不運な死神はへんてこ魔導具でなんとか助かる!〜パーティーの落ちこぼれリーダーは胃痛が悩み〜

藤白ぺるか

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13話 卒業試験

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 僕たちは、シオンの実力を見に行く為に、修練場に向かった。

 少し歩くと、荒野のような広場に出て、そこにいくつかの岩の壁のような的が置いてあった。
 的には防御魔法がかかっており、上級より一つ上の魔級以上のレベルの魔法でしか破壊されないようになっている。

 冒険者学園の生徒のレベルでこれを破壊できる人は、基本的にはいないと聞いている。

「では、シオン。あなたの実力を見せてください」

「はっ、はい!!」

 シオンが背中から弓を取り出し、放つ準備をする。
 一言言っておくか……。

 僕はシオンに近づく耳元で小声で話す。

「シオン。君にできる一番強い技を使うんだ。前のハリケーン・バーストでもいい。あとは、魔素を吸って新しくできるようになったものがあれば、それをやってみてもいい」

「はい、わかりました……」

 シオンが弓を構えて、矢をセットする。何度も何度も弓を放ってきたような綺麗な構え。
 背筋が伸び、少し平な胸を支えに、的に向かって水平に矢を固定する。

「女神様……お願いっ」

 シオンが構える弓の矢先に魔力が集まってくる。緑色の光を纏うそれは、黒竜を倒した時のように、風を集めていく。

『キュィィィィィィィン!!!!!』

 すると、黒竜を倒した時のように雷までは纏っていなかったが、しかし明らかにとんでもない魔力が宿っていた。

「こっ、これは……」

 既に放つ前から、グランナ先生が驚き始めた。

「ほう……。これはとんでもない……」

 魔級の魔法を扱うアリアも同じ意見だ。

 そして、矢先に十分に溜まった魔力は今にも周囲を巻き込んで、今か今かとその風の暴力を解き放ちたいと震えていた。

 シオンは、震える魔力を十分に制御し、的を見定める。そして……。


「アニマ・タービュランスッッ!!!!」


 シオンが声に出したのは、魔級の魔法だった。


『ギュリュリュリュリュリュッ!!!!!!』

 放たれた緑の光を纏う矢は、僕たちがいる後方にも衝撃波を轟かせ、真っ直ぐに的へと風を切り裂いていった。


『チュドォォォォォォンッ!!!!!!!!』

 的に当たった瞬間、大爆発でも起こしたかというくらいの、轟音を轟かせた。
 モクモクと土煙が上がるなか、次第にそれが晴れてゆく。

 そこにあったのは……完全に破壊され、木っ端微塵になっていた的だった。
 魔級以上の魔法でしか破壊できないようになっている的。それを学園の生徒であるシオンが破壊した。


「はは……シ、シオン。あなた……とんでもないですね」

 腰を抜かすような勢いでガクッと崩れかかりそうになっていたグランナ先生。

「おいおい、凄いじゃないかシオン! もう私と同じくらいのレベルまで来ているんじゃないか?」

「わ~すごっ。しかもこれ弓に魔法を収束させる技術もあるから、ただ魔法を放つとは違いますもんね!」

 アリアとリタもシオンを褒める。

「あっ、ははっ……」

 自分で放ったシオン自身も自分がしたことが信じられないという表情で、目を震わせて口元がガクガクしていた。それじゃあバレちゃうよ。

「ほら~これでわかったでしょ? 先生、シオンは凄いんだって。これでも信じられないなら、現場にいたキースとルゥルーにも証言とってもいいよ?」

「い、いえ……グレン、大丈夫です。この的を在学中に壊せた人物は、過去にほとんどいませんからね。認めるしかないでしょう、シオンの実力を」

 さすがのグランナ先生も黒竜を倒した証拠をさすがに認めたようだ。よかったぁ。

「ほ、ほんとですかっ! 先生っ!」

「ええ。よくやりました。7つ星ランクの魔物を倒したなんて、学園始まって以来でしょう。卒業試験は合格です」

「あっ、あっ……。やったぁ……。やりましたっ……やりましたよグレンさんっ!!!!」

 涙ぐみながら、僕の袖を掴んで喜びを表現するシオン。よく泣く子だ。

「よかったね、シオン。これで僕もカフェで声をかけた甲斐があったもんだよ」

「はいっ……はいっ!!」


 こうして、シオンは卒業試験に合格した。



『ピシッ・・・』



 どこかで不穏な音が聞こえた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 あとは、シオンはこの学園ですることは卒業式を待つだけになった。
 アリアは用事があるようなので、一旦別れて、リタとシオンと僕の3人で久々の学食へ向かうことになった。

