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第一部

加工屋【9】

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 店主によると、店主の実家はかつて国で指折りの商家であった。
 店主の曽祖母が国に嫁いでくる前、多数の死傷者が出る大きな事故が起こった。
 どうも、郊外にある魔法を研究する施設で原因不明の爆破事故が起こり、それに研究施設で働く研究員以外にも、近隣住民や通り掛かりの者を始めとする大勢が巻き込まれたとのことだった。
 その際に、店主の実家である商家は店主の曽祖父が中心となって、多額の寄付金や多数の物資を出して、国に貢献した。

 その褒美として、店主の曽祖父はガランツスから来た花嫁を賜わった。それが店主の曽祖母らしい。

「へぇ~。店主さんのひいおじいさんの様な方って、結構いるんですか?」
「そうさなあ……」
「多いと思いますよ」

 モニカと店主の疑問に答えたのは、これまで黙っていたマキウスであった。

「商家に直接賜った例もありますし、下級身分の貴族に嫁いだユマン族との間に生まれた子供が、商家に嫁いだという例もありますね」

 マキウスによると、下級貴族から有力な商家に嫁ぐというのは、珍しい話ではないらしい。

 この国は、下級貴族よりも有力な商家の方が資産を有していることが多い。
 それは、下級貴族が王都の遠方にある小さな領地から細々と収入を得ているのに対し、商家はその時々の情勢に応じて、物価が変動する市場に対応した商売を行っているからと言われている。

 身分に縛られ、行動に制約を受ける下級貴族よりも、身分はなく、制約も少ない商家の方が臨機応変に対応できるというのもあるだろう。

 無論、下級貴族同士婚姻を結び、互いの生活を支え合うこともあるが、手広く商売人としての顔を持つ商家と繋がりを持っておけば、領地経営に何かあった時に商家から支援を得られることがある。金銭面的にも、物資的にしても。
 それを当てにして、下級貴族から商家に嫁がせることが多いらしい。

「つまり、安定した収入を得られる下級貴族か、その時々の情勢に応じて収入が変動する商家かってことなんですね……」
「私が下級貴族の立場なら、自分の子供を下級貴族に嫁がせて細々とした生活をさせるより、裕福な暮らしが出来る可能性のある商家に嫁がせます。
 裕福な商家なら、使用人もいて、ある程度富んだ暮らしが出来るので、場合によっては、生家である下級貴族よりも貴族らしい生活を送れます」
「貴族らしい生活」

 モニカの呟きに答えるように、マキウスが頷いてくれる。

「特に貴族は多産が好ましいと言われています。子供が増えれば金がかかり、必要に応じて専属の使用人を付けます。その使用人の人数が増えた分だけ、更に出費が増えるんです」

 跡継ぎの問題を含めて、昔から貴族は多産が好ましいと言われている。
 けれども資産が潤沢な上級貴族ならともかく、細々とした資産が得られない下級貴族は多産な分、生活の維持が難しくなる。
 また下級貴族から侯爵家などの上級貴族に嫁ぐ話も無い訳ではないが、それには上級貴族からの打診が必要であった。その打診も仕事や領地関係を理由にされることが大半であり、それ以外の理由でされることはほとんど無かった。
 嫁いだ先でも貧困に喘ぐ暮らしをして我が子に苦労を掛けさせるくらいなら、裕福な暮らしが出来る商家に嫁がせた方がいい、という考え方もあるのかもしれない。

 そうやって、下級貴族に嫁いだユマン族の子供が、商家に嫁ぎ、更に他家に嫁いだことで、長い年月をかけて、市井にユマン族の血を引く者は広まっていったのだと考えられる。

 我が家は大丈夫なのかとモニカが見つめると、それに気づいたのか「我が家には騎士としての収入の他、姉上からの支援もあるので」と言って、安心させるように笑みを向けられたのだった。

「先程、店から出てきた子供たちの中にも、ユマン族らしき子がいましたね」
「えっ!? そうなんですか?」

 モニカは一瞬しか見えなかったが、身体能力に優れたカーネ族のマキウスには見えたのだろう。
 モニカの言葉に、マキウスだけではなく、店主も頷いたのだった。

「あのクソ餓鬼共も、ユマン族の血が入っているよ。この辺りにはそういった奴が多い……それ故に、苦労をしている者もな」
「苦労……」
「誰しも、ヒトは自分と違う生き物をなかなか認められない。それはカーネ族も、ユマン族も関係ない。
 自分たちには生まれつき持っているカーネ族特有の耳が生えてなく、自分たちが持ってないとされる魔力を持って生まれた者を、すぐに受け入れられる訳がない」

 外からは、子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。先程の子供たちだろうか。
 窓を一瞥した後に、店主は続きを話し始める。

「認められないんだ。ヒトは自分とは違う生き物を受け入れられない。自分の常識とは異なる生き物は認められない生き物なんだ。
 そこに種族は関係ない。全てのヒトがそうなんだ」

 どこか悲しげな顔で、店主はため息をついたのだった。
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