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83話 交流
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ーー色々あった花火大会が終わり、もう九月。
冬矢がついにサッカーの練習に復帰した。
今のところ問題なく動けているらしい。
本当にホッとした。
ただ、練習に参加したと言ってもすぐに試合に出られるわけではない。
少しずつ体を慣らしていって、さらに実力も認められなければならない。
冬矢が練習できなかった間にも他の人は練習してうまくなっている。
現在はおそらく立場が逆転してしまっている。
ここからの頑張りも必要だろうが、俺はその点については心配していない。
冬矢も正しい努力ができ、それを継続できるやつだからだ。
◇ ◇ ◇
俺はやっとある約束を果たす日がやってきた。
それは秋森奏ちゃんのことだ。
結局、半年近くもしずはと会わせることなく時間だけが過ぎてしまった。
これについてはかなり申し訳ない。
俺は事前に鞠矢ちゃんから聞いておいた奏ちゃんの連絡先へメッセージしておいた。
この学校は、屋上が解放されていて、数台のベンチがある。
そこでお弁当を持って昼食を食べたりしても問題ない。
なので奏ちゃんには屋上にいるようメッセージでを送った。
俺もお昼の時間になると屋上へ向かった。
階段を上り続けると良い運動になる。
運動をしていない人にとっては一苦労だろう。
階段を登りきって、重厚な屋上へと続く扉を開ける。
まだ生ぬるい空気がブワッと扉を開けた瞬間に顔に当たった。
「あっ、九藤先輩」
先に奏ちゃんが空いているベンチに座って待っていた。
「ごめんね。こんなに時間がかかっちゃった」
「いいえっ。こうやって会わせてくれるだけで嬉しいですから」
奏ちゃんは小さくてお人形さんみたいだ。
今日はポニーテールで髪をまとめていて、とても可愛い。
正直、一年生の間でモテていてもおかしくない。
「ひかる~お弁当の中身交換しよっ」
そして、ベンチの隣。
呼んでいない鞠也ちゃんまでいた。
「鞠也ちゃん呼んでないよ?」
「いいじゃん~ケチなこと言わないでよ。奏ちゃんも私がいたほうが良いだろうし」
奏ちゃんを見ると、コクコクと頷いていた。
二人はあれからずっと仲が良いようだし、いつも二人で行動しているんだろう。
それなら、確かに鞠也ちゃんがいたら安心かもしれない。
「わかったよ。でもこのベンチ三人までしか座れないんだよな」
「それなら、ひかるが立って食べればオッケー!」
「なんだよそれ……まぁ別にいいけどさ」
しずはが来たら四人。三人しかベンチには座れないからしょうがない。
「うそうそ! ひかるの膝の上に私が座って、それで一緒にお弁当食べよ!」
「無理に決まってるだろ?」
どんな体勢なんだ。
鞠也ちゃんは食べやすいかもしれないが、俺はどう考えても口におかずを運びづらい。
「たまにはくっつかせてよ!」
「……家に遊びに来た時にくっついてるだろ……」
「えっ……くっつい……!?」
奏ちゃんが驚いていた。
鞠也ちゃんは小四の時に再会してから、大抵俺にくっついてくるようになった。
家が近所なので、たまに遊びにきた時はいつもくっついてくる。
あくまで従姉妹。変な感情は起きない。
「奏ちゃん、従兄弟とかいないの?」
「いるにはいるけど、くっついたりとかは……」
「あれ、もしかして私珍しい?」
「さぁ……」
俺だって他の人の従姉妹の関係がどうかは知らない。
血が繋がっているなら、当たり前なのかとも思っていたけど。
そう会話しているうちに、屋上へと続く扉が開いた。
