4 / 270
4話 遺書は書かない
しおりを挟む
宝条家がいなくなった俺の病室。
また家族だけが残った。
「宝条さんの名刺……とんでもない財閥の社長さんじゃないか……」
「そうらしいね……」
「光流、お前凄い人物と知り合ってたんだな」
さすがに父も驚いていた。
それから、家族にやっと俺とルーシーのことについて話した。
ルーシーの病気について話すのは、ルーシーの許可を得てからじゃないとなんか違うかなと思ったので、そこはぼかして話した。
たった一週間。されど一週間。俺にはこの短い十年で一番濃厚な時間を過ごしたと感じていた。
ただ車の中で会話していただけなのに、そう感じた。
そんな俺たちの話を家族にも話した。
「あんた、ルーシーちゃんって子のこと好きなのね……」
姉に指摘された。そうだ、俺はルーシーのことが好きだったんだ。
今まで誰か人と会うことにこんなに興奮したことはなかった。毎日学校が早く終われと思っていた。
学校が終わってすぐさま公園に向かって。いつの間にか走る速度が早くなって、ついにはルーシー達が到着する前に公園で待っているようにもなった。
あまりにも待ち遠しかったあの時間。最初の頃は少ししか笑わなかったルーシー。
でも会話していく内にどんどん笑顔になっていって。
包帯越しでも十分にそれを感じた。俺もとても楽しかった。
◇ ◇ ◇
翌日、医者と話したルーシーの父と母、そして氷室が俺の病室にやってきた。
姉は学校なので、仕事を休んだ父と母が同席している。
「九藤さん。医者と話しをしてきました」
「はい。お待ちしていました」
二人が面と向かって真剣な表情で話をする。
「まずはルーシーの状態から、今の腎臓の損傷状態だと、もって三週間だそうです。そしてまずは腎臓が適合するかどうか、血液検査などの検査があるそうです。ちなみに二人の血液型はどちらもO型でしたのでそこには問題はないそうです。ちなみに移植は血液型が不一致だとしても最近の手術では問題なく適合することが多いようです」
「はい、ではまずは検査からということですね……」
俺はその話の中で、『もって三週間』という言葉に衝撃を受けた。
それはつまり、後一ヶ月もしないうちにルーシーは死んでしまうかもしれないということ。
俺にもなんとなく理解できた。
「そしてここからがもっと重要です。もし適合し手術が可能だとわかったとして、手術の成功難度は凄まじいとのことです。腎臓摘出に腎臓移植、二つの手術があるからです。これはルーシーの話ですが、さらに光流くんにも重要な話となります。腎臓は一つ摘出しても人間は元気に生きていけるそうです。しかし、手術というのは成功不成功があります」
「はい……」
俺たちは息を呑んだ。
「それは、光流くんが手術で死ぬ可能性もあるということになります。これまでの歴史でもドナーが死亡した事例があるとのことです」
「…………」
それを聞くと、誰もしばらく声を発しなかった。
「ルーシーのお父さん、僕はもう決めてます。ルーシーに腎臓をあげます。今の俺はルーシーが生きていない世界は考えられません。俺はどんな危険があっても変わりません」
「そうか……そうか……光流くん。ありがとう……」
既に家族内で話し合って、俺がドナーとなることは決めていた。
もちろん手術でのドナーの死亡事故はルーシーの父が話す前にも自分たちでネットで調べていた。
だから俺の意志が揺るがないとわかり、死ぬ可能性もあることがわかると、母はまた泣き出した。
こんなに俺のことで泣いてくれる人がいるなんて、俺は幸せものだ。
でも俺はここで死ぬわけにはいかない。片方だけが生き残るなんてことも許さない。
ルーシー、俺。どちらも生き残って元気になる道しかないんだ。
◇ ◇ ◇
さらに翌日。ルーシーの意識は未だに戻らないそうだ。
財閥の力なのかわからないが、即座に俺とルーシーの適合検査が朝から行われることとなった。
結果、適合は問題ないと判明した。
これで前に進むしかなくなった。それと同時に俺が手術で死ぬかもしれない可能性も出てきた。
こういう時、遺書を書いておいたほうがいいらしい。
でも俺は成功を確信していた。なぜか? 俺がそう望んでいるから。ルーシーと生きる未来を。
だから、遺書なんか書かなかった。家族には病室で一緒にいる間、たくさんの言葉を交わした。
家でもたくさん話していたが、とにかく病室ではもっとたくさん話した。
姉も学校が終わってすぐに病室にやってきて、さらに女友達を数人連れてきた。
なんか流行っているらしい謎ダンスで俺を励ましてくれた。正直意味不明だったが、俺の気が紛れた。
それから、手術の実施日が三日後に決まった。
ちなみにこの病院は宝条家が手配した信頼できる病院らしく、かなり手厚い待遇を受けていたらしい。
後でルーシーの父に全て医療費はこちらで持つと言われたそうで、俺の父もさすがに驚いていた。
手術の前日には話を聞きつけた小学校の友達が先生と一緒にお見舞いにやってきて、会話を楽しんだ。
友達もみんな良いやつだ。最近はルーシー優先で一緒に遊んでいなかったけど。
俺とルーシーの関係も話したので、今度ルーシー紹介しろなんて言われた。
茶化したいだけなのが見え見えだった。元気になったルーシーと仲良くしてくれるかな……。
病院のベッドの上なのに騒がしい日々を過ごした。
ーーそうして、ついに手術の日がやってくる。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ★評価やブックマーク登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
また家族だけが残った。
「宝条さんの名刺……とんでもない財閥の社長さんじゃないか……」
「そうらしいね……」
「光流、お前凄い人物と知り合ってたんだな」
さすがに父も驚いていた。
