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本編

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 土曜授業の終了と同時に手早く荷物をまとめて走り出す。

 この高校が学外のバイトを禁じているせいで、小遣いを稼ぎたい生徒は救済措置である学内でのバイトに精を出すしかない。一円でも多く稼ぎたい俺にとっては授業終了後こそが本番だと断言できる。将来的に最も稼げそうとかいう基準で学校選びをしたつもりだが、失敗だったのかもしれない。

 別に買いたい物がある訳じゃない。ただ着々と増えていく預金の数字を眺めるのが俺にとってはこの上ない幸せなのだ。

 そして今日のバイト、依頼は「自然科学部」からだった。活動内容はサッパリ分からないが、部活からの依頼は珍しくもない。物を運ぶのにちょっと人手が欲しいとか部室の清掃を頼まれたりとか。まぁ今回もそんな所だろうと思う。

 手早く腹を満たし旧校舎に向かう。ごく一部の部活動が使う位で、用がなければ一般生徒には縁のない旧校舎が本日の待ち合わせ場所だった。やはりひと気はなく静まり返っている。長い渡り廊下を挟んだだけだというのに、隔離でもされてるように感じた。

「――こんにちは、バイトの杵築です。失礼しまーす」

 部室の前まで到着すると【中で待ってて】と大きくメモが貼られていたので、数度ノックして横開きの入り口を中の様子窺いつつスライドさせる。

「誰も居ない? ですよね。やっぱ俺宛だったのか……」

 中はガランとしていた。以前は社会科準備室として使われてたらしい室内には本棚の他には会議机と椅子くらいしかない。手前の方に腰掛けながら周りを見渡してみるが、本棚には小難しい題の本か学会誌みたいなのばかり並んでいる。

 向こうの都合で多少待たされるのはまぁ良いとしてとにかく暇だ。自然科学というのがどういう科学なのかは知らないけれど、若干薬品臭が立ち込めているのが気になった。換気しようにも窓がないので諦める他ないのだが。居心地の悪さに最初こそ姿勢正しく待っていたが、ものの数分で机に突っ伏した。暇すぎて眠い――――

 そして、次に俺が目を覚ました時。

 自分を取り巻く状態は一変していた。無意識に寝返りをうとうとして自分の身体の不自由さに気づきバッと目を開けば、手術するような格好の男達に囲まれていたのだ。俺自身は両腕を上げた全裸の状態でベッドに固定され、不織布みたいなシーツだけ掛けられている。悪い夢だと咄嗟に思った。

「驚かせて申し訳ない。我々は自然科学部だ」
「…………は?」
「君に依頼した、自然科学部だ。落ち着いて話を聞いてもらえるよう多少強引な手を取らせてもらった。すまない」
「多少? これが?」

 冷静に冷静にと言葉を選ぶ。相手が異常なのは疑いようもないし、こっちがむやみに暴れて逆上されても困る。本気で怒るとしたら拘束を解かれ自分の安全が確保できてからだろう。

 とはいえ言葉は尖るし眉間に皺が寄るのまでは止められない。

 俺の言葉に代表して話しかけていた男は怯んだ様子で、周りの男達から「頑張れ! 部長!」なんて励まされている。見える範囲を見渡してみれば、十人程の帽子マスク手袋ガウン着用の感染対策ばっちりみたいな怪しい集団に取り囲まれていた。

「で、では聞くが! 我々が悪魔崇拝をしていて、儀式に必要だから君の体液をくださいと普通に頼んだとしたら、キズキ君は快く引き受けてくれただろうか!」
「あ、無理。普通に無理ですね。秒で帰ります」

 テンパって叫ぶように主張する部長に、思わず本音が出てしまう。めっちゃ鳥肌たった。怒るかと思った部長は膝から崩れ落ちて蹲っているようだった。何故か深手を負ったらしい。

 話を続けるのが困難そうな部長に代わり、進み出てきた副部長とやらが少しだけまともな説明を始めた。代々自然科学部は裏の活動として黒魔術やら悪魔やらを地道に研究していたのだが……近頃、長年のライバル校がついに悪魔召還に成功してしまったという。つか、ライバルってなんだよ。バトルものなのか、その分野。

「正直焦ってます。召還するのは無理でも、我々の代で試すだけでもしたい。しかし儀式には相応の供物が必要で……」
「俺は供物にされようとしてるんですか?」
「そう、許されるなら君の体液を丸ごと全部採取したい」
「うわぁぁ……」

 隠すことなくドン引きすれば副部長はよろめいたものの、部長とは違って持ちこたえたようだ。平部員がそっと背中を支えてやっている。仲良しだな、この部活。とはいえ冷静に考えれば、こいつらが俺の同意なんてどちらでも良い位に考えてる事は分かる。そうでもなきゃ拘束はともかく、交渉前から全裸に剥いておく必要ないからな。

「……ちなみに承諾した場合の報酬とか考えてます?」

 無理矢理されるぐらいなら見返り貰った方が良い。大して期待はしてなかったが、副部長が尤もらしく頷いて「OBからの寄付がある」と耳打ちしてきた金額は俺の二ヶ月分の収入に相当していた。一日の稼ぎとしては破格の値段である。

 迷う必要もなかった。だってお金欲しい。いっぱい欲しい。

「体液くらいやるよ。好きなだけ持っていけ」

  俺の即答に室内全員から拍手が上がった。

 とはいえ、俺にも越えられない一線はある。痛いことや刻まれるのは勘弁だし全裸な以上ケツの心配だって杞憂とは言えないだろう。準備で慌ただしくなった室内でその辺りを副部長に入念に確認すれば、あっさり心配はいらないと言われた。

 なんでも拉致監禁までして俺の体液を採取しようとしているのは俺が清らかな心と身体の持ち主だからなんだそうだ。なんっだそれ。男でも処女がありなら大抵の男は処女だろうし、なによりウチの学校は共学だ。何で俺が選ばれなきゃならない。

「そりゃ我々だって処女童貞ですが、素材にはとことん拘りたいんです。出来得る最上級の素材で悪魔召還に臨みたい」

 副部長は真面目に語っているが、部長は遠くから「この学校にキズキ君より綺麗な女子なんて居ない!」とか叫んでいる。まぁ高校生ともなれば可愛い女子は非処女が多いらしいし、可愛いのに処女なら貞淑で警戒心も強そうだ。

 体液売って金にしようとする俺に清らかな心があるかは別として、処女性を求めるならケツは安泰だろう。

「――では始める。作業台、指定位置に」
「うわっ! なにこれ動く……!」
「よし開脚。キズキ君身体に不具合は?」
「まずこの体勢がありえないよね」

 手術台みたいだと思っていたのに、妙にキリッとした部長の号令で勝手に頭と足が上がりだした。しかも足が勝手に開いてご開帳状態でストップ。体勢としては比較的楽だが普通にやめて欲しい。

「痛みがないようなら我慢してくれ。ではこれから……い、い、陰茎に器具を装着させてもらおうと思う」
「身体に触れるのはシリコンのキャップだけです」

 副部長だけがそっと近寄り、身体を覆った布を覗き込むようにして陰茎に触れてきた。シリコン製の帽子から管が伸びたようなものを先っぽにカポッと被せられ、少しの窮屈さを感じる。事務的な手付きだったからか恥ずかしくはなかったものの、副部長の手が緊張でか微かに震えていたのが若干気になった。あと部長のどもりもな。

「吸引開始。カウパー班は貯留瓶から目を離すな」
「……っ、……カウパー班言うな」

 まだ何も出てないけど吸われている。最初ちょっとビクッとしたけど吸引自体はふんわり程度。妙な呼称の方が問題だ。そのカウパー班は名前までは知らないが見かけた事はある気がするので、たぶん同じ二年の生徒だ。瞬きしないくらい瓶だけを真剣に観察してるとこ悪いがまだ当分出ねーよ。ちなみに部長や副部長は三年らしい。

「汗班は頭側で待機。俺は……部長だからキズキ君のシーツを撤去する、部長だからな」

 なんで二回言ったの、この人。俺に被せられた不織布シーツを握る部長の手は手袋の中でびっしょり濡れている。汗班仕事してやって!と言いたい所だが、確かに俺より遥かにごつい指で手袋の中に張り付くもじゃ毛をみれば部長の汗では悪魔も怒りだすかもしれないと思う。