しずはだった。
長い綺麗な髪が心地よい風にふわりと舞って、サラサラと煌めく。
そのため、しずはが髪を耳にかける仕草をする。
こんな仕草に男子たちはドキッとするんだろうな……。
「あっ、光流……奏ちゃんに鞠也ちゃんまで」
俺達の前まできたしずはは、俺以外の二人にも気づく。
「しっ、しずはせんっ」
「藤間先輩お久しぶりですねー! もう覚えてないくらいですけど」
「おまっ……黙っとけよ。奏ちゃんに喋らせてあげなさい」
「いだぁーーーっ!?」
奏ちゃんがしずは先輩と呼んで何か喋ろうとした時に、鞠也ちゃんがそれを遮って先に挨拶した。
今日は奏ちゃんのための会だ。
だから俺は鞠也ちゃんに軽くチョップした。
少しは引っ込んでいてもらわないと。
「気にしないで。奏ちゃんしずはと話してね?」
「あっ……はいっ」
すると、奏ちゃんが立ち上がってペコペコしながらしずはの前まできた。
「しずは先輩……っ! こうやって同じ学校で会えて嬉しいです!」
「奏ちゃん……こちらこそ。ピアノ頑張ってるみたいだね」
「はいっ……先輩に追いつけるように頑張ってます!」
しずはがこうやって後輩と接するのは正直珍しい。
学校で見るのは初めてだ。
「……で、なんで深月までいるんだよ?」
そして俺は、しずはの後ろで無言で控えていた深月へと目を向けた。
「私がいたら悪いわけ?」
「悪くないけどさ……」
別に悪くはない。奏ちゃんとしずはの会話を邪魔しなければ。
「そういや深月って自分でお弁当作ってるの?」
なんとなく気になった。
ほとんどの人がおそらくは家族がお弁当を作ってくれているだろう。
しかし、花火大会の時も何も言わずともレジャーシートを持ってきてくれたり、結構しっかり者の部分が見えたことから、結構家庭的ではないかと思い始めた。
「そりゃあね……文句ある?」
「ないって! すごいなって思って」
「ふ……ふんっ」
少し嬉しそうな顔をする深月。
いつまで褒められ慣れないんだよ。
「まぁ私は料理とお菓子作りが趣味みたいなもんだからねっ」
あれ……これ、もしかして。
しずはって深月にお菓子作り教わったりしてる可能性あるか?
最近あまり千彩都とも会ってないようだし、花理さんが教えた可能性もあるけど、深月が教えたという線も出てきた。
「凄いな。そんな趣味持ってるなんて、良いお嫁さんになりそうだね」
「はっ、はぁ!? あっ、あんた何を言い出すのよこの変態! セクハラ!!」
「はぁ!? はこっちだよ! なんで変態になるんだよ!」
褒めたのに罵倒された。
ツンデレ過ぎるだろ。
「うっさいわね! 黙りなさい!」
「理不尽すぎるだろ……」
深月の謎理論に振り回され、強制的に話を終わらせられる。
「あー、この人が若林先輩ですかぁ~。噂通りの……」
すると俺と深月のやりとりを見ていた鞠也ちゃんが割り込んでくる。
「だっ、誰よあんた!」
「初めてまして。私、こちらにいるひかるの彼女をしている鞠也と申します」
深月が初対面の鞠也ちゃんを見て驚くと、鞠也ちゃんが完全なる嘘をつきはじめた。
「はぁ!? どういうことよ! 光流! 説明しなさい!」
俺に突っかかってくる深月。
既に俺の胸ぐらを掴んでおり、柄が悪すぎる。
「見ての通りだよ。実はもう婚姻関係を結んでてさ。名字も九藤なんだ。九藤鞠也……」
「おっ、おまえええええ!!!」
鞠也ちゃんに乗っかってみると、深月が胸ぐらを掴んだまま俺を前後に揺する。
「痛いっ! 痛いって深月! シャツ壊れる!」
あまりにも激しい揺さぶりだったのて、さすがに俺も深月の手を掴んで止めにかかる。
「あんたねっ!! ……ありながらっ……このっ!!」
「嘘! 嘘だって! 従姉妹だから! 従姉妹!!!」
