222 / 247
第一部
★一線を越えて【2】
しおりを挟む
「姿見がないと身だしなみを確認できなくて不便でしょう。ペルラやティカたちからもそう言われて用意したんです」
「そ、そうですか……」
モニカが姿見から目を逸らして後ろを向くと、そこには困ったように微笑むマキウスが立っていた。
「嬉しくないですか?」
「そんなことは……」
「そう言っている割には、嬉しくなさそうですが……」
マキウスに背中を支えられると、姿見の前に連れて行かれるが、自分の姿を直視出来ず、姿見から目を逸らしてしまう。
それを目ざとく見つけたマキウスは、後ろから腕を回してモニカを片手で抱きしめながら、モニカの頭を姿見に向けたのだった。
「どうして、先程から姿見を見ないんですか?」
「は、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい? 自分の身体でしょう?」
蚊の鳴く様な声で話すと、なんとか目線だけでも姿見から逸らそうとする。
その間に、マキウスはモニカのバスローブの腰紐を解いていく。解けた紐と共にバスローブが床に落ちると、姿見には白磁の肌にマキウスに付けられた赤い花びらに似た痕が残る、一糸纏わぬ姿をしたモニカが映っていた。
「こうして明るい光の下で見ると、ますます貴女が綺麗なのがわかります。あまりに綺麗で眩しくて、なかなか直視できません」
「そ、そうですか……私も直視できません。私にはこの『モニカ』の身体が眩しいんです。汚らしい私には似合わないくらい……」
モニカは未だに自分の身体ーー「モニカ」の身体を直視出来なかった。
この身体になった最初こそ照れ臭い気持ちになったが、今では別の意味で直視出来なかった。
この「モニカ」の身体は、穢れを知らないかのように、清らかで、美しくて、まさに羽が生えていれば「天使」と言いたくなる様な見た目であった。
先程、マキウスが褒めた可愛らしい形の尻もだが、豊満な胸も、出産を経験しながらもほとんど形が崩れていないほっそりとした身体も、カナリアの様に可愛らしい声も、傷一つない玉の様な肌も、絹の様にサラサラした髪も、海の様な深い青を湛えた丸い瞳も、化粧も必要ないほんのり赤く染まった頬も、何もかも。
同性のモニカから見ても見惚れてしまうくらい、全てが魅力に溢れていた。
だからこそ、モニカは直視出来なかった。
今のモニカはーー「モニカ」の身体の中にいるモニカは、そんな「モニカ」に相応しくなかった。
最初こそマキウスとニコラを利用して、この屋敷に残った醜いモニカ。
取り立てて秀でたところもない、愚かなモニカ。
マキウスを始めとする異性を苦手として、誰かに触れられることさえ怯えていたモニカ。
何一つとして、良いところがないモニカには、「天使」の様な「モニカ」の身体は似合わなかった。
今だって、全身の素肌を晒した鏡に映る「モニカ」を見られなくて、こうして目を逸らしている。
顔だけなら慣れたので平気だが、さすがに産まれた時の様な一糸纏わぬ姿になった「モニカ」は、直視出来なかった。
「私は汚い人間です。頭も良くないから、過去に強姦されそうになりました。それからは、人となるべく関わらないように臆病に生きて、この世界に来てからはマキウス様の優しさを利用した狡猾な人間です。そんな私に、『モニカ』の清らかな身体は似合いません……」
じっと目線を床に落としていたモニカだったが、マキウスの小さなため息が聞こえてきたかと思うと、顔を寄せて囁いてきたのだった。
「モニカ。こっちを向いて下さい」
ゆるゆるとモニカが首だけ動かして後ろを向いた途端、マキウスは口づけを落としてくる。
貪るように口づけられた後に、そっと離してくれたのだった。
「そ、そうですか……」
モニカが姿見から目を逸らして後ろを向くと、そこには困ったように微笑むマキウスが立っていた。
「嬉しくないですか?」
「そんなことは……」
「そう言っている割には、嬉しくなさそうですが……」
マキウスに背中を支えられると、姿見の前に連れて行かれるが、自分の姿を直視出来ず、姿見から目を逸らしてしまう。
それを目ざとく見つけたマキウスは、後ろから腕を回してモニカを片手で抱きしめながら、モニカの頭を姿見に向けたのだった。
「どうして、先程から姿見を見ないんですか?」
「は、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい? 自分の身体でしょう?」
蚊の鳴く様な声で話すと、なんとか目線だけでも姿見から逸らそうとする。
その間に、マキウスはモニカのバスローブの腰紐を解いていく。解けた紐と共にバスローブが床に落ちると、姿見には白磁の肌にマキウスに付けられた赤い花びらに似た痕が残る、一糸纏わぬ姿をしたモニカが映っていた。
「こうして明るい光の下で見ると、ますます貴女が綺麗なのがわかります。あまりに綺麗で眩しくて、なかなか直視できません」
「そ、そうですか……私も直視できません。私にはこの『モニカ』の身体が眩しいんです。汚らしい私には似合わないくらい……」
モニカは未だに自分の身体ーー「モニカ」の身体を直視出来なかった。
この身体になった最初こそ照れ臭い気持ちになったが、今では別の意味で直視出来なかった。
この「モニカ」の身体は、穢れを知らないかのように、清らかで、美しくて、まさに羽が生えていれば「天使」と言いたくなる様な見た目であった。
先程、マキウスが褒めた可愛らしい形の尻もだが、豊満な胸も、出産を経験しながらもほとんど形が崩れていないほっそりとした身体も、カナリアの様に可愛らしい声も、傷一つない玉の様な肌も、絹の様にサラサラした髪も、海の様な深い青を湛えた丸い瞳も、化粧も必要ないほんのり赤く染まった頬も、何もかも。
同性のモニカから見ても見惚れてしまうくらい、全てが魅力に溢れていた。
だからこそ、モニカは直視出来なかった。
今のモニカはーー「モニカ」の身体の中にいるモニカは、そんな「モニカ」に相応しくなかった。
最初こそマキウスとニコラを利用して、この屋敷に残った醜いモニカ。
取り立てて秀でたところもない、愚かなモニカ。
マキウスを始めとする異性を苦手として、誰かに触れられることさえ怯えていたモニカ。
何一つとして、良いところがないモニカには、「天使」の様な「モニカ」の身体は似合わなかった。
今だって、全身の素肌を晒した鏡に映る「モニカ」を見られなくて、こうして目を逸らしている。
顔だけなら慣れたので平気だが、さすがに産まれた時の様な一糸纏わぬ姿になった「モニカ」は、直視出来なかった。
「私は汚い人間です。頭も良くないから、過去に強姦されそうになりました。それからは、人となるべく関わらないように臆病に生きて、この世界に来てからはマキウス様の優しさを利用した狡猾な人間です。そんな私に、『モニカ』の清らかな身体は似合いません……」
じっと目線を床に落としていたモニカだったが、マキウスの小さなため息が聞こえてきたかと思うと、顔を寄せて囁いてきたのだった。
「モニカ。こっちを向いて下さい」
ゆるゆるとモニカが首だけ動かして後ろを向いた途端、マキウスは口づけを落としてくる。
貪るように口づけられた後に、そっと離してくれたのだった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
夕凪ゆな@コミカライズ連載中
恋愛
大陸の西の果てにあるスフィア王国。
その国の公爵家令嬢エリスは、王太子の婚約者だった。
だがある日、エリスは姦通の罪を着せられ婚約破棄されてしまう。
そんなエリスに追い打ちをかけるように、王宮からとある命が下る。
それはなんと、ヴィスタリア帝国の悪名高き第三皇子アレクシスの元に嫁げという内容だった。
結婚式も終わり、その日の初夜、エリスはアレクシスから告げられる。
「お前を抱くのはそれが果たすべき義務だからだ。俺はこの先もずっと、お前を愛するつもりはない」と。
だがその宣言とは違い、アレクシスの様子は何だか優しくて――?
【アルファポリス先行公開】
王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!
榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。
理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。
そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ?
まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
転生した王妃は親バカでした
ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー
あまりの激痛に目がチカチカする。
それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京…
あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね?
「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」
お、王妃様って!?
誰それ!!
てかそれより
いだーーーいぃー!!
作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ…
しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに!
このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!!
どうする?
大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話
我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ??
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。
毎日24時更新予定です。
(寝落ちにより遅れる事多々あり)
誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。
契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様
日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。
春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。
夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。
真実とは。老医師の決断とは。
愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。
全十二話。完結しています。
婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。
棗
恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。
そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。
前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる