187 / 247
第一部
天使・下【1】
しおりを挟む
「ヴィオーラ殿、『天使』とは……?」
リュドヴィックが訊ねると、ヴィオーラは「マキウスとモニカさんはご存知かと思いますが」と、言い置いた。
「この国は、大天使様によって出来ました。ユマン族人の大天使様が持っていた技術と知識によって」
「はい。確か、騎士団の壁画に描かれていましたよね?」
モニカがマキウスと婚姻届を騎士団に提出しに行った際に、モニカは騎士団の詰め所である城の壁に描かれたこの国の創世について、ヴィオーラに教えてもらった。
この国、レコウユスは、天から現れた一人のユマン族人である大天使によって作られた。
大天使が持ってきた不思議な技術と知識によって。
「その大天使様は、モニカさんと同じように、異なる世界からやってきたユマン族だと言われています」
「えっ……!? そうなんですか!?」
モニカは口を開けた。
マキウスも知らなかったようで、アメシストの様な目を見開いたまま固まっていたのだった。
「ええ。大天使様も、元の世界で死んだ後に、とあるユマン族人の身体に宿ったと言われています」
大天使が居た世界では、国同士の争いが勃発していた。
絶え間なく戦火の炎は上がり、大天使もその被害を受けた。
そうして、空から「カガクヘイキ」なるものを落とされた後、大天使が目を覚ますと、この世界に居たと言われている。
「大天使様は放浪の末に、この国の原型であるカーネ国に辿り着きました。そうして、空に国を作ろうとしている我らが祖先に力を貸して下さったのです」
大天使はカーネ族から話を聞くと、自らも協力を名乗り出た。
国の設計図に手を加え、道具や人材などの建国に必要な材料を集めた。
けれども、国を浮かべるには、燃料が足りない。
そこで目をつけたのが、カーネ族が持つ魔力であった。
「当時のカーネ族は、誰もが高い魔力を持っていました。それを集めれば、不足している国の浮遊力になると考えたのです」
大天使はカーネ族を説得した。
全てのカーネ族が納得した訳ではなかった。当然、納得しなかった者たちも当然いたが、そういう者たちは国を去って行ったらしい。
そして、大天使は賛同した者たちの魔力を一つに集めた。
それは一つの大きな炎となって、浮遊力となり、国を浮かばせたのだった。
「私たちの魔力が生まれつき少ないのは、この時にご先祖様たちが、ほとんど使い切ってしまったからだと言われています。中には魔力を使い過ぎて、死んだ者もいるそうです……。
とにかく、この国が完成した私たちのご先祖様は移住を開始しました。けれども、その中に大天使様の姿は無かったそうです」
全てを終えた大天使の行方は、誰も分からなかったらしい。
カーネ国に残ったとも、カーネ国から出国して旅に出たとも、力を使い果たして天に還ったとも、魔力に強く当たり過ぎて死した後にカーネ族に生まれ変わったとも、言われている。
「それでも、私たちは大天使様を忘れてはいけない。この国は大天使様の助力があって完成したのだからと……。
そんな意味も込めて、ご先祖様たちは大天使様の像を建てました。国の原動力でもある、魔力の炎を守る核としての役割も含めて」
国の浮遊力の元でもある魔力の炎を剥き出しのままにしておくのも、今後悪用され、悪戯される可能性があるということで、何かで守る必要があった。そこで当時のカーネ族たちが考えたのが、耐熱性のある素材で作った像を作り、その中で魔力の炎を守り、管理することだった。
国の中心となる炎を守護する像を作るなら、国の象徴となるような形にしたいと考えた結果、いつまでも国の礎となった存在を忘れないようにという意味を込めて、像の形は大天使に決まった。
そうして大天使を模した像を作り、その中で魔力の炎を管理することにしたのだった。
リュドヴィックが訊ねると、ヴィオーラは「マキウスとモニカさんはご存知かと思いますが」と、言い置いた。
「この国は、大天使様によって出来ました。ユマン族人の大天使様が持っていた技術と知識によって」
「はい。確か、騎士団の壁画に描かれていましたよね?」
モニカがマキウスと婚姻届を騎士団に提出しに行った際に、モニカは騎士団の詰め所である城の壁に描かれたこの国の創世について、ヴィオーラに教えてもらった。
この国、レコウユスは、天から現れた一人のユマン族人である大天使によって作られた。
大天使が持ってきた不思議な技術と知識によって。
「その大天使様は、モニカさんと同じように、異なる世界からやってきたユマン族だと言われています」
「えっ……!? そうなんですか!?」
モニカは口を開けた。
マキウスも知らなかったようで、アメシストの様な目を見開いたまま固まっていたのだった。
「ええ。大天使様も、元の世界で死んだ後に、とあるユマン族人の身体に宿ったと言われています」
大天使が居た世界では、国同士の争いが勃発していた。
絶え間なく戦火の炎は上がり、大天使もその被害を受けた。
そうして、空から「カガクヘイキ」なるものを落とされた後、大天使が目を覚ますと、この世界に居たと言われている。
「大天使様は放浪の末に、この国の原型であるカーネ国に辿り着きました。そうして、空に国を作ろうとしている我らが祖先に力を貸して下さったのです」
大天使はカーネ族から話を聞くと、自らも協力を名乗り出た。
国の設計図に手を加え、道具や人材などの建国に必要な材料を集めた。
けれども、国を浮かべるには、燃料が足りない。
そこで目をつけたのが、カーネ族が持つ魔力であった。
「当時のカーネ族は、誰もが高い魔力を持っていました。それを集めれば、不足している国の浮遊力になると考えたのです」
大天使はカーネ族を説得した。
全てのカーネ族が納得した訳ではなかった。当然、納得しなかった者たちも当然いたが、そういう者たちは国を去って行ったらしい。
そして、大天使は賛同した者たちの魔力を一つに集めた。
それは一つの大きな炎となって、浮遊力となり、国を浮かばせたのだった。
「私たちの魔力が生まれつき少ないのは、この時にご先祖様たちが、ほとんど使い切ってしまったからだと言われています。中には魔力を使い過ぎて、死んだ者もいるそうです……。
とにかく、この国が完成した私たちのご先祖様は移住を開始しました。けれども、その中に大天使様の姿は無かったそうです」
全てを終えた大天使の行方は、誰も分からなかったらしい。
カーネ国に残ったとも、カーネ国から出国して旅に出たとも、力を使い果たして天に還ったとも、魔力に強く当たり過ぎて死した後にカーネ族に生まれ変わったとも、言われている。
「それでも、私たちは大天使様を忘れてはいけない。この国は大天使様の助力があって完成したのだからと……。
そんな意味も込めて、ご先祖様たちは大天使様の像を建てました。国の原動力でもある、魔力の炎を守る核としての役割も含めて」
国の浮遊力の元でもある魔力の炎を剥き出しのままにしておくのも、今後悪用され、悪戯される可能性があるということで、何かで守る必要があった。そこで当時のカーネ族たちが考えたのが、耐熱性のある素材で作った像を作り、その中で魔力の炎を守り、管理することだった。
国の中心となる炎を守護する像を作るなら、国の象徴となるような形にしたいと考えた結果、いつまでも国の礎となった存在を忘れないようにという意味を込めて、像の形は大天使に決まった。
そうして大天使を模した像を作り、その中で魔力の炎を管理することにしたのだった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。
束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。
伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、
皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。
ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。
レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。
優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。
それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。
耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる