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7話 シャワー室にて

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 マークさんとの会話を終え、僕は一人でギルド裏の解体場まで来た。
 久々だなぁ~。

 この魔物のなんともいえない腐卵臭。
 冒険者学園の1年の時に魔物解体の実習があった時はホント嫌だったなあ。

 解体場ではほとんどの作業員がマスクをして魔物を解体している中、一人だけはいつもマスクをしていない。
 解体場の統括責任者であるガルダさんだ。

 30半ばの彼の見た目は、鋭い鷹のような眼光に、ものすごい長いヒゲが鳥の翼のように鼻から顎を超えて斜めに生えている。
 筋肉はムキムキ。マークさんくらい大柄、、、かと思いきや、体の線は細い。
 正直、その見た目でよく巨大な魔物も解体できるなと思うくらいだ。

「あれっ、グレンじゃねーか!! 久しぶりだな~ 全然顔見せねーんだからよぉ!」

 その魔物を解体し、少なからず返り血を浴びている汚い手で、バシバシと僕の肩を叩く。
 どちらかと言えば僕は潔癖症だ。だからクランのトイレにもこだわっているし。

「あはは。久しぶりですね、ガルダさん。ヒゲ伸びました?」

「元々こんなだよっ! 適当なこと言いやがって、変わらねえな!!」

 僕の本質を少しだけ見抜いているガルダさん。目つきは怖いが、気さくで話しやすいのが良いところだ。

「今日は、昨日討伐してきた魔物の残りを解体してほしくて」

「任せとけ~い! 早く出しなっ!!」

 僕は早速時空収納袋から、取り出す。まずはサイクロプス。
 黒竜を倒した後に、一応ちゃんとサイクロプスも回収しておいた。

『ドスンッ』

 サイクロプスは15m級だったので結構デカい。キースが首を刈り取ったが、ほかは足を少し傷つけたくらいで、そのまま袋に吸わせた。この時空収納は、大きさ問わずに何でも吸ってくれる。

「おいおいおいおい!!! でけーなぁ!! 大物じゃねえか!」

「デカいよね。腕が鳴るでしょ。全然解体しないで持ってきたからさ、お願いします」

 僕はペコリと頭を下げる。

「じゃあ、次ね」

「まだあんのかよ!」

 サイクロプスは序章だ。

『ドスンッ』『ドスンッ』『ドスンッ』

 解体場は王都で一つしかない場所だ。だからあらゆるものが運ばれてくる。
 その分、めちゃめちゃ広い敷地がギルド裏に広がっている。

 その半分ほどを埋め尽くすモノを僕は出した。

「こ、こりゃ、グレン・・・なんだ?」

「黒竜さんです」

 もう一度ペコリと頭を下げる。

「おいおいおいおいおい!! お前マジかよ!!! とんでもねーなぁ!!! 俺ゃあ、この20年でいろんな大物も解体してきたけど、こんなの人生で一度見たかどうかくらいの大物だぞ!!!」

 ただ、黒竜のほとんどはシオンの弓でバラバラに破壊されていた。落ちてきた鱗をできるだけ回収し、この場に出したのは、デカいものだけだ。
 形を保って落ちてきたのは頭部、そして四本の足の指など。あとは、キースが最初にぶった切ったままの尾だ。
 足の指と言っても人間大サイズなので、それが数本あるだけで、十分な大きさだ。

 頭部と尾で解体場の広場の半分を埋め尽くした。

「一応先に言っておくけど、キースの通常斬撃でも傷がつかなかったから、解体大変かもしれない……」

「ははっ、確かにな。でも舐めるなよ。こっちには色々あるんでな。戦いの短い時間じゃできないこともこの解体場ではできるってことよ」

「えっ、そんなのあるんだ? 例えば?」

 キースの通常斬撃ですら傷つかなかった黒竜の鱗。普通に考えれば、解体場の人に傷つけられるわけがない。

「薬剤と魔法だよ。皮膚を溶かすような薬剤だってあるし、相手を弱体化させる魔法だってある。まぁ鱗も綺麗に分離させたいからな、適当にぶっかけるだけじゃだめだけどよ。時間がかかるかもしれないが、長年の腕、見せてやらぁ」