それから、家族にやっと俺とルーシーのことについて話した。
ルーシーの病気について話すのは、ルーシーの許可を得てからじゃないとなんか違うかなと思ったので、そこはぼかして話した。
たった一週間。されど一週間。俺にはこの短い十年で一番濃厚な時間を過ごしたと感じていた。
ただ車の中で会話していただけなのに、そう感じた。
そんな俺たちの話を家族にも話した。
「あんた、ルーシーちゃんって子のこと好きなのね……」
姉に指摘された。そうだ、俺はルーシーのことが好きだったんだ。
今まで誰か人と会うことにこんなに興奮したことはなかった。毎日学校が早く終われと思っていた。
学校が終わってすぐさま公園に向かって。いつの間にか走る速度が早くなって、ついにはルーシー達が到着する前に公園で待っているようにもなった。
あまりにも待ち遠しかったあの時間。最初の頃は少ししか笑わなかったルーシー。
でも会話していく内にどんどん笑顔になっていって。
包帯越しでも十分にそれを感じた。俺もとても楽しかった。
◇ ◇ ◇
翌日、医者と話したルーシーの父と母、そして氷室が俺の病室にやってきた。
姉は学校なので、仕事を休んだ父と母が同席している。
「九藤さん。医者と話しをしてきました」
「はい。お待ちしていました」
二人が面と向かって真剣な表情で話をする。
「まずはルーシーの状態から、今の腎臓の損傷状態だと、もって三週間だそうです。そしてまずは腎臓が適合するかどうか、血液検査などの検査があるそうです。ちなみに二人の血液型はどちらもO型でしたのでそこには問題はないそうです。ちなみに移植は血液型が不一致だとしても最近の手術では問題なく適合することが多いようです」
「はい、ではまずは検査からということですね……」
俺はその話の中で、『もって三週間』という言葉に衝撃を受けた。
それはつまり、後一ヶ月もしないうちにルーシーは死んでしまうかもしれないということ。
俺にもなんとなく理解できた。
「そしてここからがもっと重要です。もし適合し手術が可能だとわかったとして、手術の成功難度は凄まじいとのことです。腎臓摘出に腎臓移植、二つの手術があるからです。これはルーシーの話ですが、さらに光流くんにも重要な話となります。腎臓は一つ摘出しても人間は元気に生きていけるそうです。しかし、手術というのは成功不成功があります」
「はい……」
俺たちは息を呑んだ。
「それは、光流くんが手術で死ぬ可能性もあるということになります。これまでの歴史でもドナーが死亡した事例があるとのことです」
「…………」
それを聞くと、誰もしばらく声を発しなかった。
「ルーシーのお父さん、僕はもう決めてます。ルーシーに腎臓をあげます。今の俺はルーシーが生きていない世界は考えられません。俺はどんな危険があっても変わりません」
「そうか……そうか……光流くん。ありがとう……」
既に家族内で話し合って、俺がドナーとなることは決めていた。
もちろん手術でのドナーの死亡事故はルーシーの父が話す前にも自分たちでネットで調べていた。
だから俺の意志が揺るがないとわかり、死ぬ可能性もあることがわかると、母はまた泣き出した。
こんなに俺のことで泣いてくれる人がいるなんて、俺は幸せものだ。
でも俺はここで死ぬわけにはいかない。片方だけが生き残るなんてことも許さない。
ルーシー、俺。どちらも生き残って元気になる道しかないんだ。
◇ ◇ ◇
さらに翌日。ルーシーの意識は未だに戻らないそうだ。
財閥の力なのかわからないが、即座に俺とルーシーの適合検査が朝から行われることとなった。
結果、適合は問題ないと判明した。
これで前に進むしかなくなった。それと同時に俺が手術で死ぬかもしれない可能性も出てきた。
こういう時、遺書を書いておいたほうがいいらしい。
でも俺は成功を確信していた。なぜか? 俺がそう望んでいるから。ルーシーと生きる未来を。
だから、遺書なんか書かなかった。家族には病室で一緒にいる間、たくさんの言葉を交わした。
家でもたくさん話していたが、とにかく病室ではもっとたくさん話した。
姉も学校が終わってすぐに病室にやってきて、さらに女友達を数人連れてきた。
なんか流行っているらしい謎ダンスで俺を励ましてくれた。正直意味不明だったが、俺の気が紛れた。
それから、手術の実施日が三日後に決まった。
ちなみにこの病院は宝条家が手配した信頼できる病院らしく、かなり手厚い待遇を受けていたらしい。
後でルーシーの父に全て医療費はこちらで持つと言われたそうで、俺の父もさすがに驚いていた。
手術の前日には話を聞きつけた小学校の友達が先生と一緒にお見舞いにやってきて、会話を楽しんだ。
友達もみんな良いやつだ。最近はルーシー優先で一緒に遊んでいなかったけど。
俺とルーシーの関係も話したので、今度ルーシー紹介しろなんて言われた。
茶化したいだけなのが見え見えだった。元気になったルーシーと仲良くしてくれるかな……。
病院のベッドの上なのに騒がしい日々を過ごした。
ーーそうして、ついに手術の日がやってくる。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ★評価やブックマーク登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
11
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~
草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。
欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。
それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる