名もなき弱い者たちの英雄

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おまけ(5)

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【ディア視点】



 
 バイコーンの生態は謎に満ちている。数が少ないのもあるし、そこそこ強い癖に警戒心までやたらと強いからだ。純潔を嫌うわりに魔界でも清浄な場所と不浄が入り混じる、その狭間を好むという。

 要はとにかくギリギリの境界を攻めるのが好きなのだろう。

 初めて遭遇した時から気に食わなかった。どんなに威嚇しても懐っこく纏わりついてくる見るからに弱そうな阿呆の姿に戸惑いが透けてはいたが、俺が姿を見せるとノラを守るように敵対心を露わにしてきたのだ。

 いやいやそれは元々俺のモノだ。

 少しばかり脅すと従順さを見せてはきたものの、一度徹底的に潰す必要はあるかもしれない。しかしまぁ――。

「ノラ、出掛けるぞ」

 獣よりも最近の関心はノラのルーツにある。ごちゃ混ぜの雑種が一体どんなもので構成されているのか紐解いてみたい。

 口を尖らせてぶちぶちと渋るノラだが、近頃はどうも淫魔の血が濃くなっている気がする。分不相応の贅沢な魔力を存分に吸わせているのだから種として強化されるのは当たり前だけれど。

 元からあった尻尾に加え、羽を生やし、少し見てくれも良くなっている。栄養がなくパサついていた髪も肌も潤ってきたし、その辺の淫魔と比べても遜色ないんじゃないだろうか。

 それも良いが、少々面白味には欠ける。

 ノラが昔過ごした集落の悪魔たちも、皆デタラメに種が混ざり、全く同じ仲間というものはおそらく存在しない。そのノラを一つの種族に限定し、当て嵌めてしまうのは勿体ないと思うのだ。

 悪魔として弱すぎる故に人間のような姿かたちをしているが、指には心許ない水かきがあり、肩には魚に近い鱗が少々。一方、陰茎の鱗は蛇に近い。表層に出ていない他の種族の特徴もあるはずだ。

 とりあえず水場の生き物と触れ合わせてみようと思っていたのだが、バイコーンに出会ったのも何かの縁だとやつらだけの「とっておき」に連れて行かせたのだが――正解だったらしい。

「ネヴィス蛇」といえば、上位悪魔なら誰でも知っている高級食材である。調子に乗った若い悪魔が度胸試しに食って昏倒するなんて事も多々あるほど、魔力も毒性も高い上に入手困難とくれば、好んで嗜める事自体がステータスになってる部分もあるけれど。

 それが穴を埋め尽くすほど繁殖している場所があるなんて噂には上がっても完全に与太話だと思っていた。まさに、とっておきに相応しい穴場だった。

 尤もノラにとっては、その辺のきのこの方が魅力的みたいだけれど。





 比べてみればネヴィス蛇のとノラの鱗は本当によく似ていた。同種とみてほぼ間違いないだろう。先祖がレア物とはまたノラはやっぱり面白い。

「ディアぁぁ……蛇やだよぉぉ」
「後できのこ山ほど食わせてやるから我慢しろ」

 聞いているのかいないのか、蛇に怯えて泣くノラにはプライドの欠片もなかった。一応、不老不死なんだが恐怖に耐性が全くつかないのは何とかならないもんだろうか。

 気になって鱗の生えている陰茎を味わってみるけれど、緩く勃ち上がった先から涙のように零す先走りからはネヴィス蛇にある特有の癖のようなものは感じられない。いっそ少し噛ってみるか――。

 しかし何かを感じ取ったのか「痛い事はしないんだよね?」と鼻水垂らしながら念押しされたので、今回は止めておいてやった。どうせまた生えてくるのに。

 蛇としての特性を強くするのも面白そうだと思う。ネヴィス蛇の味まで再現出来たら、俺にとっては最高なんだが。

「ディアー服じゃま。脱いでよぉ」
「面倒くせぇ。このままで良いだろ」

 ノラはとにかく注文が多い。魔力が欲しいと言うからこうして奥の奥までぎっちり嵌め込んでやっているのに、更に自分が気に入ってるものまで俺に求めてくる。

 最近のお気に入りは正面からぴったり肌をくっつけて下から緩く突き上げられる体勢らしい。俺の首にがっちり腕を回して顔を埋め、ぐでーっと身体を預けるわりには激しく突くと逃げて行く。存分に我が儘出来る体勢なんだろう。

「お前こんなの付き合ってやるの俺ぐらいだぞ」

 快楽に耽ける悪魔は居ても、お互いより強い刺激を求めてのことだ。こんなただくっついてるだけみたいな悠長な性交はしない。

 かぷっと耳朶を噛むと、頼りない背中が震えて未熟な羽まで小さく羽ばたく。舌先で耳の形を辿ると律儀に羽ばたき続けるので、持ち主よりよほど従順だと笑いが洩れた。

 ノラと居ると時間がゆっくり進む。

 城に居ると物事に時間を掛ける事に苛立ちを覚え、何かしていないと自分の中の何かが停滞して朽ちていくようで吐き気がする。長命だからこそ、退屈は最大の敵だった。

 ご機嫌に宙をふよふよ動く短い尻尾を捕まえ、根本まで撫で上げると刺激を噛みしめるみたく繋がった後孔がきゅぅぅと締まる。

「ね、ね、ディア。それもっとして」

 それ好きなやつ……ってそんなの言われなくても知ってる。尻尾の根本ごと引き寄せながら腰をぐりぐり擦り付けてやったら、抱きつく力を強くして満足気な吐息を漏らす。口寂しいのか首に吸い付いてるからまたキスでもしたいのかもしれない。

 怯えてばかりだったノラが快楽を貪欲に求めてくるのは俺が地道に教えてやったからだ。それを横から掻っ攫われるなんて許す訳ないだろ。

「なぁ、ノラ。このままバイコーンみたいに擬態してやろうか?」
「っん、あっ……やだ、ちゅー出来ない」
「重要なのそっちか?」

 緩く突き上げながら戯れに問いかけると、予想とは違う答えが返ってきた。出来ない事はないとは思うが、まぁノラが好むキスは無理だろうな。

「ならこっち向いて口開けろ」

 笑いながら言えば、素直に唇を寄せてくる。顔近づけたらノラから薄っすら蛇の匂いがして、さっき舐められてたのを思い出し、涙の跡を自分の舌でしっかり上書きしておいた。

「ん、うぅあ……それも好きー」
「そりゃ良かったな」

 あれこれ好きがいっぱいあって。顔も身体もふにゃふにゃなノラを抱え、終わりの見えない性交に励む。我が儘放題に付き合うのはこれで結構忙しい。退屈には感じなかった。





「――いいか。人型で俺の前に立った瞬間、思う存分ぶちのめすから覚悟しとけよ」

 帰る前にしっかりバイコーンに釘を刺しておく。

「え、人型になれるの? すごい!」
「なれるかなんて知らん。なったら殺す」

 念の為、なのだが知能の高い魔獣が人型をとる事は稀にあるらしい。バイコーンという種がどうかなんて知らないが、こいつは何となく怪しいと思った。

 阿呆なノラは無邪気にはしゃいでいるが、こいつの身体は種が混ざり合った不純物で、そしてこのちっとも悪魔らしくない無垢さだ。よくよく考えれば、バイコーンの好みそうな境界ギリギリそのものな気がしてくる。

 何となく気に食わなくて睨みつけるが、それとなくノラを盾に躱すあたり、このバイコーン中々性格が悪い。

「人型になったら、きっとディアそっくりだよね」

 は? ただの馬面に決まってる。鼻で嗤うと同時に向こうからも似たような音がした。どうやら存在が気に食わないのは向こうも同じらしい。


 ――目を離せないほど弱っちい悪魔と、油断ならない黒い獣。俺には退屈してる暇なんてないようだ。




「ディアー見てみて! 鱗、増えた!」
「うわ、どうなってんだお前の身体」

 全く予想のつかない日々ってのは面白い。







【おわり】
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みんなの感想(1件)

るか
2024.02.16 るか

このお話好きです!
ほのぼのしてるけどちゃんとしててナイスすぎです!

exact
2024.02.16 exact

るかさん、感想ありがとうございます!!
変な悪魔達と一緒にほのぼの気分になっていただけてたら嬉しいです。ふわっとしてますが意外と殺伐とした世界で暮らしてるので、ほのぼのだけじゃないとおっしゃっていただけたのは尚更嬉しいです。ありがとうございます。

解除

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