 頼りになる~~~この鱗色々使えそうだし。良い感じの魔導具とかにも出来ちゃうかな。

「あっ、そうだ。できれば、黒竜の角だけ、片方で良いから早めにもらえないかな? 鱗に覆われてない部分だから多分大丈夫だと思うけど」

「わかった、任せとけ。 あの角なら明日には渡せるはずだ。だから明日また適当な時間に来い」

「ガルダさんありがと! じゃあまた明日ね!」

 そう言って僕は解体場を後にする。
 ガルダさんに肩を触られたから、なんか臭い匂いがする。クランに戻ったらシャワー浴びよう。
 せっかくテントの中に設置してあるシャワーも浴びたのになあ。

 少し歩いて、僕はクランに到着する。

『バタンッ』

 クランに戻ると、ライグレのクランに所属している『疾風の爪痕ウィンディ・クロウ』のリーダーであるアルトが声をかけてきた。

「グレン~!! 聞いたぞ~~ 黒竜をヤッたんだってな! 声かけろよ~」

 きらびやかな茶髪をなびかせ、その騎士は快活に話しかけてきた。

「やあアルト。いや、最初はサイクロプスって依頼だったからさ、声をかけるまでじゃないかと思って……」

 そうだよ、最初から黒竜なんてわかってたら色んな人に声かけたよ。
 あんなのいるなんて、まじで死ぬかと思ったよ。

「まあ、それならしょうがないよな! リタちゃんから今日の夜は打ち上げやるって聞いたぞ? 黒竜の報酬たんまりだろ? パーッとやろうぜ!」

「リタ達が良いって言うなら、僕は問題ないよ」

「おっしゃああ。お前ら、今日は宴だ!!!」

「「「うお~~~~~~!!!!」」」

 『疾風の爪痕ウィンディ・クロウ』のメンバー達も声を上げる。このキザっぽい騎士風のアルトは、人望が結構厚い。仲間には優しいし、こういう打ち上げも大好き。陽キャ中の陽キャってやつだ。
 なぜ、トイレ籠もりばかりで陰キャ筆頭の僕のクランに入ってくれたのか今でも謎だ。

 アルトと言葉を交わして、そのまま二階の客室へ向かう。シオンの様子を見にだ。
 まだ数十分しか経過していないから、多分起きてはいないと思うけど。

『コンコン……ガチャ』

 僕はノックをしてから、扉を開けた。
 すると扉を開けた先のベッドに、窓の隙間から差し込む陽に照らされた白くて綺麗な顔。
 一日前まで元気だったはずなのに、しかし今は永遠に目を開かないシオンがいた……

『す~す~……』

 寝息を立てていた。死んでなかったようだ。良かった。
 僕の見込みでは目を覚ますのは2日後だ。

 時空収納袋から、鱗を一枚取り出す。
 それをシオンの眠るベッドの横に設置してあるライトが置かれている小机に置いておく。
 これを見たら、目覚めた時に、嘘じゃなかったって思う……はず。

 確か時期的に見ても、あと2週間くらいは卒業試験の提出期限に時間の余裕はあるはず。
 目覚めが遅くても提出に間に合うだろう。
 
「じゃあ、シオン。ごゆっくり」

 僕はシオンが眠る部屋から出る。
 まずはシャワーを浴びようと執務室横のトイレのさらに横に設置してあるシャワールームに向かう。

 このクランの建物はかなり面倒くさい設計にした。
 クランと言えども、ライグレのメンバー専用の建物なので、他のパーティーが使うように考えられてはいない。なので、アルト達が使えるのは基本的に1階の大広間やトイレとシャワー室くらいだ。

 建物は3階建てだが、まず横に広い。それぞれのメンバーの部屋を作っており、それだけで10部屋ほどある。
 さらに僕の為に各階にトイレとシャワー室を設置。さらに客室や魔導具部屋もある。ともかく部屋が多いってことだ。

 そして目玉。屋上には大浴場がある。まぁ好きな人が入るって感じだから混浴になっている。
 ただ、男性陣は遠慮してあまり使わない。と言ってもうちのパーティーには僕含めて3人しか男性がいない。剣士のキースとタンクのウェンデルだ。

