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第一部

★一線を越えて【5】

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「あの……」

 身体を起こそうとすると、その上にマキウスが覆い被さってくる。背中に流していたマキウスの白に近い灰色の髪がモニカの周りに広がった。

「最初なのでなるべく加減はしますが、嫌な時は言って下さい。貴女の過去の傷に触れて、貴女に嫌われたくないので」

 それだけ言うと、マキウスはモニカに口づけてくる。
 マキウスの艶やかな唇と触れ合ったかと思うと、口の中に舌を入れられて絡め取られる。
 互いの舌と舌を絡め合わせている間に、マキウスの手はモニカの胸を掴んだ。
 頂を摘まれ、何度も揉まれていく内に、頂はピンと立ってきた。
 息苦しくなってマキウスの身体を叩いて訴えると、銀の糸と共に口を離してくれるが、すぐにまた舌を入れられて絡め取られる。

(なんだろう。頭がぼうっとしてきた……)

 頭が惚けてしまったのか、次第に何も考えられなくなり、モニカが呆然としていると、ようやくマキウスは舌を解放して、口を離した。
 モニカの唇をひと舐めした舌は、今度はピンと立った頂に向かう。

「あっ……」

 ペロペロと舐められたかと思うと、頂を口に含んで飴の様に舌で転がされる。
 口を離すと、今度は反対の頂を同じ様に舐めた後に、舌で転がされた。
 くすぐったくなるが、身じろいだ分、マキウスが身体を押さえつける力が強くなり、それがまたモニカの身体中をむず痒くした。

 ようやく頂から口を離してくれたかと思うと、腹部に口づけを落としてくる。
 腹部、足、腰、腕、と先程、沐浴の時に口づけなかった場所を重点的に口づけているようだった。
 軽く肌を吸われて、赤くなった肌が身体中に広がっていく。
 まるで身体中に赤い花びらが散った様だと思っていると、一段とくすぐったくなった。
 足元を見ると、マキウスがモニカの足を持ち上げて、太腿の内側に口づけていたのだった。

「ああっ……!」

 太腿の内側に口づけられながら、そっと撫でられて肌が総毛立つのを感じた。
 あの秋暮れのーー強姦されかかった恐怖を思い出して、涙が溢れてくる。
 マキウスに知られたくなくて、腕で目元を隠したが、逆にそれが原因で気づかれてしまったようだった。

「モニカ……?」

 腕で顔を隠すモニカに気づいたマキウスが、太腿の内側から口を離したのだった。

「どうしましたか?」

 マキウスがベッドの上を動く度に、ギシギシとスプリンクラーの音が聞こえてベッドが揺れる。
 それを感じながらも、モニカは何でもないと首を振るが、マキウスは解放してくれなかった。

「……怖くなりましたか?」

 その言葉に頷くと、マキウスの熱が近くなった。
 マキウスが隣に寝たのだと分かった時には、モニカは腕の中にいたのだった。

「すみません。辛いことを思い出させました。もう大丈夫です。これ以上は何もしません」

 優しく後頭部を撫でられて、恐怖心は落ち着いてくるが、代わりに罪悪感で胸が溢れてくる。

「今夜はここまでにして、続きはまた後日やりましょう。無理をしても良いことはありません。一度ついた傷が、瞬時に治ることはないのですから……」

 今はモニカを労るマキウスの言葉が胸に痛かった。
 このままでは何も変わらないだろう。
 怯えて、怖がっているだけでは、何度やっても同じことの繰り返しな気がした。
 いつまでもマキウスに気遣われて、気遣わせたことに罪悪感を抱くだけ。
 それならーー。

「……けて下さい」
「モニカ?」
「続けて下さい! 私は大丈夫なので……」

 多少、荒療治かもしれないが、今はこれが一番良いような気がした。
 どこかで一線を越えなければ、何も変わらない。
 それなら、今、越えるべきだろう。
 愛する人の手を借りて、乗り越えよう。
 御國の傷を越えて、モニカになろう。自分だけの「モニカ」になるために。
 この身体に恥じない、「モニカ」になるためにもーー。

 顔から腕を離して、涙目になりながらも、訴えてくるモニカに何かを感じ取ったのか、マキウスは小さく息を吐いた。

「本当に良いんですね?」

 何度も頷くと、マキウスは身体を離してくれた。
 そろそろとベッドを動いて、モニカの足元まで行くと、先程の続きなのか、また太腿の内側に口づけてきたのだった。
 歯を食いしばるようにして耐え、目を開けると、足元には心配そうな顔をしたマキウスの姿があった。

「ミクニ……」

 今のマキウスはモニカではなく、モニカの中にいる御國を見ていると分かって、急に胸が激しく高鳴り出す。
 身体を起こしかけるが、モニカはベッドに腰を押さえつけられる。
 マキウスはモニカの身体を横向きにすると、端麗な顔を尻に近づけてきた。
 そうして、モニカの尻をひと舐めした後に口づけてきたのだった。
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