「……へ? いと、こ……?」
「そう、従姉妹の遠坂鞠也ちゃん……母さんの姉の娘さん」
「…………」
深月がやっと嘘だと理解できたのか、揺さぶりが止まった。
自分の胸元を見るとシャツの上の方のボタンの糸が緩くなってしまっていた。
深月が小さい声で何かを言っていた気もするが、俺には聞こえなかった。
「従兄弟ですっ! てへっ」
鞠也ちゃんが俺の右腕に絡みついてきて、舌を出して嘘でしたアピールをする。
「るさん……」
「え?」
「ゆるさん!!」
「へ?」
「親戚揃ってゆるさんっ!!!」
深月が襲いかかってきた。
「ちょっ!? 深月!?」
「若林先輩っ!? それっ、だめ!?」
俺はブレザーを脱がされワイシャツがシワシワにされ、鞠也ちゃんは脇腹をこちょこちょされて身悶えていた。
「ーー鞠也ちゃん、深月も脇腹弱いよ?」
するとそれを見ていたしずはから助言が入った。
「鞠也ちゃん、やれぇぇぇ!!!」
「こっ、このぉぉぉぉ!」
俺は後ろから深月の両脇の下に腕を入れて羽交い締めにした。
そして鞠也ちゃんにこちょこちょするように命令。
「ちょっ! 二人なんて卑怯よっ!! だめっ! それっ!? あっ……はははっ!? あははははっ!!!!」
鞠也ちゃんが深月の脇腹を前方からこちょこちょし始めて、今度は深月は身悶え始める。
「お返しですっ!!!」
「だめっ!! もうだめっ!! これ死ぬっ! 死ぬっ!! あはははっ! 降参っ!! やめてっ! あはははははっ!!」
しばらくこちょこちょを継続して、俺はようやく深月の拘束を解いた。
「はぁっ……はぁっ……死ぬ……っ」
屋上のコンクリートの地面に女の子座りで崩れた深月。
やりすぎたか?
「はぁ、はぁ……まさかこんなことになるとは……」
こちょこちょをした鞠也ちゃんもかなり疲れていた。
「でも、楽しかった……」
楽しかったらしい。
確かに鞠也ちゃんはこういうことが好きそうなイメージはある。
「お昼の時間終わっちゃうよ? 早くお弁当食べよう?」
しずはの提案。それもそうだ。
今日は奏ちゃんのための会なんだから。
「隣のベンチも空いてるから、ずらしてこっちまで持ってこようよ」
「あ、それいいね!」
そうして、動ける俺としずはで隣のベンチを一緒に持って移動させる。
向かい合わせになるように設置。
一つのベンチにはしずはと奏ちゃんが座り、もう片方のベンチには俺と鞠也ちゃんと深月が座った。
なぜか深月がこちら側に座った。ちなみに俺、鞠也ちゃん、深月の順番で座っている。
「あんたの従姉妹、良い度胸してるわね……誰に似たのよ」
深月がお弁当をついばみながら毒を吐く。
確かに誰に似たのだろう。あんまり希咲さんには似てるイメージはないのだが。
父親の方だろうか。いや、前に会った時は真面目そうな人だった印象だ。
「鞠也ちゃん、先輩をからかっちゃだめだぞ」
「はーい」
いつものちゃんと聞いていない返事だ。
「わ・か・っ・て・る・わ・ね!?」
「ふぁ、ふぁ、ふぁあああい」
深月が隣に座る鞠也ちゃんの頬を親指と人差し指で挟んでムギュッとする。
「深月先輩ってかわいいですよね」
「ブホッ!?」
深月の口から肉そぼろが少し飛んだ。
「あ、あんた名前ね……!」
「だって下の名前の方仲良くなれるじゃないですか」
「……鞠也だっけ?」
「はい、鞠也ちゃんです」
「覚えたわ」
「それはどうも」
鞠也ちゃんは本当に怖いもの知らずだな。
まぁ、この性格は深月にも通ずるところはあるというか。
…………
「奏ちゃん、学校はどう?」
「はい……鞠也ちゃんがいるので、なんとか……」
光流たちがくだらない話をしている間、二人が会話を進めていた。
「じゃあ私とおんなじだね」