「――やぁっ!」
「おおお……おおお」
「はぁっ尊い」
「清らかさが目に痛い」

 勢いよくシーツが剥がされると思わずギュッと目を瞑る……が俺は一言も発していない。変な声は部長で、後は平部員たちのものだ。ここは部長以外も皆おかしい。

「つ、続いて射精を促す作業に入る。潤滑剤の準備は出来ているな?」
「……なにそれ。必要?」
「我々の表の研究成果、自然成分だけにこだわったコラーゲンたっぷりミネラルローションだ。塗れば明日の肌のコンディションまでお約束しよう」

 よほど自信があるのか部長がやたら饒舌に喋る横で、平部員が計量カップを筆でかき回している。何を塗られるのか確認したくて目を開けてしまったけれど……失敗した。俺の周りに配置された五、六人が人の全裸を血走った眼でガン見している。これはさすがに恥ずかしい。

「っん! ……あ、いや今のは冷たくてね、つい」
「……………」

 おまけに筆からポタッとローション垂らされて出したくもない声まで出てしまった。奴らが無言になるから余計気まずい。じわっと滲んだ汗に気づいて汗班が慌ててガーゼで額を拭う。

「……潤滑剤追加。ありったけを全身に!」
「部長!汗が採取できなくなっちゃいます!」
「なら首から下、陰部までにしておこう」

 カップの半分位がドパァーっとかけられると今度は別に声出した訳でもないのに部員たちの息がはぁはぁ煩くなり、部長が声をかけるのも待たず左右からいくつもの手が伸びてきた。一斉にマッサージされているようだ。

「ぬとぬとキズキ君えろい」
「肌のキメがエグい」

 ぼそっと言ったの誰だよ、なんてしばらくは冷静に眺めていられたが脇周辺を滑る手に身体が反応してしまう。昔からその辺りに押されるとうっかり相手を殴ってしまいたくなるようなポイントがあるのだ。

「……っ、脇のやつ、ほんとやめて」
「ん? 脇か……失礼。この辺り?」
「――っあ、だからっやめろって」
「しかし、正確に把握したい」

 どうも余計な部長の興味を引いてしまったらしい。そこを探って肋の溝を次々と圧迫してくる。近い時も見当違いな時もあるが、いつピンポイントで押されるか分からなくて気が気じゃない。

「部長っ! 陰茎、僅かに反応してます!」

 副部長が余計な報告を入れる。姿が見えないと思ったら足元にしゃがみこんで陰茎だけを注視していたようだ。神経質そうでこの中じゃ一番まともかと思っていたがこいつもしっかり仲間だ。バカだ。バカばっかだ。

「ううーっ……! っく、」

 歯を食い縛っていたが肩が大袈裟に跳ねた。くそ、まともに抉られた。これ以上やったら本気で怒ると部長を精一杯睨みつけるが……しばしの沈黙の後、雄々しい奇声を発して突如室内を走りだした。

「え、怖い。悪魔憑きってあんな感じになる?」
「萌えが過ぎるとああなるもんです。皆、続きを」

 部長の不在が影響してるかは定かでないが、副部長のかけ声で平部員が恐る恐るぷにっと押してきたのはこれまで誰も触れなかった乳首だった。チャイムでも押すような手付きだ。しかしそこから一向に動きも離れもしない。

「ねぇ、なにしてんの?」
「いえとても……とても感慨深くて。俺、キズキ君の乳首ポチるの夢でした」
「あ、そう。良かったね」

 あんま触れちゃいけない系のやつ発見。しかしそっと目を逸らした先でもぷるぷる震える何本もの指が反対側の乳首にも向かっている。なんなの、まじ帰りたい。先着順なのかそのうちの一本が触れれば残りは去っていった事だけが救いだ。

 そいつは驚くほど慎重だった。乳首の形を崩さない本当に触れるだけの力で、小さな突起相手にすりっすりっと繊細なタッチで撫で上げる。匠の手つきだ。微妙過ぎて目を閉じれば気づかなかったかもしれないが、俺はむしろその指使いに称賛を込めた眼差しを向けてしまったし、自分から積極的に神経を集中させてみた。深い意味はなく完全に興味本位だ。

 感触ないな……あ、今のはちょっと分かったかも。

 実験とか調査みたいな認識だったのに、じわじわと己の乳首が勃ち上がっていく様をつぶさに見守ってしまっていた。次いでポチってるだけの方にも意識を向ければ、見えないけれど何となく勃ってる感じがするではないか。

「ね、そっちも……」

 ポチってる指先から持ち主を辿って顔に視線を向けると、微動だにしないまま真顔で静かに涙を流していた。見なければ良かったと思うがもう遅い。

「俺の……俺の指にキズキ君の可愛い乳首が健気にキスして来てるんです。俺っ、俺もう一生このまま……」

 恍惚とした声でいかれた発言をする平部員だが最後まで言うことは出来なかった。飛ぶようにやって来た部長が横からマジパンチを食らわしたからだ。

 しかし平部員も鋼の精神力で何とか持ちこたえ、負けじと部長を睨み付ける。そこには、何がなんでも指は離さないという漢の強い意思を感じた。

「っ、馬鹿もの! 国の財産を我が物にしようとは!」
「部長! 俺はどんな暴力にも屈しませんよ! 絶対にここを離れたりしない!」
「貴様、私欲に走りよって。許さん」
「ちょっとぉぉ二人とも落ち着いてくださいぃぃ」

 すぐ傍でドタバタと茶番が繰り広げられているが、俺にとってもこれは死活問題だった。

「ちょ……んっ、んんっ、はっ」

 指先はぴたりと乳首に固定したまま揉み合っているせいで、痛いくらい引っ張られたり押し込まれたりと思いもよらない動きに完全に引きずられている。乱暴なマッサージを受けているような状態に、不本意ながら身体が勝手に快感めいたものを拾い始めてしまったのだ。

 そんな状態で、反対側はといえば匠が我関せずといった調子で自分の職務を全うしようと精を出している。極みを目指しているのだと思う。乳首をより一層勃ち上げようとそっと押し倒してみたり、円を描くように転がしてみたり、左右に細かく振動させてみたりとより良い刺激を熱心に探求していた。

 正直めっちゃ気持ちいい。喘ぐ事だけは自分で許せないので、必死に押し殺そうとするが全然無理だった。刺激から逃げようと懸命に身体が動くのに拘束がそれを阻む。額から首もとから次々と噴き出す汗を必死に拭う誰かが居る。

「「すみませんでした!!」」

 ひと息つけたのは乳首に貼り付く平部員を何とか引き剥がし、取り押さえた後だった。部屋の隅から悲壮な叫び声が聞こえる。やっと乳首が指から解放されたというのに、散々乱暴されたせいでぷっくりと腫れた乳首は触れなくてもじんじん疼いている。

 痛ましげな視線が集まり空気は通夜のように重いが、騒動には参加せず下半身だけを熱心に観察していたらしい副部長のふざけた報告が空気を変えた。

「キズキ君の陰茎は完全に勃起。カウパーも順調に分泌を続けています。我々はもう止まるべきではない」
「しかし、副部長……」
「っ、辛いのはキズキ君です! このままでは……あまりに生殺しです!」

 いやまぁそうなんだけれども。異常な空気感にそうと認めたくない俺が居る。このまま解放してくれたら自分で抜くけど、それだと報酬が減りそうで自分から言い出せないのもある。

「よし。乳首班は二人一組で片方ずつを担当し、お互いを監視しろ。取り扱いには厳重に注意すること」
「はっ!」
「これより作戦は二次段階へと移行する。報告は密に! これ以上の誰の暴走も許すな!」
「ははっ!」

 部長の掛け声とともに部員が動き出す。息を整えながら見守っていると、既に蹂躙され尽くした乳首に左右から二人ずつ近寄ってきた。その手にはローター。アダルトな動画でしかお目にかかった事がない代物だった。

 普段なら面白そうだとか言えると思うが、今だけは恐怖を感じた。それなんかやばい気がする。こっちは切迫してるというのに股の間からはまたマイペースな副部長の声が。

「キズキ君、射精しそうな時は先にこっちに教えて欲しいんだけどいいかな?」
「え、嫌です。エロマンガじゃないんだから」
「今はカウパー採取用セットだけど、射精の時は別の採取瓶に交換しないといけないんだ。頼むよ」

