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15話 大きな地響き

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 僕たちは、『豪炎の魔手』に勝利したあと、すぐに打ち上げをしようと思っていたが、今思えばさっきランチをとったばかりだったので、正直お腹は空いていなかった。なので、夜に打ち上げをすることにした。

「シオン、頑張ってたね」

 僕たちは学園の客室で休むことにした。とりあえずシオンをねぎらう。

「いえ、実際足止めもなかなかできなくて……全然矢も当たらなかったので……」

 確かに一度もちゃんと矢を当てていなかったような気がする。

「シオン。それだが、予測をもっとしたほうがいいな。相手がどう動くとか、自分が攻撃した先の移動先に誘導するように矢を放ったりな」

 アリアのアドバイス。当たり前のように聞こえるが、毎回瞬時に考えて行動に移すのは頭の回転が早くないとできない。

「そうですね……わたしはとにかく、連射していただけで、動く先などあまり考えていませんでした」

「私も最初はそんな感じだったぞ。どんな戦いも予想を立てて、そのプランがうまくいかなくても、対処できるよう攻撃パターンをいくつかストックしておくと、戦闘時にすぐ動けるぞ」

「さっ、さすがアリアさん! アドバイスありがとうございますっ!」

 そんなの一度も考えたことなかったよ……。うちのメンバーも多分そういうの考えたことあるのって2人くらいじゃないかな……。


「シオン。じゃあひとまずここでお別れだね。あとは卒業後に王都で待ってるからさ」

「はいっ!!! ほんとのほんとの、ほんとうにっ!!! ありがとうございましたっ!! 卒業した後すぐ行くので待っててください!」

 一応シオンへの手伝いは、素材を運ぶまでだ。だからシオンとの旅はここで終わりになる。
 久々の学園だし、少し探検していくかな。

「うん、待ってるね」


 そうして、ここで一旦シオンと別れる。特にアリアもこの後用事はないようだったので、リタとアリアと3人で行動することになった。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 そして、過去に大変面倒をかけた、マリアナ先生の研究室に向かうことにした。僕とライムが魔導具の専門授業でお世話になった先生だ。

「失礼しまーす」

 コンコンッとドアを叩き、特に中から反応はなかったが、中に入ってみることにした。

『ギィ~ッ』

 古臭いドアの開閉音が鳴り、年代を感じさせる。

「こんにちは~。誰かいますか~? マリアナ先生~?」

「ーーーーー」

 研究室はそれほど大きくはなく、10人入れれば良い方だ。
 机の上には大量の資料、壁際にはよくわからない魔導具が複数並んでいた。

『ガチャ……』

 さらに奥の扉から、ドアが開いた。

「ん……?」

「あっ……」

「あっ、あーーーっ!!!」

「おお、これは……」

 扉から出てきたのはマリアナ先生だった。ただ、その姿はパンツに白衣といった、明らかに成人男性の目には毒な光景だった。
 長い橙色の髪がちょうどよく両胸を隠しており、動くとちらちらと先端が見えそうになる。

