上 下
58 / 270

58話 従姉妹

しおりを挟む
 鞠也ちゃんを連れてリビングに向かうと、既に扉は空いていて鞠也まりやちゃんはここから飛び出してきたのだと予想できた。

「あら、久しぶりね光流ちゃん」
「あ、久しぶりです。希咲きさきさん」

 リビングには、母とその姉である遠坂希咲とおさかきさきさんがいた。つまり鞠也まりやちゃんの母親だ。
 俺をちゃん付けで呼ぶのはこの人くらいだ。小さい頃から呼んでいたそのままの呼び名だ。

「お見舞い行けなくてごめんね。少し大きくなったわねぇ」
「お家遠いですもんね。全然大丈夫です」

 九藤家が東京に住んでいるのに対して、遠坂家が住んでいるのは福岡だ。
 飛行機代もかかるし簡単にこちらにはこれない。
 なのに今回はなぜ一週間もかけて泊まることになったのだろうか。

「実はね、急にうちのパパが転勤になっちゃってね。今は単身赴任でもうこっちに来て仕事してるの」

 遠坂家は転勤族らしい。旦那さんのお仕事も多少忙しい話は前に聞いたことがあった気がする。

「それでね。ちゃんと三人で住める場所を探すために今回は来たの」

 旦那さんの代わりに希咲さんが家探しをすることになったということだろう。

「そうだったんですね」
「だからその間だけだけどお世話になるわね」
「いえ、僕は全然。こちらこそよろしくお願いします」

 この一週間は二人が増えるということだろう。
 しかし、この家には空き部屋がない。どうするんだろ。

「光流は自分の部屋で灯莉と一緒に寝てもらって、姉さんと鞠也ちゃんは灯莉の部屋を使ってもらう予定なんだけど大丈夫?」

 母が部屋分けを提案した。俺としては姉とはたまに一緒に寝ているので全然問題ない。

「大丈夫だよ」
「ありがとね」
「ひかる! 遊ぼう!」

 今日は特に予定はないので、鞠也ちゃんと遊ぶのもいいか。

「わかった。じゃあ俺の部屋行こっか」
「光流ちゃんごめんね。鞠也をお願いね」
「いいえ、僕も遊べて嬉しいです」



 ◇ ◇ ◇



 鞠也ちゃんは俺の一歳年下で今は小学四年生になりたての九歳だ。
 なんとなくだけど、俺らよりも子供っぽい感じがする。でも俺も一年前はこんな感じだったのかな。

「鞠也ちゃんスワッチやろうよ」
「うん! やろ! モリオパーティある!?」
「あるよ。じゃあ準備するから待っててね」

 俺の部屋に行って二人でゲームを一時間ほどした。鞠也ちゃんは、しずはの家でしずはが俺にしていたように、ぴたっと体をくっつけてきた。何があったのだろう。
 その後、俺の部屋に置いてある漫画を俺のベッドの上で読んでいた鞠也ちゃんだったが、いつの間にか寝ていた。

 小学生というより、幼稚園児を見ている気分になった。

 スースーと俺のベッドで寝息を立てて寝ている鞠也ちゃん。
 可愛いなと思ってしまう。子供を見守る気分ってこんな感じなのかな。

 子供か……。そういえば、ルーシーの夢はお嫁さんになることだったっけ。お嫁さんになれば、子供も欲しいという夢もあるかもしれない。ルーシーの子供か。もちろん可愛いだろうなぁ。俺だったら構いすぎて嫌われそうな気もする。

 俺の姉も今より小さい頃に父に構われすぎた時期があって、一瞬嫌いになった話も聞いた。それ以降父は姉に対して適度な距離感で関わるようになった。距離感って大事だよね。

 会って一週間で抱き締め合ってた俺とルーシーって距離感ってどうなんだろう。
 もしかしておかしいのかな。


 ベッドで眠った鞠也ちゃんをそのまま寝かせておいて、俺はリビングに向かった。
 希咲さんに鞠也ちゃんが眠ってしまったことを伝えると、ご飯の時間までそうしてあげてと言われたので、眠らせておくことにした。

「光流ちゃん、もう体は大丈夫なの?」
「はい。今は運動もしてますよ。最近は筋トレとかジョギングも」
「あら、運動は良いことね。一年前と比べたら少し顔も引き締まってきてるような気もするし」
「それは入院して痩せた影響もあるかもしれません」
「病院食ばかりなら痩せちゃうよね」