 久々に来た学食。やはり広い。僕は『ハンバーグランチセット』を頼む。リタは『おろしチキンランチセット』。シオンは『てりやきバイパーランチセット』だ。

 ちなみにシオンが頼んだのは、蛇の肉がメインとなっている料理だ。シオンはなかなかゲテモノが好きなようだ。

 食事をしていると、ふと気づいたことがあったので、聞いてみる。

「そういえばシオン。今6年生ってことは、僕たちと被ってるよね?」

 僕が学園を卒業したのは4年前。シオンは今年卒業。となれば、2年は被っているのだ。

「そうですね。私は1年生として学園に来た時は、グレンさんは5年生ってことだと思います。でも上級生のことは本当に噂くらいしか知らなかったので、名前も全然知りませんでした……」

「まあそうだよね。学園の生徒って凄い数だし、基本的には同学年としか交流がないからね。上級生と交流があるのは、学園内対抗の模擬戦大会くらいだもんね」

「そういえば、グレンさんたちって学園の頃から凄そうな話でしたけど、模擬戦大会で目立っていてもおかしくないのでは?」

 シオンは疑問に思う。

「あ~僕たち一度も模擬戦大会とか出なかったんだよね。そもそもこの生徒数で全員が時間を合わせるって難しいからね。基本的にダンジョンばっか潜ってて、あとは魔導具の研究したりだったなぁ」

 パーティーメンバーは正直周囲とはレベルが隔絶していた。なので、学園内で戦うことは興味がなく、強い魔物ばかりに挑んでいた。僕はそのお陰で何度死にそうな目に遭ったかわからない。

「そうなんですよ~~。特にキースさんが、もうダンジョンダンジョンってうるさかったから大変でしたよぉ」

「そういうことでしたか。それなら納得です。それと今まで全然聞いて来なかったんですけど、グレンさんのパーティー名はなんていうのでしょうか?」

 ああ、そういえば言っていなかったけ? あの打ち上げでも誰も説明しなかったようだ。

「うちは陽気な墓ライヴリー・グレイブって言うんだ」


『ガチャン……』


 突然ナイフとフォークをテーブルの上に落としたシオン。ちょっと蛇肉にかかっているソースが飛び散っている。汚れちゃうよ?


「えっ、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ!?」

 急に大声を出したので、周囲の生徒たちが一斉に僕たちの方を見てくる。

「陽気な墓っていえば、超有名パーティーじゃないですか!! パーティー名だけはとっても知っています! 学園の異端者であり伝説って有名ですよ!!! しかも今じゃ王都でも知らない人はいないくらいのパーティーじゃないですか!!!」

 言葉遣いが丁寧なシオンだが、たまに落ち着きがなくなる。とても早口だ。

「えっ? 陽気な墓?」
「あの学園の旧校舎を破壊した伝説の……?」
「いやいや、違うぞ! 破壊したのはあのめちゃ恐いマリアナ先生の研究室だって聞いたぞ!」

 色々と声が聞こえてきた。主によくない噂だ。

「学園の異端者は知らないけどさ。僕たちだと思いたくないけど……」

 異端者ってなんだよ。確かによく怒られたりもしたけどさぁ。
 ライムが作ってくれた『瞬間加熱レンジ』で学食の少し冷えた魚のホイル焼きを温めようとしたら、アルミホイルに爆発着火しちゃって学食が大火事になりかけた時とか……。