「そうなんですか?」
しずはが優しい表情で奏に話しかける。
「私も深月がいるから何とかやってるもん」
「深月先輩……ちょっと怖くないですか?」
先ほどの件からも奏は深月について怖がっているようだった。
コンクールで遭遇してもいつもツンツンしているので、その印象は変わらなかったようだ。
「私は同い年だしあんまり感じないかも。結構可愛いところもあるしね」
「そうですか……私とも仲良くしてくれますかね?」
「してくれると思うよ。普段はあんな感じだけど、仲良くなったら隙見せてくるから」
逆に隙ばかり見せてくるとも言える。
少し褒めるだけで、簡単にデレてしまうのが深月の良いところでもあり、良くないところでもあるかもしれない。
「そうだ。連絡先交換しよっか」
「ぜひ!」
しずはと奏が連絡先を交換。
奏はそれだけでとても嬉しそうな表情をする。
「そういえば、しずは先輩また綺麗になりましたよね!」
「そ、そうかな?」
奏がしずはの容姿について褒める。
目がキラキラしていて、少しフィルターがかかっているとも言えるが。
「はいっ! なんか耳に髪をかける仕草とかも色気あって、やばいですっ!」
「そんなとこ見てたの」
「あれ男子が見たらイチコロですよっ!!」
「そうかなぁ……イチコロにならない人もいるけどね……」
ちらっと光流に視線を送るしずは。
奏がそれに気づくとーー、
「あっ……そういうことだったんですね……」
「ふふ、わかっちゃった?」
「はい……応援……してますっ」
「奏ちゃんは良い子だね。今度学校帰りでも休みの日でも遊びに行こう?」
「はいっ! ぜひ行きましょう!」
こうして奏は交流の目的を果たし、しずはとの仲を深めることができた。
しずはと奏が向かいのベンチを見ると、深月と鞠也がまた言い合いをしていて、似た者同士だなと思ったのは、二人だけの秘密だ。
冬矢がついにサッカーの練習に復帰した。
今のところ問題なく動けているらしい。
本当にホッとした。
ただ、練習に参加したと言ってもすぐに試合に出られるわけではない。
少しずつ体を慣らしていって、さらに実力も認められなければならない。
冬矢が練習できなかった間にも他の人は練習してうまくなっている。
現在はおそらく立場が逆転してしまっている。
ここからの頑張りも必要だろうが、俺はその点については心配していない。
冬矢も正しい努力ができ、それを継続できるやつだからだ。
◇ ◇ ◇
俺はやっとある約束を果たす日がやってきた。
それは秋森奏ちゃんのことだ。
結局、半年近くもしずはと会わせることなく時間だけが過ぎてしまった。
これについてはかなり申し訳ない。
俺は事前に鞠矢ちゃんから聞いておいた奏ちゃんの連絡先へメッセージしておいた。
この学校は、屋上が解放されていて、数台のベンチがある。
そこでお弁当を持って昼食を食べたりしても問題ない。
なので奏ちゃんには屋上にいるようメッセージでを送った。
俺もお昼の時間になると屋上へ向かった。
階段を上り続けると良い運動になる。
運動をしていない人にとっては一苦労だろう。
階段を登りきって、重厚な屋上へと続く扉を開ける。
まだ生ぬるい空気がブワッと扉を開けた瞬間に顔に当たった。
「あっ、九藤先輩」
先に奏ちゃんが空いているベンチに座って待っていた。
「ごめんね。こんなに時間がかかっちゃった」
「いいえっ。こうやって会わせてくれるだけで嬉しいですから」
奏ちゃんは小さくてお人形さんみたいだ。
今日はポニーテールで髪をまとめていて、とても可愛い。
正直、一年生の間でモテていてもおかしくない。
「ひかる~お弁当の中身交換しよっ」
そして、ベンチの隣。
呼んでいない鞠也ちゃんまでいた。
「鞠也ちゃん呼んでないよ?」
「いいじゃん~ケチなこと言わないでよ。奏ちゃんも私がいたほうが良いだろうし」
奏ちゃんを見ると、コクコクと頷いていた。
二人はあれからずっと仲が良いようだし、いつも二人で行動しているんだろう。
それなら、確かに鞠也ちゃんがいたら安心かもしれない。
「わかったよ。でもこのベンチ三人までしか座れないんだよな」
「それなら、ひかるが立って食べればオッケー!」
「なんだよそれ……まぁ別にいいけどさ」
しずはが来たら四人。三人しかベンチには座れないからしょうがない。
「うそうそ! ひかるの膝の上に私が座って、それで一緒にお弁当食べよ!」
「無理に決まってるだろ?」
どんな体勢なんだ。
鞠也ちゃんは食べやすいかもしれないが、俺はどう考えても口におかずを運びづらい。
「たまにはくっつかせてよ!」
「……家に遊びに来た時にくっついてるだろ……」
「えっ……くっつい……!?」
奏ちゃんが驚いていた。
鞠也ちゃんは小四の時に再会してから、大抵俺にくっついてくるようになった。
家が近所なので、たまに遊びにきた時はいつもくっついてくる。
あくまで従姉妹。変な感情は起きない。
「奏ちゃん、従兄弟とかいないの?」
「いるにはいるけど、くっついたりとかは……」
「あれ、もしかして私珍しい?」
「さぁ……」
俺だって他の人の従姉妹の関係がどうかは知らない。
血が繋がっているなら、当たり前なのかとも思っていたけど。
そう会話しているうちに、屋上へと続く扉が開いた。
しずはだった。
長い綺麗な髪が心地よい風にふわりと舞って、サラサラと煌めく。
そのため、しずはが髪を耳にかける仕草をする。
こんな仕草に男子たちはドキッとするんだろうな……。
「あっ、光流……奏ちゃんに鞠也ちゃんまで」
俺達の前まできたしずはは、俺以外の二人にも気づく。
「しっ、しずはせんっ」
「藤間先輩お久しぶりですねー! もう覚えてないくらいですけど」
「おまっ……黙っとけよ。奏ちゃんに喋らせてあげなさい」
「いだぁーーーっ!?」
奏ちゃんがしずは先輩と呼んで何か喋ろうとした時に、鞠也ちゃんがそれを遮って先に挨拶した。
今日は奏ちゃんのための会だ。
だから俺は鞠也ちゃんに軽くチョップした。
少しは引っ込んでいてもらわないと。
「気にしないで。奏ちゃんしずはと話してね?」
「あっ……はいっ」
すると、奏ちゃんが立ち上がってペコペコしながらしずはの前まできた。
「しずは先輩……っ! こうやって同じ学校で会えて嬉しいです!」
「奏ちゃん……こちらこそ。ピアノ頑張ってるみたいだね」
「はいっ……先輩に追いつけるように頑張ってます!」
しずはがこうやって後輩と接するのは正直珍しい。
学校で見るのは初めてだ。
「……で、なんで深月までいるんだよ?」
そして俺は、しずはの後ろで無言で控えていた深月へと目を向けた。
「私がいたら悪いわけ?」
「悪くないけどさ……」
別に悪くはない。奏ちゃんとしずはの会話を邪魔しなければ。
「そういや深月って自分でお弁当作ってるの?」
なんとなく気になった。
ほとんどの人がおそらくは家族がお弁当を作ってくれているだろう。
しかし、花火大会の時も何も言わずともレジャーシートを持ってきてくれたり、結構しっかり者の部分が見えたことから、結構家庭的ではないかと思い始めた。
「そりゃあね……文句ある?」
「ないって! すごいなって思って」
「ふ……ふんっ」
少し嬉しそうな顔をする深月。
いつまで褒められ慣れないんだよ。
「まぁ私は料理とお菓子作りが趣味みたいなもんだからねっ」
あれ……これ、もしかして。
しずはって深月にお菓子作り教わったりしてる可能性あるか?