 希咲さんは、俺の母よりも少し大人っぽい印象だ。"姉"だからかもしれない。
 いつも俺や姉にはお母さんっぽい言動をよくする母も、姉の前では少し妹っぽい話し方になっている気がする。
 そういう母を見るのも新鮮だ。

「ただいまー!」

 姉が帰宅してきたようだ。姉は俺と同じで特にスポーツなどしていない。中学では帰宅部だそうだ。よく女子会してだべってから帰宅することが多い。

「あれ? 希咲さんだ! どうしたの?」
灯莉ともりちゃん。久しぶりね。こっちに引っ越してくることになったから、お家探す為に少し泊まらせてもらうわ」

 姉にも母は遠坂家が一週間滞在することは言っていなかったらしい。共有不足過ぎではないかとも思った。

「それって暇は時間あるんですか? それなら一緒にお買い物とか行きましょうよー!」
「早めに物件が決まったらいいわよ」
「やったぁ! てか鞠也ちゃんもいます?」
「今は光流ちゃんのベッドで寝てるらしいわよ」
「光流……ついに手を出してしまったか……」
「ちょ! 希咲さんの前で何言ってるのさ!」

 俺がそんな反応をすると、姉も希咲さんも笑った。完全に茶化されたようだ。

「希咲さん、鞠也ちゃんってこの一年で何か変わりました? 抱きついてきたりしたので……」
「あの子もマセてきたんじゃないかしら。女子の友達の間で男子のお話とかもするだろうし」
「それって何か関係あるんですか?」
「男の子を意識し始めるってことよ。そこでせっかく会える異性で従兄弟の光流ちゃんに自分の何かを確かめてるんじゃないかしら」

 そういうこともあるのかな。男子だったらいきなり女子に抱きつくなんてことはあまり想像できない。
 もしかして親戚だったらありえるのか。……わからない。

 そう会話しているうちに夕食の時間になった。
 すると、希咲さんの旦那さんが家に挨拶しに来た。ご飯だけ一緒にしたら一人で宿泊しているホテルに戻るそうだ。

 その後に俺の父も仕事から帰宅した。俺は鞠也ちゃんを起こしにいって、九藤家四人と遠坂家三人で一緒に食事を取った。



 ◇ ◇ ◇



 食事を取った後に希咲さんの旦那さんはホテルに戻っていった。
 そうして、俺は一人でお風呂に入った。

「ひかるぅ~?」
「うおっ!?」

 すると突然、お風呂の扉越しに鞠也ちゃんの声が聞こえた。

「ともりちゃんがパジャマ忘れてるから持っていってって言われたからここに置いておくね」
「あ、あぁパジャマか。うん、鞠也ちゃんありがとう!」

 びっくりした。お風呂に突入してくるかと思った。さすがに小学校高学年になってまで、異性と一緒にお風呂に入るとか恥ずかしくてできない。

『ガラガラ』

「ーーーー!?」

 突然扉が開いた。

「入るね~!」
「ええ!? ちょっと待って!?」

 しかし間髪入れずに小さいタオルを持った鞠也ちゃんが風呂場に入ってきた。
 タオル持ってるだけで、完全に見えてるんだけど!?

「鞠也ちゃんダメだって!」
「なんで? ちょっと前は一緒に入ってたじゃん」
「あ、あれは……俺も色々気にしてなかったというか……」

 色恋のことなんて全くわからず、異性についても特に何も思っていなかった頃だ。俺はいつ頃から異性という存在を意識するようになったのだろう。
 そもそも鞠也ちゃんだって、異性を意識し始めているなら、俺となんか入るわけないのに、どういうことなんだろう。

「私も失礼するわね~」
「希咲さん!?」

 さらに鞠也ちゃんだけではなく、体にタオルを巻いた状態の希咲さんまでが一緒に風呂場に入ってきた。隠れていてよかった。
 風呂場はそんなに大きくないので、三人も一緒にいると手狭だ。

「お、俺上がります!」
「ーー待って」

 俺は股間を手で隠しながら二人の間をすり抜けて風呂場を出ようとしたのだが、希咲さんに腕を掴まれた。

「せっかくなんだし、裸の付き合いでもしましょう。そうじゃないと話せないこともあるでしょ?」
「あるかなぁ……」
「ひかる、諦めろ」

 もう片方の腕まで掴まれた。そんなに力を入れて引っ張られると手で隠していた股間の位置がずれてしまう。

「わ、わかったから手離して!?」

 俺はとにかく目を瞑って、手で股間を隠しながら混浴をやり過ごすことに決めた。






 ー☆ー☆ー☆ー

この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ★レビューやブックマーク登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~

草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。 欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。 それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...