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第一部
★介添え【3】
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「使用人に洗ってもらうというのは、そういう意味もあるんですね……」
「彼らを雇い入れている以上、あまり彼らの仕事を取ってしまうのも良くないと、私は思っています。他の貴族と違い、私も貴女も一人で何でも出来てしまうので、人任せにすると不便を感じることもあるかと思いますが……」
「でも屋敷の主人として、やってもらうことにも意味があるのなら、明日からはそうします」
「そうして下さい。介添え以外にも、有事の際の護衛も兼ねているので」
そこで会話が途絶えそうになったので、「あの」とモニカから話しかける。
「地方に住んでから一人で沐浴をするようになったということは、子供の頃は違っていたんですか?」
「侯爵家に住んでいた頃は、それこそ他の貴族と同じ様に使用人に任せていました。地方に住んでからは使用人がこの屋敷より少ないので、必然的に自分一人で全てをやらなければならなくなりまして」
「そうだったんですね……」
「最も、地方に住み始めた頃は祖父と一緒に沐浴をしながら、一人で沐浴をする方法を教わっていたので、最初から一人だったという訳ではありませんが……」
マキウスによると、地方の屋敷はこの屋敷より少ないほんの数人しか雇い入れておらず、その雇い入れている使用人というのも、料理人や庭師、メイドと執事が一人ずつと極端に少なかったらしい。
マキウスは会ったことはないらしいが、マキウスの母方の祖母が生きていた頃は、もっと使用人はいたらしいが、男一人暮らしには不要だからと、再雇用される可能性が高い若い使用人から順に祖父が推薦状を書いて、他の貴族の屋敷に移ったらしい。
祖母が亡くなった直後にやって来たマキウスには、最初身の回りの世話を担当する専属の使用人をつけるという案もあったらしいが、結局、祖父亡き後に一人で生きていくことを考えて、その案は無くなり、祖父が教える中で、何もかも一人でやらなければならなくなった。
当然、沐浴は一人でやらねばならず、その時の経験が騎士団に入団した際に役立ったらしい。
「お祖父様との沐浴はどうでしたか?」
「どうと言われましても……最初の頃は何も出来ず、怒られてばかりだったので、毎日のように泣いていました。『侯爵家は全部やってくれたのに!』と言って、祖父を困らせたような気がします」
「なんだか意外です……」
「これでも昔は我が儘だったんです。さあ、髪を流しますよ」
マキウスがシャワーの蛇口を捻ると、音を立てて熱い湯が出てきた。
この世界の湯は魔力を使うことで常に一定の温度を保てるようで、時間が経って冷めてしまうということはほとんどないらしい。
各貴族の屋敷の裏手には、シャワー専用の湯を溜めたタンクがあり、そこに足し湯をする度に使用人が魔力を使って、一定の温度を保ち続ける。
この浴室に用意されている足し湯用の湯も同じように使用人が魔力を使って、冷めないように温度が保たれていた。
一度魔力を使えば、少なくとも、半日は温度が保てるらしいが、温熱効果のある魔法石を使えばもっと長く温度を保てるらしい。
ただ、そういった魔法石は貴族を中心に需要がある分、高価なものなので、この屋敷にはないそうだ。
シャワーで頭を流されると、泡を全て流し終えたマキウスは手際良くモニカの髪をタオルで拭いてくれたのだった。
「彼らを雇い入れている以上、あまり彼らの仕事を取ってしまうのも良くないと、私は思っています。他の貴族と違い、私も貴女も一人で何でも出来てしまうので、人任せにすると不便を感じることもあるかと思いますが……」
「でも屋敷の主人として、やってもらうことにも意味があるのなら、明日からはそうします」
「そうして下さい。介添え以外にも、有事の際の護衛も兼ねているので」
そこで会話が途絶えそうになったので、「あの」とモニカから話しかける。
「地方に住んでから一人で沐浴をするようになったということは、子供の頃は違っていたんですか?」
「侯爵家に住んでいた頃は、それこそ他の貴族と同じ様に使用人に任せていました。地方に住んでからは使用人がこの屋敷より少ないので、必然的に自分一人で全てをやらなければならなくなりまして」
「そうだったんですね……」
「最も、地方に住み始めた頃は祖父と一緒に沐浴をしながら、一人で沐浴をする方法を教わっていたので、最初から一人だったという訳ではありませんが……」
マキウスによると、地方の屋敷はこの屋敷より少ないほんの数人しか雇い入れておらず、その雇い入れている使用人というのも、料理人や庭師、メイドと執事が一人ずつと極端に少なかったらしい。
マキウスは会ったことはないらしいが、マキウスの母方の祖母が生きていた頃は、もっと使用人はいたらしいが、男一人暮らしには不要だからと、再雇用される可能性が高い若い使用人から順に祖父が推薦状を書いて、他の貴族の屋敷に移ったらしい。
祖母が亡くなった直後にやって来たマキウスには、最初身の回りの世話を担当する専属の使用人をつけるという案もあったらしいが、結局、祖父亡き後に一人で生きていくことを考えて、その案は無くなり、祖父が教える中で、何もかも一人でやらなければならなくなった。
当然、沐浴は一人でやらねばならず、その時の経験が騎士団に入団した際に役立ったらしい。
「お祖父様との沐浴はどうでしたか?」
「どうと言われましても……最初の頃は何も出来ず、怒られてばかりだったので、毎日のように泣いていました。『侯爵家は全部やってくれたのに!』と言って、祖父を困らせたような気がします」
「なんだか意外です……」
「これでも昔は我が儘だったんです。さあ、髪を流しますよ」
マキウスがシャワーの蛇口を捻ると、音を立てて熱い湯が出てきた。
この世界の湯は魔力を使うことで常に一定の温度を保てるようで、時間が経って冷めてしまうということはほとんどないらしい。
各貴族の屋敷の裏手には、シャワー専用の湯を溜めたタンクがあり、そこに足し湯をする度に使用人が魔力を使って、一定の温度を保ち続ける。
この浴室に用意されている足し湯用の湯も同じように使用人が魔力を使って、冷めないように温度が保たれていた。
一度魔力を使えば、少なくとも、半日は温度が保てるらしいが、温熱効果のある魔法石を使えばもっと長く温度を保てるらしい。
ただ、そういった魔法石は貴族を中心に需要がある分、高価なものなので、この屋敷にはないそうだ。
シャワーで頭を流されると、泡を全て流し終えたマキウスは手際良くモニカの髪をタオルで拭いてくれたのだった。
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