だから包帯の下の顔も見たいと思ったんだろうね」
「光流……結構ズカズカいくね……」
「あの頃は好奇心の塊だったからね。今じゃできないかも」
そう、今じゃあんなに突っ込んで聞けなかったと思う。
若気のいたりってやつかな。今も若いけど。
「それで、俺が強引にお願いして、顔を見せてもらったんだ」
「デリケートすぎる……」
「ほんと。バカだよな俺」
よくもそんなこと言えたもんだ。
ルーシーも最初あんなに嫌がっていたのにな。
「それでさ、確かに彼女の肌は大変なことになってはいたんだけど、それでも俺は綺麗だって思っちゃったんだ」
「………」
ルーシー以外にはあれからずっと誰にも言っていない神聖な言葉。
こんなに美少女のしずはにすら、言えなかった。
しずはも気づいてるだろうか。
俺がずっとこの言葉を言わなかったこと。
「でも、彼女は今までのことがあってか卑屈になってて。俺の言葉が信じられないっていうから、だから友達になろうって言ったんだ」
「……光流、らしいね」
「そしたら少し心開いてくれてね。元気に喋ってくれるようになって。そこから交流が始まったんだ」
「凄いなぁ、光流……」
ルーシーの顔を見てから、どうしても仲良くなりたいと思ってしまった。
友達がいないなら、俺が最初の友達になりたい。
だからそう言ったんだ。
「公園、雨、冷たい、綺麗、包帯……」
遊具の前でスマホを出し、思いついた単語をメモっていく。
とりあえず、公園はこのくらいで良いだろう。
「――じゃあ移動しようか」
俺たちは公園を出て、次の思い出の地へ向かう。
その歩いている途中――、
「光流って、結構面食いだよね」
「えっ!?」
突然、しずはからそう言われた。
今までそんなこと思ったことはなかった。
「だって、ルーシーちゃんの見た目が気になって仲良くなりたいって思ったんでしょ?」
「……あ」
言われて気付いた。
もしかするとこれは否定できないのかもしれない。
見た目で仲良くなろうだなんて、なんだか薄っぺらい。
俺って、思っていたより軽薄なやつなんだろうか。
「光流を魅了した子って、本当にどんな子なんだろう。私だって結構美少女だと思うんだけど」
自分で美少女って言ったこいつ。
「はは。ルーシーはハーフだからね。普段関わることがなかった人だったから珍しかったのかもしれない」
「もう人種的に勝てないやつじゃん!」
「そこだけじゃないと思うけど……」
と、言いつつも俺が最初に気になったのは珍しい見た目だ。
ルーシーの性格だって、一週間分しかしらない。
もっと良いところも嫌なところも知りたいのに。それが許されなかった。
「――ここだよ」
俺とルーシーの思い出の地は少ない。
公園と車の中。そして車の中でも車を駐車していた位置は事故の場所しか覚えていない。
つまり二箇所だけ。
でも、俺にはそれだけで十分だった。
「なんにもない場所、だね……」
「そう、なんにもない場所」
ただ、たまたま車を停めていた場所なんだから何かそこにあったわけではない。
「ここに車を停めてて、トラックに突っ込まれたんだ」
「…………」
しずはが無言になる。
「その時、運転手と執事の人がちょうど車の外に出ていてさ、車内にはルーシーと俺二人だったんだ。気付いた時にはもうトラックが迫ってて、もうルーシーを守ることしか考えられなくて。抱きしめたんだけど、いつの間にか車の外に弾き出されてて……」
「無理して説明しなくていいからね……?」
しずはが気を遣ってそう言ってくれる。
「ううん。大丈夫。でもまたすぐに意識失って、目覚めたら病院だった」
「…………そう、だったんだね」
「でも、事故の影響でルーシーの腎臓がやばい状態でさ。もうあんまり時間がなかったんだ」
「それって、どういう……」
死という言葉はできれば使いたくない。だから俺はその言葉を省いて説明した。
「家族も俺のこと心配したんだけど、押し切った。俺の腎臓をあげたいって」
「――――っ」
しずはは、言葉にならない。そんな表情をしていた。
「奇跡的に俺とルーシーの腎臓が適合してね、手術することになったんだ」
あの時、本当に適合してよかった。
適合しなかったら、ルーシーは、ルーシーは。
「だから俺――腎臓が一個ないんだ」
「そう、なんだ。そうだったんだ……」
この腎臓の話は、周りの人には冬矢以外言っていなかった。
ただ、事故に遭って入院していた。
それだけが当時のクラスメイトの共通認識だった。
「俺があの時、決断できたからルーシーが助かった。でも、逆に言えば俺がルーシーと出会わなかったらあんな事故も起きなかった。そうも思ってた」
「それは……結果論ってやつだよ」
「そうかもしれない。でも何が良かったのかわからない。ルーシーの口からあの時のことを聞いてないから」
「でも、わかるよ。ルーシーちゃん、光流と出会ってから明るく変わったんでしょ? 事故が起きたことで光流を恨んだり、そういうこと思うわけない。これは確信だよ」
そうだと嬉しい。
そうであってほしい。
あの事故がなくても、多分ルーシーのことを大事に想えている。
けど、事故があったからこそ、さらに大事に想えるような気もしていた。
「手術は成功したんだけど、ずっとルーシーが目覚めなくてさ。ルーシーのお家はすごいお金持ちで……。だからアメリカの病院でちゃんとした治療をしたいって話になって、あっちに行っちゃったんだ」
「じゃあ……ルーシーちゃんと過ごしたのって……」
「たった一ヶ月くらい……。しずはは四年なのにね……」
「ううん。過ごした時間じゃない何かが光流の中にはあったんだよ……」
そうじゃないと、四年も毎日のように考えたりすることなんてないよな。
それは俺もわかってる。
「ルーシーはその後目覚めたって聞いたんだけど、ずっとアメリカから帰ってこなくて。連絡も俺からもあっちからもしなくて。結局四年が経っちゃった……」
「どっちも連絡、していないんだ……」
「そうしてるのには、理由があるんだと思う。だから俺はとりあえず待とうって。その間にできることしようって思ったんだ。それで始めたのが筋トレとかジョギングとか勉強とかだったんだよね」
「光流が頑張ってた理由、そこが始まりだったんだね……」
何が正解かなんてわからない。
でも決めた選択肢。今やれることをやるだけだと思い行動している。
「四年も待っちゃったけど、いつかは我慢できなくなるかもしれない。もしかしたら今すぐ手紙くらい出した方が良いのかもしれない。色々迷って、結局行動できてないんだけどね。こういう話すると、かっこいいしずはに何も言えなくなっちゃうけど」
「そんなことない……そんなことないよ!」
俺がそういうと、しずはが否定する。
今日一、感情を出していた。
「だって、その話聞いただけで、光流が悩んで、悩んで……たくさん悩んで決めて。何かを頑張ろうってなったのがわかるもん」
「そうかな……」
「うん。そうだよ」
その後、全部ではないけど、ルーシーが俺と同じく甘い物が好きだったり、車の中でデートを重ねたことなどを話した。
この話をしていた時のしずはは、ずっと真剣な表情をしていた。
…………
「――ねぇ、なんで今日来ようって思ったの?」
事故現場から帰る途中、俺は聞きたいことを聞いてみた。
「光流が好きになった人、知りたいに決まってるでしょ?」
「そういうもんか……?」
「そういうもん」
恋敵……のようなものなのかはわからないけど、普通はそんなことできるのだろうか。
俺にはよく、わからない。
「でも、初めて今日その話聞いてさ。私が思ってたより、すごい出会いだったんだなって感じたよ」
「まぁ……そうだね。ルーシーと出会った以上の衝撃は……」
「はぁ~。悔しいなぁ。光流を泣かせたくらいの演奏したのに。それでもルーシーちゃんに勝てないんだもんね」
「ごめん……」
謝ってしまった。
「だーかーら! 謝らないでって!」
「しずはは吹っ切れてるかもしれないけどさ。やっぱりどこかで申し訳ない気持ちがあって……」
しずはも、割り切れない部分は絶対にある。
でも、"友達でいる"って選択をした俺たち。なら、暗い顔をすべきでは、ない……よな。
「もう……優しいんだから……。そんなんだから、私ずっと未練が残っちゃうじゃん」
「ごめん……」
「あー、もう! そんな顔、ルーシーちゃんに見せたらだめだよ?」
「あ、いや……そう、だよな」
確かに、ルーシーには、こんな顔見せない方がいいのかもしれない。
「よし! 帰りにたい焼き買ってくぞー!!」
「え?」
「知らないの? あの大通りにある『黄金の鯛』。あそこの紫芋餡の味美味しいんだよー?」
「そういうことじゃなくて……まぁ良いか。そこ知ってるよ。昔姉ちゃんと買い食いしたことあるから」
そういえば、姉ちゃんとたい焼き屋に寄ったのも、退院してすぐにルーシーとの思い出の地を巡った帰りだったな。
なんだかもう、懐かしいな。
俺はスマホには歌詞の欠片になるような単語をさらにメモしていった。
どんな歌詞になるのだろう。
まだ、自分にもわからない。
初めての歌詞作りだ。まだまだわからない部分も多い。
「――あ。しずは」
「なーにぃ?」
「透柳さんに聞いたんだけど、オリジナルの曲作るなら、しずはに頼んでみたらどうかって言われて……」
「あの親父……」
「嫌だったら断ってもらっていいからね!?」
「はぁ……私、光流に弱いんだから断るわけないでしょ……」
「あ、いや……ごめ……ありがとう」
「ふふ。我慢したね」
「あれだけ言われたらね」
少し先ほどまでの神妙な雰囲気から、明るい雰囲気に変わっていく。
「冬矢も打ち込み初めてだと思うからさ。ピアノに支障ない範囲で協力してあげてほしい」
「わかったよ」
「苦労かける」
「なんだよ~。苦労はお互い様でしょ? バンドは運命共同体なんだぞ」
「確かに……そう、かもね」
「私より、覚えることが多い三人の方が負担は多いと思うし」
「それは、そっか」
しずはから協力してくれるとは言ったが、負担はできればかけたくない。
バンドって、方向性の違いとか一人の意識の違いで空中分解すると聞いたことがある。
それぞれのメンタル面も気にした方が良いだろう。
陸だって、仲良くなったのもこのクラスになってから。
いきなり抜けてしまうことも考えながらやらないと。
ともかく。こうして、俺の歌詞作りが始まった。
ー☆ー☆ー☆ー
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その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
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