 僕は温泉とかお風呂大好きだし、関係なく入るけどね。大浴場も僕の指示で作らせたんだから、自分が使わないとね。
 でも今はガルダさんに触られた臭いを消すのに、シャワーで十分だ。だから3階のシャワー室に向かっている。

『ギィィィ……』

 僕はノックをせずにドアノブを回して扉を手前に引いた。

「えっ……!?」

 少し白い湯気がシャワー室の方から漏れていた。
 その手前には、白くて細い、でも出るところは出ている濃いピンク色の腰まで長いロングヘアの女性が立っていた。
 体を拭いている途中だったのか、僕を見た途端、タオルが地面に落ちた。

 僕は一瞬固まってしまうが、すぐに意識を取り戻すと扉を閉めようと手を動かす。

 しかし、遅かった。

「グ~~~レンっ♪♪」
 
 いつもなら、回避できる。なんて言ったって僕は魔素から得た経験値を全部敏捷性に振ってるんだから。
 でも、僕の体はそれを拒否した。

 彼女は僕をホールドすると、惜しげもなくその豊満な胸を僕の胸に押し付けてくる。
 女性のタックルを回避できる男子なんていないだろ?

「ちょっ、ライムっ!! これっ誰かに見られちゃうっ!!」 

「なぁにぃ? そんなこと気にしてるの~? グレンったら、オマセさん♡」

 自分で拒否しなかったとは言え、このままでは大変なので、早く解放してほしいことを宣言する。

「僕っ、今臭いからっ、さっき解体場に行ってて、臭いからっ!!」

「気にしないよぉ。どうしても臭いなら、もう一回シャワー浴びればいいしぃ? なんなら一緒に浴びる?」

 ニヤッとした表情をしながら、離してくれないライム。
 臭いと言っても離してくれないライム。敏捷性以外は最低の僕は女性の力にも対抗できない。

「頼むっ!! このままじゃ……とにかくお願い! 今度なんか一つお願い聞くからっ!!」

「えっ!? ほんと~!? 言質取ったからね! 撤回は許さないよ~?」

 ここから離脱するのに、仕方ないとは言え、お願いを聞くって言ってしまった。
 こんな時は碌なことはない。やってしまった。

「あ、あぁ。ほんとだ。だから離してくれないかな?」

 心臓バクバクで、もう持たないから、早く解放してほしい。
 こんなの姉妹に見られでもしたら、とんでもないことになる……

「いくつになってもグレンはウブなんだから~♡」

 パッと腰に回していた腕を僕から離す。僕はその瞬間にすぐ扉を閉めた。

「じゃ、じゃあまたねっ!」

 扉の前でズルっとそのまましゃがみ込み、深呼吸して、心を落ち着かせる。

 ピンク痴女術師、、ではなく、シャワー室で遭遇した彼女は、僕の幼馴染で錬金術師のライム・リベルタ。
 実は一番仲間の中でお世話になっているのがライムだ。
 僕の魔導具の鑑定は全てライムにやってもらっているし、中にもの凄い広い空間が広がっている亜空間テントを作ったのも彼女だ。このクランの建物の設計にも携わっている。

 研究者気質なので、ちょっと意味のわからないことをよく言うが、昔から僕にはよく懐いてくれていた。
 そのおかげで僕のお願いも結構聞いてくれる。特に魔導具に関して。

「はぁ……」

 さっきは失敗した。シャワー室に誰かが入っている時は、大抵は内側に鍵をかける。
 彼女は自分の研究に関しては細かいが、こういうところは結構ズボラだ。

「せめてノックくらいはすべきだったなぁ。シオンの部屋はノックしたのに……」

 まあ、終わったことは仕方がない。2階のシャワー室を使うか。

 その後、無事2階のシャワー室を使い、スッキリして服も着替えた。
 臭いがついた服は、ライムが作ってくれた水魔法式の自立回転型洗濯機に投入しておいた。

 僕はスッキリした服で空いている客室に向かい、打ち上げの時間までベッドで眠ることにした。


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