最近あまり千彩都とも会ってないようだし、花理さんが教えた可能性もあるけど、深月が教えたという線も出てきた。
「凄いな。そんな趣味持ってるなんて、良いお嫁さんになりそうだね」
「はっ、はぁ!? あっ、あんた何を言い出すのよこの変態! セクハラ!!」
「はぁ!? はこっちだよ! なんで変態になるんだよ!」
褒めたのに罵倒された。
ツンデレ過ぎるだろ。
「うっさいわね! 黙りなさい!」
「理不尽すぎるだろ……」
深月の謎理論に振り回され、強制的に話を終わらせられる。
「あー、この人が若林先輩ですかぁ~。噂通りの……」
すると俺と深月のやりとりを見ていた鞠也ちゃんが割り込んでくる。
「だっ、誰よあんた!」
「初めてまして。私、こちらにいるひかるの彼女をしている鞠也と申します」
深月が初対面の鞠也ちゃんを見て驚くと、鞠也ちゃんが完全なる嘘をつきはじめた。
「はぁ!? どういうことよ! 光流! 説明しなさい!」
俺に突っかかってくる深月。
既に俺の胸ぐらを掴んでおり、柄が悪すぎる。
「見ての通りだよ。実はもう婚姻関係を結んでてさ。名字も九藤なんだ。九藤鞠也……」
「おっ、おまえええええ!!!」
鞠也ちゃんに乗っかってみると、深月が胸ぐらを掴んだまま俺を前後に揺する。
「痛いっ! 痛いって深月! シャツ壊れる!」
あまりにも激しい揺さぶりだったのて、さすがに俺も深月の手を掴んで止めにかかる。
「あんたねっ!! ……ありながらっ……このっ!!」
「嘘! 嘘だって! 従姉妹だから! 従姉妹!!!」
「……へ? いと、こ……?」
「そう、従姉妹の遠坂鞠也ちゃん……母さんの姉の娘さん」
「…………」
深月がやっと嘘だと理解できたのか、揺さぶりが止まった。
自分の胸元を見るとシャツの上の方のボタンの糸が緩くなってしまっていた。
深月が小さい声で何かを言っていた気もするが、俺には聞こえなかった。
「従兄弟ですっ! てへっ」
鞠也ちゃんが俺の右腕に絡みついてきて、舌を出して嘘でしたアピールをする。
「るさん……」
「え?」
「ゆるさん!!」
「へ?」
「親戚揃ってゆるさんっ!!!」
深月が襲いかかってきた。
「ちょっ!? 深月!?」
「若林先輩っ!? それっ、だめ!?」
俺はブレザーを脱がされワイシャツがシワシワにされ、鞠也ちゃんは脇腹をこちょこちょされて身悶えていた。
「ーー鞠也ちゃん、深月も脇腹弱いよ?」
するとそれを見ていたしずはから助言が入った。
「鞠也ちゃん、やれぇぇぇ!!!」
「こっ、このぉぉぉぉ!」
俺は後ろから深月の両脇の下に腕を入れて羽交い締めにした。
そして鞠也ちゃんにこちょこちょするように命令。
「ちょっ! 二人なんて卑怯よっ!! だめっ! それっ!? あっ……はははっ!? あははははっ!!!!」
鞠也ちゃんが深月の脇腹を前方からこちょこちょし始めて、今度は深月は身悶え始める。
「お返しですっ!!!」
「だめっ!! もうだめっ!! これ死ぬっ! 死ぬっ!! あはははっ! 降参っ!! やめてっ! あはははははっ!!」
しばらくこちょこちょを継続して、俺はようやく深月の拘束を解いた。
「はぁっ……はぁっ……死ぬ……っ」
屋上のコンクリートの地面に女の子座りで崩れた深月。
やりすぎたか?