「今まで気づかなくて本当に申し訳ありませんっ! こんな凄い方々だったとは……」

 ペコペコと頭を下げるシオン。

「ふふーんっ。そうでしょ、そうでしょ~。リーダぁは凄いんですっ!!」

 リタが凄い得意げにドヤ顔をしている。

「わ、私っ……決めましたっ! 私が卒業したら、グレンさんのパーティーに入れさせてくださいっ!!!!」

 おお、びっくりした。ふむ。確かにうちには弓の職業がいない。しかも魔級の魔法を使えるなら、かなり戦力になるかもしれない。

「そうきましたか~。でもシオンちゃん。うちに入るには、全員に認められないといけませんよ~っ」

 そんなルールあったっけ? リタとかいつの間にかうちにいたじゃん。

「そ、そうなんですか? それはどうすればいいのでしょうか?」

「特に試験とかはないけど、仲間たち全員にどういう形でも認めさせれば問題なしっ!」

 そうなんだ。知らなかった……。

「それなら僕は問題ないよ。シオンの実力はさっき見たしね。申し分ない」

「グ、グレンさんっ! ありがとうございます!!!」

「リタの言う通り、あとは、仲間たちにそれぞれ会っていって、実力を見せればいいよ」

 ライムとは3ヶ月くらいいないとか言ってたけど……。まあ正式なパーティーじゃなくても一緒に同行していれば、いつか出会う時もくるだろう。

「そうですねっ。とりあえず、卒業後は私達に同行してもらって、そこで依頼を一緒にしていきましょう。私はシオンちゃん結構好きですから、性格的には問題ありませんっ」

 リタも全然OKらしい。もしかして後輩がほしいとかある?リタもまだ19歳だし、1歳年下のシオンがきたら、お姉さんぽいことできるもんね。

「わかりましたっ!!! そしたらとりあえずは卒業したら、王都のクランに顔だしますね!」



「おいおいおいおい……腰抜けが呑気に学食で蛇肉食ってるぜぇ!!!」

 シオンの元パーティーのランドだった。またきたの? 追放したくせにしつこいね。

「ラ、ランドさん……」

「もう卒業試験の素材は渡したのか? あぁ、お前じゃ無理かぁ~~!!! 俺たちのパーティーの素材を超えられるわけないもんなぁ!!! ア~ハッハッハ!!!」

 面倒事を避けるには、静かにしておくことが一番だ。

「このお前らぁっ!!!! さっきからゴタゴタ言いやがってぇ!!!!」

 あ、今はリタを止めるアリアがいないんだった。もう止められない……。

「シオンはもう試験合格してるんだよぉっ!! お前らが出る幕はねぇ!!! 消えとけっ!!!!」

 なんかすっごい口が悪い。いつもの献身的で可愛いリタ……どこ?
 てか今思ったけど、リタと1年違いだよね? 顔見知りではないのかな。

「なんだなんだ嬢ちゃん。 シオンのお友達かな? クフフっ。シオンが合格したって? 嘘言っちゃいけねぇよ。 だって今コイツはソロなんだからなぁ。俺たちのパーティー以上の素材を持ってこないと合格しないはずだ」

「だから合格したって言ってんだろ? このブサイク岩男っ!!」

「こっ、このっ。言わせておけばこのガキっ!!」

 年齢的にはあなた達がガキなんですけど、1年くらいじゃ見た目の差ってわからないよね。


「ガキだって!? いい度胸だな、このゴーヤ野郎っ!!! シオン!!!」

「ひゃいっ!?!?」

 いきなりリタに呼ばれたシオン。

「悔しくないのか!? うちに入るなら、こんなやつに舐められるな!!! 模擬戦で決着つけるぞ!!!」

 ……え?

「も、模擬戦ですかっ!?」

「おいおい、お前ら、模擬戦だってよ? ハッハッハッ。笑っちまうよな?」

「ええ、ランド。シオンが勝てるはずもないでしょう?」

「学園のお遊戯冒険者如きに負けるはずないでしょ? ねぁリーダぁ??」

 僕に振るなぁぁぁぁ。


「あ、はい」

 ぐわあああぁぁぁぁ!!!!! 否定しろよ僕! 流れ的に否定できないけどさぁ。


「ほう、いいじゃねえか。こっちのパーティーは5人だ。そっちは3人でいいのか?」

「ええ、もちろん!!」

 ちょっと待って、僕もやるの? 

「わかりました! リタさん! この模擬戦で、リタさんを認めさせますっ!!」

「シオンちゃん! いい心構えねっ!!」


 このあと、1時間後に模擬戦をする闘技場で、僕らは模擬戦をすることになった……。



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