 逝きます、とか宣言すんの、俺。死ねる。ここは交渉したい所だが怯えさせないようにか満面の笑みでローターを手に近づいてくる乳首担当の奴らが怖過ぎて口を噤んだ。

 それ使いたくないと駄々を捏ねてみたけれど、結果俺の要求が通る事はなかった。直に指で触れれば先程の二の舞になりかねないと困った顔で言われ、なら安心と信頼の匠がまた担当すれば良いというのも独占禁止法に触れるとかですげなく却下されてしまう。

「ううー怖いぃぃ。優しくね、優しくだよ?」
「怯えるキズキ君、可愛いさの暴力だわ」
「可愛すぎて息が苦しい。涙舐めまわしたい」

 さっきからほんのちょっと……ちょっとだけ涙目になってる自覚はあるが、今か今かとスポイト片手に待機する涙班の人達。いやいやいや。流石にね、高校生にもなってそこまでは泣かねーわ。

 ……と思った俺は三十秒後には号泣していた。

 再度ローションを足し、スイッチオンしてすぐだ。ブブブブという低い振動音も恐ろしかったが育ちきった乳首に与えられる、神経に電気でも流してるかのような快感は俺の容量を遥かにオーバーしていた。

「ああああ、いやだっ、とめて」
「わぁ凄いです! 順調ですよ、キズキ君」
「ばか、ほんとばかぁぁ、とめろよばかぁぁ」

 崇めるみたいな振る舞いする癖に、この部屋に居るヤツみんな俺の話を聞こうとしない。頭を振って少しでも刺激を逃がそうとする動きでさえ、涙班にやんわり止められ固定される。本当は憎まれてるんじゃないだろうか。

 必死の罵倒に傍らに立つ部長らは口許を両手で抑える乙女みたいなポーズで頬を染めて静止していたが、ハッと意識を取り戻して何かを言ってきた。無論こっちはそれどころじゃないので聞き取れはしない。

「……はぁ、世にも美しい勃起ちんこだ」
「部長、仕事してください」

 部長が頭に吸引キャップを嵌められた陰茎に手を添え、また何事か言ってた。たぶん頭おかしいやつ。だけどその触れる手は俺が求めてるものだった。

「んんそれ、さわって、こすって」

 乳首はもう要らない。俺は出したいのだ。ローターはものすごいが刺激が強いだけでイケそうにはない。イケないけど出したい。ローターを止めて陰茎を思うがままに擦り倒したいというのが今最大の欲求だ。

「副部長、キズキ君は淫魔の末裔だろうか」
「淫らで恐ろしく可愛いだけの天使です」
「そうか……そうだな。キズキ君、こちらも魂を引き裂かれる思いだが陰茎を刺激すると今にも射精してしまいそうだ。それは出来ない」

 申し訳なさそうに部長は言うが、焦れったさに不自由な足をジタバタさせて陰茎を揺らしながら「擦って擦って」と繰り返す俺に、部長がローターを止めさせた。

「すまないが、カウパーがまだ既定値まで達していないので、射精を制限した状態でなら擦る事は可能だ」

 どうする? と問われ、考えた。無理だ。我慢が無理。射精を制限って根元を縛るとかそういう事だよな……拷問だろ、それ。

「では乳首から順次アアアアアナルの刺激に移行するので陰茎には触れないでおく。許して欲しい」

 アアアアアナルってなんだ? 俺が答えると部長は妙な事を言った。とりあえず陰茎が拘束される事はないらしいとぼんやり安堵した……けど、もっとここで追及しておくべきだったと後悔することになる。

 だってケツに指を入れられた。穴だ、アナルだ。

 御開帳で固定されている俺の穴に遮る物など何もなかった。無防備なアナルがローションでびっしょびっしょに濡らされ、ずっぷりと部長の指が突き立てられる。

「ふぇええ?」

 驚き過ぎて、ドジっ子のような声も出るというものだ。体液さえいただければ良い、心配ないと言われたのだから、そりゃ信じるだろう。例えナニを挿入されないにしても指もアウトだと確認しなかった俺が悪いのか?

 だが乳首のローターは再稼働し、涙眼できつく睨み付けてやっても奴らはうっとりするばかり。しかも乳首の一点集中型から分散型に変更するつもりらしく、部長ばかりでなく複数の部員が思い思いに手を伸ばす。

 迷わずへそに指突っ込んだやつ、揺れる足先を狙ってローションつけた筆で爪の間を撫でるやつ、耳の形を確かめるみたく擽ってくるやつ。特殊性癖のオンパレードなんじゃないか、この部活。

「んっ、んっあ、ぅぁ」
「どこだ? 前立腺前立腺前立腺……」
「キズキ君キズキ君。ほらこれ水分補給して」
「ん、んくっ、あふっ」
「前立腺前立腺前立腺前立腺……うーむ」
「ううーふぁぁあっあっ」

 ストロー差し出されて反射的に口開けたらもう駄目だった。一度開けてしまった口を閉めるのは難しくて、補給した水分も唾液と一緒に垂れ流し状態。妙なお経みたいな幻聴までも聞こえてくる気がする。俺もいよいよ末期らしい。

「いっ? ひああああっ、あ、だめだ、それっ」
「――ここかっ? ここなんだな、キズキ君っ!」

 室温が上がったじっとりした空気の中で、嬉々とした部長の声はやけに響いた。初めに感じたのは尿意だが、ぐっぐっとピンポイントで押されると何かヤバい。陰茎はずっと吸引され続けてるのに、部長に押し出されるみたくドプッと汁が出てるのが分かる。

 何が起こってるか確認しようと股の間に視線を向ければ、衝撃的な絵面が目に飛び込んできた。

 部長の野太い指をぐっぷり飲み込む自分の孔だ。手袋を挟んでるとはいえ、狭い手袋内に押し詰められた部長の汗で濡れ濡れのもじゃ毛は正直ほんと……申し訳ないが本当に生理的に無理なのだ。それが自分の体内を蹂躙している。

 穢されてるようでガチで気持ち悪い……のだが、快感が増した気がするのが不思議だった。被虐性欲なんてものが自分にあったなんて認めたくはないけれど。見なきゃいいのに見てしまう。

「あっあっ、出る。出そう」
「え、待って。もうちょっとだけ我慢して」
「無理無理無理――ぃっあ、あ、」
「ごめん! 本当にあと少しだから!」

 恥を偲んで射精申告したというのに、副部長は結局俺の陰茎をきつく握って塞き止めてくる。罵る事さえ出来ずにギュッと硬く目を瞑ると瞼の奥がチカチカした。腹の奥がめちゃくちゃ熱くなって、瞬間バチッときた。

「っあああああ――あ、あぅ、っは、は」

 びくっびくっ、と四肢が引き攣る。射精とは違う重い衝撃が頂点に達したというのに止まずに後を引く。断続的にキュンキュンと脳を締め付けられてるみたいだった。

 なにこれしゅごい。頭がバカになった。開けてはいけない扉を開いてしまったらしいとぼんやり思う。

 それからはもう拷問だった。カウパーは十分確保できたらしく射精しても良いと陰茎は無事解放されたのだが、一回出した位では採取量が足りないらしい。続けて二度も扱いてイかされた。そして今、新たなピンチが訪れようとしている。

「採取瓶の用意は既に出来ている。何が出たって対応可能だ。安心して出してくれて良いぞ、キズキ君」

 陰茎の裏あたりの危険区域を好き勝手に弄り倒しながら部長が言う。撫でて揉んで押し込んで、獣のような指が激しく出し入れされている。こっちは顔を真っ赤にして必死に耐えているというのに。

「っやだ、っや、だってぇぇぇ」
「そのまま吸引されるんだ、噴き出す様を見られる心配はないんだぞ……我々としては残念だが」
「撒き散らしたとしてご褒美にしかなりませんし」

 部長、副部長に平部員達も頷き、同意を示す。むしろ今か今かと期待に満ちているのを隠しもしてない。待ち構えられているのが嫌で嫌で、俺は漏れそうなのを我慢し続けている。