「リッ、リーダぁぁ!! 見ちゃだめです~~!!!!」

 リタが僕の目を手で覆う。もう目に焼き付いちゃったけど。

「んん? 君たち、どこかで見たような……」

 見ただけではピンと来ないようだ。特に僕は4年振りだ。

「マリアナ先生、僕ですよ、グレンです。昔はお世話になりました」

「あぁっ? なんだ、その名前は。グレンという名前はうちの研究室をぶち壊したやつの名前と同じなんだが」

「そうです。そのグレンです」

「ん? ああ。……え? お前かぁぁぁ!!!!! よく顔を見せろっ!!!」

 マリアナ先生は、リタの手を無理やり剥がして、俺の顔をの覗き込む。

「ふむふむ。少し顔つきがへらへらしたようだな。ふんっ、さぞや良い生活をしてるんだろう」

 たくさん迷惑はかけたけど、多分当時の関係は良好だったはずだ。

「マリアナ先生……。見えてますけど……」

「ん? あぁ。減るもんじゃないだろ? もう三十半ばに差し掛かった女など興味ないだろ? それともお前、ついに女性に興味を持つようになったのか?」

 いや、最初からずっと女性には興味持ってたんですけど……。近くに可愛い女の子たちもいたけど、結局進んだ関係には一度もならなかっただけで……。

「いっ、いや……先生自分の容姿自覚したほう良いですよ……」

 マリアナ先生はうちの姉妹に劣らぬ特大なモノをお持ちだ。研究室にこもりきりなはずなのになぜか良い匂いがするし。


『ふにょ』

「うわあああああああっ!?!? マッ、マリアナ先生!?」

 突然マリアナ先生がリタとアリアがいる前で、俺の手を掴んで、自らの胸に触れさせてきた。


「ははははっ、お前まだおこちゃまだな? 早く卒業しろとあれほど言ったのに……」

 こ、この人は何を言ってるんだ。というか、柔らかすぎて……もうやめてくれぇぇぇっ。



『ドドドドドドドドドッッ』



 そんなマリアナ先生に挨拶している中、突然大きな地震が学園を襲った。
 さらに遠くから轟音が聞こえてきた。

 しばらくすると音が収まっていくが……。


「お~~いっ!!!!! みんなっ! 逃げろぉぉぉぉ!!!!」

「デカい魔物が!! 学園の結界をぶち破って襲ってきたぞぉぉ!!!」

 複数人の生徒が、学園の危機を知らせる。
 先生達がいるなら、ある程度は防げるとは思うんだけどな……

「おいグレン! 行くぞ!!」

 瞬時の判断で、マリアナ先生は俺を引っ張っていこうとする。

「えっ!? 先生! 服っ!!!」

「いや、そんなのいいっ! 今は一大事だっ!!」

「リ、リタァ!! 隣の部屋に多分ある先生の服持ってきてえぇぇぇぇ!!!!」

 俺はマリアナ先生の剛腕に引っ張られてどんどんどこかへ連れて行かれた。
 アリアは見ているだけだったが、とりあえず僕についてきた。

「せ、先生! どこに連れてく気ですか!? ぼくが言ったってしょうもないですよっ!」

「なにを言ってるんだグレン。お前だからこそ良いんじゃないか」

 何言ってるんだこの人。何年僕と一緒に研究室にいたと思ってるんだ……。

「あ、あれ……こっちって……」

 轟音が聞こえたのは、シオンが弓で的を破壊していた修練場の方だった。
 学園の中央には様々な授業を受ける部屋や研究室に学食がある棟。今僕らがいるところだ。北側には先生達が待機したり、仕事をしたりしている棟。西側には闘技場。南側には学生寮。東側には修練場があった。


 マリアナ先生に連れられて東の修練場の方に向かうと、外へと繋がる光が見えてきた。

 修練場に出ると、とんでもない光景が広がっていた。

 剣術、弓術、魔法、槍術とにかく色々な修練場がまとめて全て破壊されていた。
 右側を見てみると、少し遠くに見える何かが蠢いており、突如、雄叫びを上げた。


『グオォォォォォォォ!!!!!!!』


 遠いはずなのに、ここまで振動が来るほどの雄叫び。その声を上げていた何かの周囲には、既に数人の人が倒れているように見えた。


「あ、あれは……エンシェント・ベヒーモス……」

 マリアナ先生が呟く。あ、鑑定でも使ったのかな。
 ほう、ベヒーモス。どこかで聞いたことのある魔物の名だ。ただ、エンシェントと冠がついたのは聞いたことがない。

「なんだあの大きさ……」

 アリアも驚いている。
 それもそうだ。遠くとは言え、周囲に倒れている人間のサイズからある程度換算できる。人の大きさを約2mだとすると、あのベヒーモスの大きさは、その30倍はあるだろうか。つまり60mくらいはあるように見えた。
 あの時の黒竜よりも一回りデカい。