「はぁ、はぁ……まさかこんなことになるとは……」
こちょこちょをした鞠也ちゃんもかなり疲れていた。
「でも、楽しかった……」
楽しかったらしい。
確かに鞠也ちゃんはこういうことが好きそうなイメージはある。
「お昼の時間終わっちゃうよ? 早くお弁当食べよう?」
しずはの提案。それもそうだ。
今日は奏ちゃんのための会なんだから。
「隣のベンチも空いてるから、ずらしてこっちまで持ってこようよ」
「あ、それいいね!」
そうして、動ける俺としずはで隣のベンチを一緒に持って移動させる。
向かい合わせになるように設置。
一つのベンチにはしずはと奏ちゃんが座り、もう片方のベンチには俺と鞠也ちゃんと深月が座った。
なぜか深月がこちら側に座った。ちなみに俺、鞠也ちゃん、深月の順番で座っている。
「あんたの従姉妹、良い度胸してるわね……誰に似たのよ」
深月がお弁当をついばみながら毒を吐く。
確かに誰に似たのだろう。あんまり希咲さんには似てるイメージはないのだが。
父親の方だろうか。いや、前に会った時は真面目そうな人だった印象だ。
「鞠也ちゃん、先輩をからかっちゃだめだぞ」
「はーい」
いつものちゃんと聞いていない返事だ。
「わ・か・っ・て・る・わ・ね!?」
「ふぁ、ふぁ、ふぁあああい」
深月が隣に座る鞠也ちゃんの頬を親指と人差し指で挟んでムギュッとする。
「深月先輩ってかわいいですよね」
「ブホッ!?」
深月の口から肉そぼろが少し飛んだ。
「あ、あんた名前ね……!」
「だって下の名前の方仲良くなれるじゃないですか」
「……鞠也だっけ?」
「はい、鞠也ちゃんです」
「覚えたわ」
「それはどうも」
鞠也ちゃんは本当に怖いもの知らずだな。
まぁ、この性格は深月にも通ずるところはあるというか。
…………
「奏ちゃん、学校はどう?」
「はい……鞠也ちゃんがいるので、なんとか……」
光流たちがくだらない話をしている間、二人が会話を進めていた。
「じゃあ私とおんなじだね」
「そうなんですか?」
しずはが優しい表情で奏に話しかける。
「私も深月がいるから何とかやってるもん」
「深月先輩……ちょっと怖くないですか?」
先ほどの件からも奏は深月について怖がっているようだった。
コンクールで遭遇してもいつもツンツンしているので、その印象は変わらなかったようだ。
「私は同い年だしあんまり感じないかも。結構可愛いところもあるしね」
「そうですか……私とも仲良くしてくれますかね?」
「してくれると思うよ。普段はあんな感じだけど、仲良くなったら隙見せてくるから」
逆に隙ばかり見せてくるとも言える。
少し褒めるだけで、簡単にデレてしまうのが深月の良いところでもあり、良くないところでもあるかもしれない。
「そうだ。連絡先交換しよっか」
「ぜひ!」
しずはと奏が連絡先を交換。
奏はそれだけでとても嬉しそうな表情をする。
「そういえば、しずは先輩また綺麗になりましたよね!」
「そ、そうかな?」
奏がしずはの容姿について褒める。
目がキラキラしていて、少しフィルターがかかっているとも言えるが。
「はいっ! なんか耳に髪をかける仕草とかも色気あって、やばいですっ!」
「そんなとこ見てたの」
「あれ男子が見たらイチコロですよっ!!」
「そうかなぁ……イチコロにならない人もいるけどね……」
ちらっと光流に視線を送るしずは。
奏がそれに気づくとーー、
「あっ……そういうことだったんですね……」
「ふふ、わかっちゃった?」
「はい……応援……してますっ」
「奏ちゃんは良い子だね。今度学校帰りでも休みの日でも遊びに行こう?」
「はいっ! ぜひ行きましょう!」
こうして奏は交流の目的を果たし、しずはとの仲を深めることができた。
しずはと奏が向かいのベンチを見ると、深月と鞠也がまた言い合いをしていて、似た者同士だなと思ったのは、二人だけの秘密だ。
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男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
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【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
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