「……外からもアプローチしてみては?」

 非情な誰かが言った。そして優しく開始される下腹部マッサージ。部長の指と下腹の掌に挟まれ、ついにその時は訪れたのだ。

 濁音の喘ぎとともに何かが飛び出し、吸われていく。

「これはっ! 潮です! 潮でした!」
「……さすがに潮の採取は絶望的だと思っていたのに。ありがとう、キズキ君。本当にありがとう。君に頼んで良かった」

 ああ、誰か。頼むから俺の息の音を止めてくれ。

 何度か潮を噴き、その倍以上も射精をしない絶頂をして、体液と一緒に俺の大事な物までごっそり奪われて、ようやく終わった時には四肢を投げ出し、拘束が解かれようともピクリとも動けなかった。もうそんな気力が残っていない。

「悪魔に魂を食われた気分だ……」

 人形のように部員から拭き清められながら、嗄れてかすっかすの声で言う。あちらこちらから謝罪の声が聞こえるが、別に嫌みとか怨み言って訳ではない。

「悪魔が本当に居るなら、儀式ってやつも成功するんじゃないかって思っただけだ」
「これだけ協力してもらったんだ、何としても成功させてみせる! そうだろ、お前ら!」

 同調する部員らの雄々しい声に笑いが洩れる。

「……怒って……ないんですか?」

 副部長が恐る恐る聞いてくる。

「報酬ちゃんと払ってくれるなら怒る理由はないな、俺だって同意したんだし」
「っ、推しが尊くて眼が潰れそうです」
「あーそれ。推しとかよく分かんないけど本当に俺で良かったの? 処女はともかく清らかとは言えないだろ」

 俺にしてみれば当たり前な質問だったのだが、部員たちは揃って顔を見合わせて不思議そうな顔をする。いや、だって金で身体を売ったようなもんだぞ。半ば無理やりだったとはいえ同意した俺が清らかだとは到底思えない。

「キズキ君がお金に弱いのは有名ですし」
「だよな」
「妹さんの為だっていうのも有名ですし」
「ええっ」

 驚いて飛び起きた俺に、周囲は逆にびっくりしたようだった。なにこの居たたまれない感じ。あれだけされたらこれ以上恥ずかしい事なんてないと思ってたのに。

「いや違うから! ただ家の決まりみたいな」
「キズキ君、あまり大きな声出さない方が……」

 落ち着くように言われ、とりあえず黙るが……なにこれすげー恥ずかしい。有名ってなんだよ。我が家の恥が何故に周知されてるんだ。

 ――恥ずかしながら我が家は貢ぎ体質だった。

 自分にと貰う小遣いを自分の為に使う事が出来ない。親は子供に貢ぎ、子供は自分より下の兄弟に貢ぎ……増えていく他人名義の預金通帳を眺めては自己満足に浸る。美談とかじゃなく、単にそうゆう家なだけなのだ。

「本当に……妹の為とかじゃ……」

 否定を重ねてみても「わかってる」みたいな頷きが返ってくる。もう知らねーわ、勝手に勘違いしてろ。

「儀式はきっと成功しますよ」
「最高の供物はキズキ君の体液だと満場一致で決まったんだ。失敗しても後悔はない」

 晴れやかな部員達に見送られ、心許ない足取りで帰路につく。妙なバイトだったがやりきった感触は悪くない。今日はよく眠れるだろう。

 悪魔が召還出来ました! なんて報告されても苦笑しかできないが、それでも結果はちょっと気になる。部員の何人かは見覚えがあったし、廊下ですれ違った時は声をかけてみても良いかもしれないなんて思う。

 ――ただし、二度と自然科学部からの依頼は受けないと心に誓ったのだった。くそ、尻と乳首がじんじんする。






 後日、部員総出で「召還成功」の報告をうけた俺は自分の学校だけでなく、ライバル校とやらにまで目をつけられたり、供物の味をしめた悪魔に襲撃されたりした……かもしれないが、とりあえず自然科学部が一丸となって守ってくれるらしいので大丈夫なはずだ。

 例え幾らお金積まれたって……

 積まれたって……

 因みに、幾らなのか値段だけでも聞いてみて良いかな。



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