 あの巨体で学園に突っ込まれれば、学園は簡単に崩壊してしまいそうなくらいだ。


「な、なぜだっ! 結界が!? どうなっている!!」

 後ろからきた先生の一人が、結界について言っている。修練場の結界が破壊されているようだった。

「し、しかもよりにもよって、あんなとんでもない魔物……どうなっているんだっ!!」

 さらに別の先生が魔物を見て、戸惑いを隠せない。



「リーダぁぁぁぁ!!! マリアナ先生の服持ってきましたよ~!!」

 遅れてリタが到着した。するとマリアナ先生は面倒くさそうに着替えだす。しかし白衣を脱ぐとパンツ一枚状態になったので、近くにいた先生達は驚きの目でマリアナ先生を見ていた。

 マリアナ先生はたいタイトなズボンにタートルネックのニットを着てその上に白衣を着る。ライムが好むような服装をしていた。

「リタ、ありがとうね。ヨシヨシ……」

 とりあえず頭を撫でておく。

「リーダぁ……って!? あれ!!! なんですかっっ!?」

「ああ、なんかエンシェント・ベヒーモスっていうらしいよ」

「ええええ!? 全然聞いたことない名前なんですケド……」

 そうだよね。僕も全然聞いたことないよ。これどのくらいのランクになるんだろ。7つ星の黒竜よりでかいし。


 すると、他に集まった先生たちが複数人駆け抜け、ベヒーモスへと魔法を浴びせていった。


『グオォォォォォォォォォ!!!!!!!』


 ベヒーモスは叫んだ。しかし、ほとんど傷がついていないように見えた。
 遠目に見ると、紫色の体に頭から背中までたてがみを生やし、大きな角と鋭い牙が見える。
 さらに重たそうな4本の足を地につけ、太い尻尾をたなびかせている。

 すると口に何かを溜めた。えっ、めちゃヤバそう。


『グアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』


 光の息吹が先生たちに襲いかかった。


『『『ホーリィ・プロテクションッッ!!!!!!』』』


 すると先生達が一斉に魔法障壁を五重にも展開した。

 パリン、パリン、と一枚ずつ障壁が破壊され、ギリギリ最後の一枚の障壁が残った。


「あれじゃあ、最後まで持たないぞ……」

 アリアが呟く。うーん。これは逃げた方がいいかな。お世話になった学園だけど、僕ができることなさそうだし……。


「グレン!!! ……行けるな?」


 えっと~。何をおっしゃいます? マリアナ先生。


「行けますッ!!!」


 リタが勢いよく答えた。……なぜ?


「リ、リタ!?」

「リーダぁなら、あんなの余裕です!! 最初から、今までだって、ずっとそうでしたっ! 私達のパーティは強者相手にも戦ってきました! 今度だって大丈夫です!! なぜなら神!グレン様がいるのだから!!」

 教祖を崇める信徒になってるよリタ……。

 僕は考える。自分にできることを。今持っている魔導具は『防魔鈴』『碧熱メガネ』『筋トリベルト』そして『ミドガルズの縄』。筋トリベルトはもう使えなさそうだし、マークさんにもらった『ミドガルズの縄』。これいけるかなぁ。

 『ミドガルズの縄』はなんかライムの鑑定では、めちゃめちゃヤバそうなやつだった。
 一度使ったら回収できるか本当に不安だ。二次被害が出る可能性もある。

 でもやるしかないよなぁ。


「先生。ちょっと、考えあるので、試してみていいですか……?」

「おお! やはりグレンっ! お前は私をいつまでも飽きさせないなっ! もし無事にあいつを仕留めることができたら、何でも言うことを聞いてやろう!! 学園の危機だしな! 思う存分パフパフしてあげてもいいぞ?♡」

 この先生は……。その前に死ぬ可能性の方が高いのに……。


「でも、うまくいかなかったら、逃げますからね? あとは知りませんからね?」


 あ~胃とお腹が痛くなってきた。……一旦トイレ行ってもいいかな?


 ーーそういえば、シオンが修練場で矢をぶっ放した時に変な音が聞こえたような……。






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