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第一部

流星群と明かされた過去・下【2】

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「『モニカ』が私の元にやって来てから数ヶ月経った頃、ガランツスから『モニカ』宛に贈り物が送られてきました。その中に、私たちカーネ族にとって、催淫効果のある香が混ざっていたんです。それを吸引してしまった私は、不覚にも嫌がる『モニカ』を抱いてしまって……」

「モニカ」から引き継いだ「モニカ備忘録」の中には、今の話はなかった。
 人は自分の心身に耐えられないことが起こると、自分を守る為に、その出来事を忘れてしまうと聞いたことがあった。
 もしかしたら、「モニカ」は恐怖から、その記憶を封じてしまったのかもしれない。

「そうだったんですね……」
「後からアマンテが聞いてくれたところによると、『花嫁』に選ばれた『モニカ』を妬んだガランツスの者が、『モニカ』に宛てて送ってきたようです。『モニカ』はそれが何か分からないまま焚きしめ、そこに部屋を訪れた私が吸ってしまったのではないかと。
 最も、私は催淫効果のせいで、この時のことはほとんど何も覚えていないんです。わずかな記憶が残っているだけで……。
 目が覚めた時には、私は何も衣服を纏っておらず、傍らには破れた衣服を身に纏った『モニカ』が、怯えるように私を見て泣いていました」

 そこで、マキウスは大きく息を吐き出した。

「……事の詳細は、後にアマンテが『モニカ』から全て聞いてくれました。この時の私が『モニカ』に何をしたのかも、全て含めて……」

 モニカたちユマン族が使用している香水や、食している食べ物の中には、鼻が効くマキウスたちカーネ族にとって、毒や催淫効果を持ったものがある。
 身体能力に優れている分、そうしたものに身体が反応してしまうらしい。

「催淫効果のせいで、獣のように襲ってしまったことで『モニカ』は心身共に傷つき、部屋に閉じこもってしまいました。
 それまでは、使用人たちには反応しなかった『モニカ』も、私が機嫌を伺いに行くと、顔を見せてくれたんです。……その日を境に、それさえもしてくれなくなりました。
 そうしている内に、ある日、『モニカ』が部屋の中で倒れているのを、食事を運んだ使用人が見つけました。近くに住む医師に診てもらったところ、『モニカ』が子を身籠もっていると告げられたそうです……そこで、また私は過ちを繰り返しました」

 マキウスは顔を歪ませた。

「私は出産を甘く見ていました。……子を産むという行為が、命懸けの行為であることを。私は母上を見ていたので知っているはずでした。それを完全に忘れていたのです……」

「モニカ」が倒れたと聞いたマキウスが部屋を見舞った際、ようやく、顔を合わせてくれた「モニカ」から、「妊娠した」と告げられたらしい。

「私は『モニカ』を傷つけてしまった後ろめたさもあったことから、ただ『そうですか』と答えました。余計なことを言って、ますます彼女を傷つけるよりは、それがいいかと思ったのです。
 けれども、それが彼女を更に傷つける結果となってしまいました」

 そこでマキウスは息をついた。
 二人が話している間も、幾つもの星々が頭上を流れて行った。

「『モニカ』から『子を身籠もった』と言われた時、私は自らの失態を恥じていたこともあり、『モニカ』の気持ちに全く気づけませんでした。
 もし気づいていれば、『モニカ』を喪わずに済んだのではないかと……そう思えてなりません」

 マキウスは悔しげに掌を強く握りしめると、自らの太腿に拳を落とした。
 彼女がどんな気持ちで妊娠を告げたのかーー望まぬ形でマキウスの子供を身篭ってしまったのか。その気持ちに気づいてあげられなかった。
 そう、マキウスは後悔しているのだろう。

「私の言葉を聞いた『モニカ』は肩を落とし、ただ『休みたい』とだけ言って、私を部屋から追い出しました。それから、部屋に籠って、私とも顔を合わせてくれなくなりました。……その日から、部屋に閉じこもった『モニカ』が泣き叫ぶ日々が始まりました」

 この話は、以前もマキウスから聞いたことがあった。
「モニカ」が泣き叫び、暴れて、周囲を怖がらせたことが原因で、使用人からは恐れられるようになったと。

「放っておけば、子供は勝手に産まれる。そう思っていました。だから、何も用意をしていませんでした。
 当時の使用人たちは不用意に『モニカ』に関わって、傷つけられるのが嫌だったのです。『モニカ』に恐れた使用人たちは次々と辞めていきました。使用人が減り、人手が不足していたこともあって、誰も『モニカ』の出産の用意まで考えが巡りませんでした」
「ペルラさんやアマンテさんは、屋敷にいなかったんですか……?」

 何も用意していなかったのなら、姉弟の乳母だったペルラや、ニコラの乳母のアマンテがいる訳がない。
 そういう意味で尋ねると、マキウスは苦笑していた。
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